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第27話 皇妃にお仕置きが必要なようです

その後、私は家族や貴族たち、そして教皇たちに展開していた結界をゆっくりと解除した。


半透明の障壁が静かに霧散した瞬間、家族が一斉にこちらへ駆け寄ってくる。


「大丈夫か、ルーナ」

「ルーナちゃん、怪我は?」


ルークとルビーが口々に声をかけ、ルシウスはなおもシルビアを庇うように前へ立ちながら、鋭い視線をアデルへ向けていた。

少し遅れて、高位貴族たちの列から宰相ランベルトも足早に近づいてくる。


一方、教皇は神官たちに「猊下、ご無事ですか」と声をかけられながら、「問題ない」と穏やかに答え、どこか楽しげな表情で一連の出来事を眺めていた。


私は双子に向かって安心させるように微笑む。


(わたくし)は平気ですわ」


それから視線を落とし、意識を失ったままのアルフレッドを見る。

床にそのまま寝かせておくわけにもいかない。


私は軽く指を鳴らし、《空間収納》から柔らかなクッションを取り出した。

淡い光とともに現れたそれに、周囲が一瞬ぽかんとした表情になる。

その間に私はしゃがみ込み、そっとアルフレッドの頭の下へクッションを差し入れた。


「これでよし」


そう言って立ち上がり、くるりと向き直る。

そして、そのままゆっくりと――

アデルの方へ視線を向けた。


「アデル様」


そう呼びかけ、にこやかに微笑みながら歩み寄る私に、アデルは顔を青ざめさせ、後ずさった。


「い、いや……来ないで……」


震える声でそう言う彼女の前に、私は静かに立つ。

そして、さらに笑みを深めて告げた。


「アデル様、私――怒っています」


その一言に、場の空気がぴんと張り詰める。


「アル兄様のことなど考えず、ただご自身の欲望のために利用なさいましたね」


「……アデル様、私はあなたに怒っています」


言葉を重ねた瞬間、アデルの身体が大きく震え、ついには力が抜けたようにその場へ座り込んでしまった。


どうやら私は、無意識のうちに《威圧》の魔法を発動させていたらしい。

後に確認したところ、ステータスに新しく生えていた。


《威圧》は、単純に圧倒的魔力で持って相手へ根源的な恐怖を呼び起こすようだ。魔力が生命力と直結するこの世界において、それはいわゆる生存本能を刺激するみたいで、いかにアデルが高位貴族として豊富な魔力量を持っていようとも、私の力との差はあまりにも大きい。


直接向けられていないにもかかわらず、周囲にわずかに漏れた威圧だけで、何人かの貴族が顔色を失い、あまり強くないらしい神官の数名に至っては泡を食ったように気を失ってしまっていた。


(……少しやりすぎたかしら)


そう思いながらも、胸の奥に残る怒りは消えない。

だが、そのとき、ふと意識の端にアルフレッドの姿が浮かんだ。


(……アル兄様にとっては、たとえどんな人でも、一応は母親……よね)


どう処分するにしても、彼の意思を一度確認した方がいいかもしれない。

そう思い至り、私はふっと威圧を収めた。


突然空気が緩んだことで、アデルは逆に戸惑ったようにこちらを見上げる。

私はぱっと表情を明るくし、軽く手を打った。


「そうだ!」


思いついたように声を上げた私に、アデルはさらに怯えを強める。

私は彼女の前にしゃがみ込み、優しく微笑んだ。


「アデル様の処分は、後ほどアル兄様に確認してからにしますね。でも――私は怒っていますから、お仕置きは必要です」


そう告げると、そっと彼女の額へ指先を当てる。


「ひっ……!」


小さな悲鳴を上げるアデルに、私は楽しげに微笑んだ。


「アデル様を、素敵な悪夢へご招待――」


を静かに流し込んだ瞬間、アデルの瞳から光が消え、糸が切れたようにその場へ倒れ込んだ。

静まり返った室内で、私はぱっと立ち上がった。


「よし! とりあえずこれでいいでしょう」


そう宣言すると、隣でディアが呆れたように尻尾を揺らす。


「いや……いいの?それで」


そんなやり取りの最中、口を開きかけたルシウスより先に、シルビアが興味深そうに私へ歩み寄ってきた。


「ルーナちゃんったら、こんなにすごい子だったのね?」


彼女は倒れているアデルをちらりと見下ろし、それから私へ視線を戻す。


「この人に、何をしたの?」


私は少し胸を張り、得意げに答えた。


「アデル様はお父様がお好きみたいなので、目を覚ますまでずっと――何度も何千回も、お父様に振られたり、嫌われたりする夢を見るようにしておきました!」


その言葉に、周囲の空気がさらに凍りつく。

だが、シルビアはむしろ感心したように目を輝かせた。


「あら、そんなことまでできるの? すごいわね。……私も夢の中に出てきて、この人に打撃を与える場面を入れてもらえたりするかしら?」

「もちろんです! 何通りも用意できますよ。任せてください!」

「まぁ素敵。さすがルーナちゃん。やられたら何倍にもして返して差し上げなくてはね?」


柔らかな微笑みを浮かべたまま交わされる、若干物騒な親子の会話に、その場にいた貴族や神官たちは一様に顔を青くして固まっていた。

そんな様子を見て、ルシウスは小さくため息をつき、私とシルビアのもとへ歩み寄る。

そして二人の肩へそっと手を置き、苦笑混じりに言った。


「……お前たち親子は、本当にすごいな」


だが次の瞬間、彼の表情は皇帝としての厳しいものへと変わる。


「さて――今、この場で起きたことについてだが、お前たちにはいくつか契約してもらいたいことがある」


それから私を見下ろし、穏やかな声で続けた。


「ルーナ。この部屋全体に展開している魔法も、解除してくれるか?」


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