第7話 魔法の修行は森でできそうです(2025.02.24修正)
鑑定魔法を習得してから時間が経ち私は4歳になっていた。あれから引き続き、魔法の勉強や実践を隠れて行っている。
(そうだ…森に行こう!)
私はついにそう決意した。ここ連日、魔法について学んだり実践したりを繰り返していたのだが、ついに室内でできる魔法はあらかた習得してしまったのだった。未修得の魔法は、高位魔法や攻撃系魔法などだけになってきた。詰まるところ、室内にいるのに飽きてきたところだった。
うちの城の裏手には森がある。この森は三層に分かれており、城に一番近い一層目には凶暴な動物やら魔物は存在しないらしい。そもそも魔物って存在するんだとこの世界について学んでいた時に知ったのだが、まだそういった存在は実際に目にしたことがない。もちろん城にいればそんな機会はないので当たり前なのだけれど。森の中腹になる二層目から、比較的攻撃性の高い動物や魔物が出現する。そして一面氷で覆われた山々がある三層目は、もっと強い生き物が生息している地域になるらしい。
ということでひとまず二層目まで行ってみて、動物やら魔物やらを相手に今まで練習してきた魔法やまだ未習得の攻撃魔法などを試してみたいと思う。
まだ子供の私が「連れて行って?」なんていったところで、そのような危ないところに連れて行ってもらうことはできない。もちろん仮に連れて行ってくれたとしても、魔法を練習中ということは誰にも知られていない…はずなので、魔法を使うことはできない。そのため、バレないように城から脱出して向かうことにする。
いつものように図書室に入りひとりきりになったことを確認した私は、図書室の窓から風属性魔法を使って浮かび上がり外へと脱出した。
(魔法って本当に便利だよね〜)
普段、一度図書室に入ったら4〜5時間は出てこないことをマリーもエディも他の周囲の大人たちも知っているため、特に気づかれることはないだろう。この年の子供がそんな長時間部屋から出てこないのも普通に考えておかしいのだが、我が家の子供たちは私含めてみんな普通の子供ではないことを周りも知っているため、あまりそこら辺は気にされていない。図書室には我が父お手製の防御魔法もかかっているし、安全だということも一人で何時間もいられる理由ではあるのだろうけど。
ふわりと空中に浮かびながら、周辺に人がいないことを確認しつつ注意して空を移動する。城の外を警備している騎士たちもいるため、引き続き風属性魔法で自分を浮かせつつ、同時に光属性魔法で認識阻害の魔法をかけている。認識阻害は光の屈折や反射を利用して背景と同化させるようなイメージで使っている。過去に勉強した理科の知識を応用している感じかな?こういった魔法の組み合わせや使い方は、実を言うと結構アレンジしている。もちろん魔法関係の知識は習得済みだが、実践となると目の前で誰かがやってくれるでも教えてくれるでもない。そのため、私は前世の昔の知識やイメージをフル活用して独自の魔法の使い方をしている。魔法入門系の本の読み飛ばしてしまった章に詠唱やら使い方やら書いてあったようだが、そこまで読んでいるのも飽きてしまった。
そうして、誰にもバレることないまま、城の上を通過して裏手の森へと進んだ。広大な森の奥の方を見やると、どこかで緑の木々から真っ白な世界へと変わっているようだった。そこからが三層目なのだろう。雪と氷に覆われた山々が、青白い光を放ちながらそびえ立っている。その姿は荘厳でありながら、どこか夢のように儚い。確かあの雪山には伝説の聖獣が住んでいるとか言い伝えがあったっけ?とりあえずは手前の森から攻略していき、ゴール地点として伝説が残るあの雪と氷の世界と目標設定しよう。
まだ結構距離のある真っ白な場所を遠目に確認しながら、緑豊かな一層目の入り口の上付近まで飛んできた。
(ふぅ…城からの脱出成功!)
この森は二層目以降に近づかなければ害はあまりなく、凶暴な動物やら魔物たちも一層目の方にはやってこない。そのため、普段からあまり人も配置されていない。しかし、一応もし誰かが来たら困るため、一層目の入り口からもう少し森の中へ進んだあたり、一層目と二層目の間で私は降下した。降り立った私が目を上げると、森はまるで生きているかのように静かに揺れていた。高くそびえる樹々の葉は、日の光を浴びて緑の天蓋を作り、隙間からこぼれる金色の光が地面に淡い模様を描いている。私は深く息を吸い込んだ。湿った土と若葉の香りが混ざり合い、鼻腔をくすぐる。
(ん〜!森のいい匂い!やっぱり外はいいなぁ!)
木々の香り以外にも甘やかな花の匂いがほのかに漂い、どこか遠くで水の流れる音が聞こえる。人一人いない森は静寂に包まれながらも、確かに生きているようだった。ふと、先ほど上空から見た氷と雪の世界、つまり三層目の方角を見てみた。つまり二層目の森が続く方角になるわけだが、そちらはまるで森が異なる表情を持っているようだった。密集した木々が光を拒むように絡み合い、深い影を落としている。
(あっちに進んでいけば、魔物にご対面ってことだろうな…)
さてどうしたものか。いきなり動物や魔物とやり合うのは流石にリスキーだろう。まずはこの辺で攻撃系の魔法などを試してみつつ、折を見て二層目にチャレンジすることにする。降り立った場所から数分歩くと木々が倒されて、適度に開けた場所があった。
(ここなら木も邪魔じゃないし、良さそうじゃない?)
