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第23話 教皇猊下は聖女のオタクのようです

アルフレッドの様子に違和感を覚えた私だったが、アデルのそばにいる彼へ今の時期に近づくのは少々難しい。


(……明日になれば、誕生祭で顔を合わせる機会もあるはず)


そう考え、確認は明日に回すことにした。

禁書庫を出た私は、そのまま中央図書館へ足を向ける。アデルと親しげに話していた神官たちのことも気になり、聖王教会について調べておこうと思ったのだ。

図書館の中は、いつもよりわずかに人の出入りが多い。誕生祭を前に、来客や随行者たちが調べ物をしているのだろう。


(聖王教会……)


教皇猊下を頂点とするその宗教は、聖女信仰を中心とした教義を持ち、主に南方諸国で広く信仰されている。国教として定めている国も少なくないと記憶している。

だが、グレイシア帝国では聖女信仰はあまり広まっておらず、宮廷でも表立って語られることは少ない。そのため、私自身も詳しい内容までは把握していなかった。


(聖女、ね……少し興味はあるけれど)


魔法が一般的に使われるこの世界において、「聖女」という存在がどのような位置づけにあるのかは、純粋に知的好奇心をそそられるものだった。

そう思いながら、聖王教会関連の書物が並ぶ書架へ向かう。高く積み上がる書架の間に入り込むと、そこにはすでに先客がいた。


「おや?」


書物から顔を上げ、こちらを見たのは一人の老人だった。年季の入った法衣を身にまとい、どこか柔らかな笑みを浮かべている。だが、なぜだろう――頭に乗せている髪が、妙に整いすぎていて、思わず視線がそこに吸い寄せられた。


(……あれ、もしかして――)


一瞬、どう見ても作り物にしか見えないその髪型に、私は内心で首を傾げる。

老人はそんな私の視線に気づいたのか、小さく咳払いをしてから、改めて穏やかに言った。


「珍しいですな。この区画は、あまり皇族がお越しになる場所ではないと思ったのだが…」


そう言って私を見つめる老人は、どこか面白がるような目をしていた。

私は軽く会釈し、礼儀として先に挨拶をしておく。


「どなたか存じませんけれど、ご機嫌よう」


すると老人は「はっはっは」と楽しげに笑い、改めて私を観察するように目を細めた。


「ルーナリア皇女殿下ですな。初めてお目にかかりますが、その色彩とお姿、皇帝陛下と皇后陛下によく似ていらっしゃる」

「そうでしょうか……それで、あなたはどなたです?」


そう尋ねると、老人は相変わらず愉快そうな笑みを浮かべたまま肩をすくめた。


「何、私はただの老いぼれですよ。ところで皇女殿下は、この書架に何をしにいらしたのかな?」

「見慣れない神官の方々をお見かけしましたので、聖王教会について学んでみようと思いましたの」


そう答えると、老人はわずかに目を輝かせ、満足そうに頷いた。


「それはそれは。もしこの老耄でよろしければ、少々ご説明いたしましょう」


どこか芝居がかった物言いに、思わず小さく笑みがこぼれる。


「では、お願いしますわ」


私が一歩近づくと、老人はゆっくりと本を閉じ、問いかけてきた。


「皇女殿下は、聖王教会についてどこまでご存じかな?」

「聖女信仰を基盤とし、主に南方諸国で広く信仰され、国教となっている国もある――その程度ですわ」

「その通り。よくご存じですな」


老人は満足そうに頷き、続けて尋ねる。


「では、聖女様のお姿については?」

「いいえ、詳しくは」


そう答えると、老人はどこか夢を見るような、羨望の滲んだ視線をこちらに向けた。


「聖女様のお姿は、このグレイシア帝国の皇族に見られるような美しい銀髪に近しい――真白き髪であると伝えられております」


その語り口からして、どうやらこの老人は相当に聖女という存在を敬愛しているらしい。


「なぜ聖女様は、そこまで教会で信仰されているのです?」


私がそう尋ねると、老人の表情は一瞬で恍惚に染まった。


「――聖女様は、奇跡をお使いになるのです」


老人は静かに、しかし確信に満ちた声でそう言った。


◇ ◇ ◇


「奇跡?」


そう問い返した、その時だった。

廊下の向こうから慌ただしい足音が近づき、図書館の静寂が一瞬で破られる。


「ルーナ!」


聞き慣れた声と共に、ルシウスが宰相ランベルトを伴って駆け込んできた。


「お父様!?」


私を見つけたルシウスは、安堵と焦りの入り混じった表情でそのまま私を抱き上げる。そして、先ほどまで私と話していた老人へ鋭い視線を向けた。


「娘と何をしていたのだ、教皇よ」


低く抑えた声には、明確な警戒が滲んでいる。


“教皇”と呼ばれた老人――先ほどの人物は、まるでそれを楽しむかのように余裕の笑みを浮かべ、何も答えない。今にも詰め寄りそうなルシウスを、背後からランベルトが静かに制した。


「落ち着いてください、陛下」


私はルシウスに抱かれたまま首を傾げ、老人へ視線を向ける。


「あら、あなた様は教皇猊下でしたの?」


あまりにも普段通りの調子で尋ねた私に、ルシウスとランベルトが同時に目を丸くした。緊張していた空気が、ほんの一瞬だけ緩む。

その様子を見て、教皇は愉快そうに笑った。


「はっはっは。ルーナリア皇女殿下はやはり、なかなか面白いお方のようだ。またお話ししましょうぞ」


そう言い残し、ゆったりとした足取りで書架の向こうへと去っていく。

教皇の姿が見えなくなると、ルシウスとランベルトはほぼ同時に深いため息をついた。

私は不思議そうに二人を見上げる。


「お父様、ランベルトおじさまもご機嫌よう。どうなさいましたの?」


すると二人は顔を見合わせ、すぐにこちらへ視線を戻した。


「ルーナ、何もされなかったか?」

「ルーナ姫、大丈夫でしたか?」


その声音には、はっきりとした焦りと心配が滲んでいる。私は小さく笑って首を振った。


「ええ、何も。ただ少しお話ししていただけですわ」


それを聞いた二人は、ようやく安堵したように肩の力を抜いた。

その後、私はルシウスに抱かれたまま彼の執務室へと連れて行かれることになった。どうやら図書館の司書が、外で待機していたエディへ知らせ、そこから陛下へと報告が上がったらしい。

執務室にはすでにエディも控えており、私の姿を見るなりほっとしたような表情を浮かべた。


「姫様、ご無事で……」

「大丈夫よ、エディ」


軽く声をかけると、エディは深く一礼する。ルシウスが「少ししたら迎えに来い」と短く告げると、エディは静かに退出した。

こうして執務室には、私とルシウス、そしてランベルトの三人だけが残った。


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