第14話 初のお茶会主催、気になる子たちがいるようです②
続いて足を向けたのは、貴族派の子どもたちのテーブルだった。
高位の家柄の子どもたちが座るその席には、お披露目の際にも言葉を交わしたアスセーナ公爵家のアンセルが、いかにも当然といった様子で中央に座っている。周囲の子どもたちは、彼の機嫌を損ねないように気を遣いながら席についているようだった。
(正直、あまり興味はないのだけれど……一応、顔は出しておいた方が良さそうね)
私はそう判断し、静かに席へ腰を下ろす。
すると、他のテーブルと同じように挨拶が始まり、アンセルを筆頭に、口々に会話のラリーが続いた。
「皇女殿下は、たいそう慈悲深いお方なのですね」
そう言ったアンセルは、先ほどまで私が座っていたフレデリックのテーブルへとちらりと視線を向け、まるで穢らわしいものを見るかのように薄く笑った。
「慈悲深い? そうかしら。私は、家柄だけで人を見るのがあまり好きではないの」
私がそう返すと、周囲の数人が、どこか嘲るような目線をこちらへ向ける。
どうやら彼らにとっては、理解しがたい価値観らしい。
(なるほど……権力を振りかざすのが好きなタイプね。やっぱり典型的なお坊ちゃんだわ)
そう思いつつも、何を言われようと、前世で大人として生きていた私にとっては、どこか子どもらしく可愛らしく見えてしまう。
そろそろいいかしら、と早めに席を立とうとしたそのとき、アンセルが思い出したように口を開いた。
「そういえば、今日はアルフレッド殿下はいらっしゃらないのですね。ご招待なされなかったとなれば、きっと悲しまれていることでしょう」
アルフレッドにも、もちろん招待状は送っていた。
だが、返事が届くことはなかった。彼は返信を怠るような人物ではない。おそらく、母親であるアデルの意向だろうと私は考えていた。
アンセルとは従兄弟にあたるアルフレッド。二人には交流があるのだろうか――そう思った矢先、アンセルは肩をすくめる。
「まあ、殿下はあまり出来が良くないと、叔母上も嘆いていらっしゃいましたからね。僕の方が優秀だと、いつも言ってくださいますし」
平然とアルフレッドを貶めるその言葉に、私は一瞬だけ目を細めた。
どうやらアデルは、自分の息子よりも甥を可愛がっているらしい。だからこそ、彼はこれほどまでに尊大なのだろう。
――いつも一人でいることが当たり前のような顔をしていたアルフレッドの姿が、ふと脳裏をよぎる。
その瞬間、私は今日初めて、アンセルという存在をはっきりと認識した。
もちろん――敵として。
私は静かにアンセルへ向き直り、にっこりと微笑む。
「アル兄様を出来が悪いとおっしゃるなんて。では、あなたはどれほど出来が良いのかしら。私のお兄様やお姉様くらい? ……そんなわけ、ありませんわよね。だって、あなたのお名前、私はそれほど耳にしたことがありませんもの」
一拍置き、さらに続ける。
「あなたの叔母上には、こうお伝えになるとよろしいわ。甥を可愛がるのも結構ですが――まずは、しっかりとした教育をなさった方がよろしいのではないか、と」
アンセルの顔が、みるみるうちに真っ赤に染まった。
私はそれ以上何も言わず、静かに席を立つと、そのまま次のテーブルへと足を向けた。
アンセルは、私に言われた言葉に憤慨した様子を見せながらも、初めて否定的なことを言われたのか、数秒ほどその場に固まっていた。
やがて我に返ったように、こちらへ歩み寄ろうとする。
しかし、私のもとへ辿り着く前に、ルークとルビーがすっと前に出て立ちはだかった。
「僕の妹に近づくな」
低い声でそう言ったルークの隣で、ルビーも涼しい顔のまま続ける。
「もうお帰りになってよろしくてよ」
そのまま二人は、アンセルと取り巻きを半ば強制的に会場の外へと誘導してしまった。
(……いつの間に)
どうやら二人は、ずっと私の様子を気にかけ、遠くから逐一確認していたらしい。
過保護な双子の行動に、私は思わず苦笑しながら、次のテーブルへと足を向けた。
