第8話 ドラゴンに遭遇したようです(2025.02.24修正)
第三層へ遂に足を踏み入れた私は、前世でいう白熊のようなフォルムで白熊より5倍はでかい魔物や、氷のツノを生やした鹿のような魔物など不思議な氷系統の魔法を持った生物たちを倒していきながら、当初目指していた山の頂上付近へとやってきた。
元々この三層は吹雪いていたが、このエリアはさらに激しく雪が荒々しく吹雪いていた。視界がだいぶ見えにくくなっている。見えない中でも、魔物たちは潜んでいる。私は《魔力感知》のスキルを発動して周囲の魔力を帯びた生命体が近くにいないか確認しながら進むことにした。このスキルは8系統以外の無属性、つまり特殊スキルだ。なんとなくイメージで、できないかな〜と考えたら使えるようになっていたので、《魔力感知》と命名した。想像力ってすごい…。
(一旦ここで休憩しますか…」
頂上まで後少しといったところに、雪と氷に覆われた巨大な岩の壁がそびえ立っていた。その中に黒く深い洞窟の入口が開いていた。洞窟の入口の周囲には氷の柱が無数に突き刺さり、まるで自然が創り出した神殿のような荘厳さが漂っている。中はだいぶ広そうだった。吹雪いていて何も見えない中進むのにはそろそろ飽きてきた頃だったし、丁度良い。この中を探検してみよう。そうして私は洞窟の中に足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
ぴちゃん…ぴちゃん…と氷が溶けて、水滴となって洞窟内に落ちている。洞窟の中は変わらず空気が冷え込み、けれど先ほどの吹雪からは脱したようで圧倒的な静寂に包まれていた。足元の氷を軽く踏みしめるたびに氷の表面が微かに軋んで音を立てる。洞窟内の空間は、まるで巨大な氷の宮殿のようだ。天井には無数の氷のつららが垂れ下がり、光を反射してキラキラと輝いている。氷でできた壁は磨き上げられたように滑らかだ。洞窟の内部は迷路のように入り組んでいるようで、分かれ道が何度も現れる。氷の壁が曲がりくねり、各所に氷の柱が立ち並んでいた。私はとりあえず適当に進んでいってみることにした。
(山の中はこんな感じになってたとは思わなかったなぁ…面白い)
しばらく道なりに進んだところで、目の前の道の先から光が指しているのが見えた。どこか光が洞窟内に入る場所に出るのだろうか。そうなると頂上に続いている場所なのかもしれない。そう思い、そのまま進んでいくと開けた場所に出ることができた。
洞窟を抜けた先に広がっていたのは、まるで異次元のような幻想的な氷の空間だった。鍾乳洞のように巨大な氷のつららが無数に垂れ下がり、どれもが透明で、まるで時間が凍りついたかのように静寂を湛えている。それぞれのつららは冷たい光を反射して、まるで巨大なクリスタルが吊るされているかのようだ。その光景は夢幻のように美しく、まるで星々が降り注いでいるかのように、氷の世界全体が輝きを放っている。
上から降り注ぐ光は、洞窟の上層から漏れてきたもののようだった。光が氷の表面に当たり、無数の反射が空間全体に広がり、まるで宝石箱の中にいるようで、神秘的な魅力を放っていた。おそらくここは、山の頂上の真下に位置している場所なのだろう。美しい光景に思わず見惚れていると、誰もいないはずの空間から不思議な声が聞こえた。
「このようなところに人の子がくるとは珍しい」
私はその声にギョッとして辺りを見渡す。この洞窟に入ってからも、一応《魔力感知》は発動させていた。特に魔物には遭遇しなかったけれど、このスキルに引っかからないなんて、通常の魔力を帯びた生物ではあり得ないはず。声の温度感からして敵意は感じなかったが、少し警戒しながら声の主を探す。すると、この空間の少し奥まった場所に、他のものよりも巨大な氷の柱が天井から床に向かって二つ直立していて、その間の大きな氷でできた台座のような場所に大きな生命体が鎮座していた。
(何…あれ)
ここではよく見えない。もう少し声の主らしき生命体の方へと進んでみる。すると、そこにいたのはなんと前世の物語で見たような、伝説上の生き物であるドラゴンだった。
「え…?ド…ドラゴン…?」
「人の子よ、そんなに警戒しなくても良い。何もせぬよ」
「ほ…本物…?」
私に話しかけてきたのはこの目の前の美しいドラゴンで間違いないらしい。白い美しい鱗がキラキラとひとつひとつ反射して煌めきながらも、冷たい輝きを放っている。冷気とともに微細な氷の粒子がドラゴンの周りに舞い散っている。透き通った空色の瞳をこちらに向け、優雅で神秘的なそのドラゴンは比較的柔らかな口調で再度話しかけてきた。