ここは一層目とはいえ、城からはだいぶ離れた場所に位置している。少しうるさくしても気づかれることはないだろう。とはいえ気付かれるのは厄介なので、私はこの辺一体に認識阻害の応用で作った結界を発動させた。この結界は先ほど使っていた光系統に風と水を組み合わせて作っている。まず、光系統で周囲を透明な光の壁のようなもので覆い、ついでにその光の壁には認識した者が結界の位置を錯乱するような作用を展開する。そこに風系統で結界内の音などの遮断を行い、最後に水系統魔法を重ねがけして、水を霧にして視界をぼかし方向感覚を失わせる作用を加えると完成だ。こうすることで、この光の壁で作られたドーム上の空間は、まず認識できたものがここにあると思わせない錯覚の要素を持ち、さらにドーム内の音の遮断、そして仮にドーム内へ辿り着こうとすると方向感覚がわからなくなり結果辿り着けないといった絶対にこの空間には誰も入ってこれない結界だ!ちなみに今即興で考えた創作魔法である。
魔法を勉強する上で、全属性使えることがわかってから、こうやってそれぞれの系統を複合した創作魔法ができないかあれこれ考えていた。即興で作ってみたにしては結構いいものができた気がする。
「これでよし!さぁ始めるぞ〜!」
外部からの侵入に不安がない環境を手に入れた私は、早速心置きなく高位魔法や攻撃魔法の練習を始めることにした。
◇ ◇ ◇
初めて森に侵入成功してから、はや数週間。結構な頻度で森に通い続けている私は、順調に高位魔法や攻撃魔法を習得して、すでに二層目に入って動物や魔物と闘い始めていた。4歳児がすることではないけれど、ゲームの世界でいうレベル上げみたいな感じでガシガシと魔法を使っていった。
二層目に入り、初めて出会った動物や魔物たち。例えば、どうやったらこんなにデカくなるんだと言わんばかりのクマを氷系統魔法で串刺しにしてみたり、ゲームでよく見たような容貌のオークを火系統で消し炭にしたり、数十匹のツノが生えたうさぎみたいな魔物を風系統でトルネードを作ってで吹き飛ばしたり、これまた大きな猪を水系統で溺死させたりと、なかなかにえげつないことをした気がする。屈強な動物や魔物と戦う4歳児。やはり意味がわからない絵面である。
ひとまずは三層目まで辿り着くのが目標だ。そこまで進む過程で迫ってくる生き物を倒していけば、三層に行っても問題ないレベル感になるんじゃないだろうか。そう考えた私は、せっせと高頻度で森へ赴き進んでいった。
ちなみに、空を飛んでいくのはずるいと考えたから、森の中で進んだ場所に目印をつけて、またそこから先に進んでというのを繰り返していったのである。こういうのは時間をかけてクリアした先に、達成感が得られるものだと思うんだよね。
◇ ◇ ◇
「昨日は二層目と三層目の境目まで行ったから…今日は三層目にチャレンジしますか」
ついに二層目をあらかた探索し終えた私は、極寒の雪と氷の世界、更に得体の知れない魔物が多く生息すると言われる未開の地についに足を踏み入れることにした。氷と雪の世界に足を踏み入れる前に、私は火系統の魔法で体の周囲に穏やかな熱を発生させる。それによって体全体を一定温度に保ちつつ、風系統で冷たい空気を排除し寒気を遮断することで、極寒でも通常通りに動ける状態の完成だ。
極寒の雪と氷の第三層は、何から何まで凍っていた。吹雪が視界を遮り、地面は厚く積もった雪と滑らかな氷で覆われ、歩くたびにギシギシと雪が軋む音が響く。
(すごい…本当に全てが氷と雪で作られてるのね…)
周囲を見渡すと、氷の花々が雪の中に凛と咲いていた。まるで精巧な彫刻のような花弁が透き通る青白い輝きを放ち、風が吹くたびにわずかに震えている。木々もまた、すべてが氷でできていた。枝という枝は透明な氷柱と化し、僅かな光を受けて鈍く輝いている。風が吹き抜けるたびに、枝同士が触れ合い、鈴のような澄んだ音が響く。近くにあった氷の花に近づいてみる。よく見ると、氷系統の魔法が花自体に展開されているようだ。この凍った木々も花々も全て、生きている。それはとても幻想的で不思議な光景だった。不思議な光景ではあるが、この三層目には氷系統魔法を内に秘めた植物が生息している地域だ。全ての生きとし生けるものたちには魔力が存在している。それは植物も動物も例外ではない。動物の体内の魔力が変異したものが魔物とされているが、この三層目に住む魔物たちは氷魔法を使えるらしい。
遠くを見やると、雪と氷の層が幾重にも折り重なってできた壮大な山がそびえ立っていた。頂上は厚い雲に包まれ、その全容を見ることはできない。しかし、時折雲の隙間からちらりと覗く氷壁は、まるで青白い光を宿した巨大なクリスタルのように輝いていた。
(ひとまずあの山の頂上を目指してみましょう!)
周囲を警戒しつつ、私はひとまず目の前の氷山へ向かって進んでいくことにした。
魔法幼女は森に入り、動物や魔物と戦い遂に魔法の氷でできた雪山へ向かいます。