次に向かったのは、同じく貴族派ではあるものの、子爵家や男爵家の子どもたちが集まるテーブルだった。
先ほどのアンセルたちの強制退場を目にしたためだろうか、皆、皇女の機嫌を損ねてしまったのではないかとでも思っているのか、どこか顔色が悪い。
(ちょっと怖がらせてしまったかしら)
そう思いながら席に腰を下ろすと、彼らは一瞬、驚いたように目を見開いた。
同じ派閥の高位貴族のテーブルの様子を見て、ここは通り過ぎられるものだと思っていたのかもしれない。
あわあわと慌てながらも挨拶をする彼らは、まだ派閥の色に深く染まっていないように見えた。
いくつか言葉を交わすうちに、次第に表情も和らいでいく。
その中でも、ひときわ目を引いたのは、カーネリアン子爵家の令嬢、ダリアという少女だった。
社交的で華やか、それでいて相手をよく観察しながら言葉を選ぶ話し方は、先ほどのフレデリックとどこか似ている。だが彼とは違い、彼女の瞳の奥には、どこか底知れない野心の光が宿っているように感じられた。
「ダリア、あなたはどんな大人になりたいの?」
そう問いかけると、彼女はぱっと目を輝かせた。
「私はいつか、さまざまな国と渡り合える外交官になりたいのです。そのために、語学の勉強もしておりますの」
外交官は、帝国の名を背負って他国と向き合う重要な役職であり、多くは高位貴族から選ばれる。
子爵家の令嬢がそれを目指すとなれば、並大抵の努力では叶わないだろう。
それを理解した上で、真っ直ぐに夢を語る彼女の姿は、とても魅力的に映った。
「そう……とても素敵な夢だわ。応援しているわね」
私がそう言うと、ダリアは一瞬驚いたように目を見開き、それから誰よりも嬉しそうに「はい」と微笑んだ。
(彼女も、側近候補にいいかもしれない)
そう思いながら、私は静かに席を立った。
最後に向かったのは、中立派のテーブルだった。
ここには高位貴族の子どもたちの中に、シャルロッテがいるはずだ。
そう思いながら歩いていくと、どうやらそのテーブルの周囲だけ、わずかに空気がざわついている。近づくにつれ、その理由がはっきりした。
――お披露目のときにも見かけた、シャルロッテの姉と、その取り巻きたちが、また彼女に絡んでいたのだ。
シャルロッテは困ったような表情を浮かべながらも、微笑みを絶やさず、小さく受け答えをしてやり過ごしている。
ちょうど私は、取り巻きたちの背後から歩いてきていたためか、彼女の姉たちはまだ私の存在に気づいていないようだった。
本来なら、皇女がテーブルを回っている最中は、今どこにいて誰と話しているのかを注意深く観察しておくべきだ。そうすることで、自分がどう立ち回るべきかを判断できるからである。
実際、双子の側近たちや、これまでに話した子どもたちの多くは、さりげなく私の動きを追っている視線を感じさせていた。
どうやら、シャルロッテの姉とその取り巻きたちは、そこまで気が回らないらしい。
一方で、シャルロッテ自身はすでに私の接近に気づいていたようで、それとなく姉に知らせようと視線や仕草で合図を送っている。それでも姉は、妹の意図に気づく様子がない。
そんな状態のまま、私は彼女たちのテーブルへと辿り着いた。
シャルロッテがいち早く立ち上がり、丁寧に挨拶をする。
それを見て、ようやく私の存在に気づいた姉と取り巻きたちが、慌てた様子で立ち上がり、次々と礼を取った。
私はその様子に小さく苦笑しつつ、何事もなかったかのように穏やかに会話を始める。
いくつか言葉を交わしてみても、やはりシャルロッテ以上に心を惹かれる人物はいなかった。
席を立つ前、私は彼女にだけ聞こえる小さな声で囁く。
「また会いましょうね」
シャルロッテはほっとしたように微笑み、静かに頷いた。
その後、中立派の子爵家や男爵家の子どもたちのテーブルも順に回り、こうして――私主催の初めてのお茶会は、穏やかなうちに幕を閉じた。
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