第3話 家族は全員美形のようです①(2025.02.20 修正)
マリーに抱かれて、部屋の外に出ていくと私の護衛をしてくれている専属騎士のエディが待っていた。透き通った水色の瞳に燃えるような赤髪の彼は、親しみやすい笑顔を向けながら話しかけてきた。
「ルーナ姫様、おはようございます。本日は庭園まで行かれるとのことですので、お供させていただきますね」
「あう〜!(よろしく〜!)」
「ルーナ姫様は時々私たちの言葉がわかるかのようにお返事してくださいますね。さすがは皇帝陛下の御息女です!きっと天才なんですね!」
「あら、エディ…何を言っているの……ルーナ姫様は生まれた瞬間からもちろん天才に決まってますわ!!そう、きっと神々が使わしてくださった天使なのよ!」
「なるほど!そうだな!さすが私のマリー!今日も素敵だよ」
「ちょっと…姫様がいる前でやめてちょうだい!そもそも仕事中ですよ!」
「ごめんごめん」
この二人は何を言っているんだろうか……。私専属であるマリーとエディは、私を挟んでよく『いかに姫様が素晴らしいか談義』をしている。二人とも仕事のできる優秀な人物なのだが、私のことになると若干おバカになるみたい。まぁ確かに中身は大人なので、赤ちゃん詐欺ではあるのだけれど。実を言うと二人以外にも私の周りの人々はこの謎談義を繰り広げているのだが、正直恥ずかしいのでやめていただきたい…。確かに自分で言うのもあれだが素晴らしいくらいの美幼女だと思うし大きくなってもきっと美人になると思うが、私にも羞恥心というものがあるのだ。
ただ、この二人の話を聞いていると前世での推しについての推し活仲間達との会話を思い出し、少し親近感がわく私だった。
「ねぇねぇ!!今回のコンサートの衣装みた!?!?軍服モチーフなんだが!?私たちファンを殺すつもりなのか!?」
「みた!やばいよね〜!?まじでファン心わかってるわ〜!衣装考えた運営に金一封差し上げたいぃぃぃ!!」
「氷月くんの尊さ…存在に感謝…」
「待って!!雷空様の俺様レベルがまた更新されてる…あぁ罵られたいぃぃ!!!」
「み、みんな落ち着いて…ていうか俺様レベルって何…?まぁとりあえず今日もsevensの素晴らしさと尊さに感謝しとこ」「「「「それ!!まじ感謝!」」」」
(うん、我ながら普通の人が聞いてたら、こいつら大丈夫か?って思われそうな会話してたなぁ)
それでも同じものを好きな人たちとの会話はとても楽しかった。前世でも人に恵まれた人生だったけれど、今世の私の周りの人たちも私に好意を持って接してくれているように思う。勿論、それは私自身の身分もあるだろうが、皇女としての私ではなくルーナリアとしての私をみてくれる人たちが私の一番近くに揃っていることは確かじゃないだろうか。この縁を大事にしていきたいと日々思っているところだ。
「大体あなたと言う人は!しっかりと仕事をしているんですか?」
「ひどいなぁ!ちゃんとしてるって!だからこそ姫様の周りには虫一匹忍び込んでいないだろ?」
「まぁ、それはそうですけれど…」
「敬愛する姫様と世界で一番愛しているマリーの近くには何人たりとも寄せ付けないさっ!」
「そのふざけた言い方が気に食わないのです!」
「あはは!怒った君も可愛いなぁ!」
ふと昔の思い出に耽っていたら、夫婦喧嘩…と言うよりはマリーが一方的にエディに怒っているだけなのだけれど…が始まってしまっていたようだ。私専属のマリーとエディは夫婦で私に仕えてくれている。そんなエディはマリーを溺愛していて尻に敷かれており、『いかに姫様が素晴らしいか談義』をしながら所々にマリーへの愛を入れてくるのもいつものこと。二人には私と同時期に生まれた娘シシリーという子がいるそうだが、その子も成長したら私の侍女にするんだと今から意気込んでいる。一度私のところへ連れてきたことがあるが、マリーの柔らかな茶髪とエディの透き通った水色の瞳を受け継いだ可愛らしい子だった。早く遊べるようになるのが楽しみだ。可愛いは正義だからね!
◇ ◇ ◇
私を抱いたマリーの後ろをエディがついてくる。そうして少し歩いていくと今日の目的地、庭園が見えてきた。グレイシア帝国の城には2つの庭園が存在するらしい。そのうちの1つが今回の目的地である薔薇庭園とのことだ。ここは私の父が、薔薇が好きな母のために作った庭園なんだとか。さすが皇帝、贈り物の規模がえげつない…。数多くの品種が咲き乱れるこの庭園の薔薇は現皇帝自らがその魔力によって作り上げ、枯れることはなく訪れる私たちを歓迎してくれている。魔法ってなんて便利なんだろうか。
グレイシア帝国の現皇帝ルシウス・グレイスは、帝国始まって以来の魔法と剣術の才を持つ皇帝であり、この大陸の北を治めている有力者の一人だ。私と同じアメジストのような紫色の瞳に煌めく銀髪の美丈夫なのだけれど、家族以外には冷酷無慈悲らしく、普段の無表情も相まって氷結の帝王なんて言われて恐れられているらしい。美形が無表情だと圧迫感あるもんなぁ。
そんな氷の皇帝が唯一笑顔を見せる相手が、私の母である皇后シルビア・グレイスだ。元々別の国の公爵令嬢だった母だが、学園に在籍していた際に同じく学園に在籍していた父に一目惚れをされ、熱烈なアプローチの末、めでたくグレイシア帝国へ嫁入りしてきたのだとか。あの無表情な父の熱烈なアプローチってどんなだったのだろうかと気になるところだが、いつか母に聞いてみたいと思っている。氷結の帝王を手懐けたと言ってもいい最強な母は、双子と同じ青の瞳に美しい金髪の柔らかな雰囲気を持った女性だ。その美しさは春の女神と例えられるくらいで、あの柔らかな笑顔が氷の皇帝の心を溶かしたんだろうな…。
私は色彩は父にそっくりだが、外見は母にそっくりだ。そんなわけで父が唯一笑顔を向ける相手は今まで母だけだったのだが、そこに娘の私も追加されたとのこと。父は忙しいので、なかなか会う機会はないのだけれど、会った時に見せる笑顔はもうこの世のものではないくらい美しい。最初は、そのこの世のものとは思えない美しさを正面から浴びせられてぶっ倒れていたのだが、少ししたら耐性がついてきて耐えられるようになった。前世から美形を積極的に拝み続けてきた私ですら慣れるのに時間がかかる美形の笑顔だなんて…。慣れるまでの時間はもう戦いだった…。イケメンってすごい。
そんな父と母の思い出の庭園に足を踏み入れた私たちだったのだけれど、先客がいたらしい。庭園の真ん中に立つガゼボでお茶をしている人たちがいるようだ。
「あら、どなたでしょう…」
「ここは皇帝陛下が認めた方々のみが訪れることができる場所だから、ルーク皇太子殿下とルビー皇女殿下ではないかな?」
私と同じように先客を見つけたマリーとエディが言う。私たちが近づいて行ってみると、銀髪の子供達がお茶をしているのが見えてきた。エディの言う通り、先客は私の兄と姉だったらしい。私たちはそのままガゼボへと近づいて行った。
父:ルシウス→氷結の帝王
母:シルビア→春の女神
正反対の異名を持つ父と母ですね。
次回は双子ちゃんたちのターンになりそうです。