「このようなところに人の子が現れるとは、数千年前に一度あったくらいじゃろうか。面白いこともあるよのぅ。別に何もしないから、もう少し近くにくると良い。面白いものがみられるぞ」
なんだかとても友好的な口ぶりで、近くにこいと言ってくる。まるでおじいちゃんのような柔らかな話し方をするドラゴンに敵対心はなさそうだった。私は素直にドラゴンの目の前まで進んでみることにした。
「おや、まだ小さな人の子ではないか。こんなところにその歳で来れるのだから、相当強い魔力を持っているのだなぁ。」
「初めまして、気高き氷のドラゴンよ。ここはあなたの領域でしたでしょうか。勝手に入ってしまったならば申し訳ありません。私はグレイシア帝国第四皇女ルーナリア・グレイスと申します」
「グレイシア帝国…グレイスというと、もしやあやつの子孫か?数千年前にも一度ここに人の子が現れたのじゃ。この森の手前に国を作っても良いかと尋ねにきてなぁ」
懐かしいのぅというドラゴンの口ぶりはつい最近といった感じだが、内容的には私の先祖であるグレイシア帝国初代皇帝のことを言っているようだった。そういえば、グレイシア帝国にはこんな伝説がある。初代グレイシア皇帝はこの北の大地に国を築く際に、この土地を支配していた聖獣に許可を貰いに、その身一つでこの氷と雪の魔法の山に挑んだという話だ。そこで初代皇帝はドラゴンに出会い、この地に住むことを認めてもらったのだという。そうして、わが帝国の紋章には敬愛の証としてかのドラゴンが描かれることとなった。
実を言うとその話を聞いてテンションが上がり、初代皇帝と同じく第三層の雪山まで行ってみようと目標にしたのだった。
「それは多分、私のご先祖様かも知れませんね…?」
「おお!そうかそうか!あやつもなかなかに良い面構えをしていたなぁ。その銀髪に紫目はよく似ておるしのぅ。さて、それでお主はこんなところまで遥々何をしにきたのじゃ?」
不思議そうにドラゴンは問う。確かにこんなところまで普通の人は来ないよね…。
「私は、冒険をしにきました!」
「冒険か!はっはっはっ!それは面白そうじゃな!」
私の突拍子もない返答を聞いて、非常に楽しそうにドラゴンは笑う。
「あやつはわしをここの主人だと思い挑みにきたのだがな。わしはここの主人ではないのじゃよ。ここの美しさが気に入って入り浸ってはおるけどな?」
「そうなのですか?ではここの主人とはどなたなのでしょう?勝手に入ってしまって大丈夫でしたでしょうか…?」
「大丈夫じゃ。氷のはそこまで狭量ではないからなぁ。ちょうど今代替わりの最中なのだよ。あと少ししたら現れるじゃろうな」
どうやらこのいかにも氷の王と言えそうなドラゴンはここの場所の主人ではないらしい。
「代替わり?」
「さよう、人の子たちにどれだけわしらのことが正しく知られているかはわからんが、我ら聖獣は属性ごとに1体ずつ存在している。」
「1体ずつ…と言うことはあなた方は全部で8体いらっしゃると言うことでしょうか?」
「そうじゃ。わしは風の聖獣セレスティアル。ここの主人は氷の聖獣なんじゃが、数千年に一度の代替わりに入っておってな。わしはそれを見守っておるのよ」
セレスティアルと名乗ったその目の前の美しいドラゴンは、そう教えてくれた。
「そういえば、小さき人の子よ。お主は面白い魂なのじゃな。我らが主人に好かれているようだが…」
「主人…?誰です?」
「もちろんこの世界をお造りになられた我らが創造神様たちじゃよ」
「……創造神!?」
「そうじゃ、わしら聖獣はみな、創造神様の代行者としてこの世界を見守る使命を持っておるのじゃ。そなたからは創造神様たちの気配を感じるが…気づいておらんかったのか?」
なんだか転生した原因になりそうなワードが出てきたんだけど。創世神?そんな神様存在してたんだこの世界。そう言われても神様なんて知り合う機会なかったと思うんだけど。
(あ…そういえば)
ステータスの称号の中にあった『神々のお気に入り』ってやつか?なんか書いてあったような気がする。特に気にしてなかったけれど。
「私たちには神様については伝わっていないのです。創世神様とは一体どのような方々なのでしょうか?」
「ふむ…人の子たちにはもう伝わっていなかったか。まぁ神々が我ら聖獣にこの世界を託されていかれてから多くの時が流れたからのぅ。仕方ないことではあるな。まだ氷のが代替わりするまで時間があることだし、少し話してやろう」
そう言ってセレスティアルは、神々について語ってくれた。
異世界っぽい要素すぎるドラゴンきた〜!
聖獣やら神ワードも出てきて転生した感じありまくりを実感しているルーナリアでした。