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第6話 家庭内の顔合わせは波乱の幕開けの前兆のようです


やがて、遂に皇妃アデルと第三皇子アルフレッドを交えた顔合わせの食事会となった。


私の元へ迎えに来たのは、双子の兄ルークと姉ルビー。二人は私の両手を自然に握り、揃って歩き出す。廊下を進みながらも、二人の表情は相変わらず氷のように冷たかった。これは完全によそゆきの顔である。


(わぁ…凍えるような無表情。だけど今日も麗しい双子よねぇ)


食事会の部屋へと続く扉が開く。豪奢なシャンデリアが天井から降り注ぐ光を反射し、白と金を基調とした室内を照らしていた。すでに到着していたアデルとアルフレッドの姿が目に入る。


アデルはすぐに席を立ち、双子に向かって優雅な笑みを浮かべた。


「まあ、よくいらっしゃいました。お久しぶりね、ルーク皇太子殿下、ルビー皇女殿下」


続いて、アデルの傍らにいたアルフレッドも丁寧にこちらにお辞儀をする。アデルの表情からは、双子に対しては明らかな好意が見て取れた。父ルシウスに似た美しい二人は、彼女の中では『好ましい存在』なのだろうか。


(確かに顔はそっくりだもんな〜)


そして、私の存在は完璧に無視された。


(わぁ、嫌われてるなぁ。やっぱり顔がお母様似だからかな?)


ついつい私は心の中で苦笑してしまう。ここで表情を出すのはまずいだろう。腐っても帝国の皇女なのだ。我慢しなければ…。

すると、手を握っていたルークがふっと口を開いた。


「……皇妃殿下」


淡々としたその声には、冷え切った鋭さがあった。


「目が悪いのですか?」


皇妃の顔がぴくりと動く。


「……どういう意味かしら?」

「こんっなにかわいい妹のルーナが見えていないなんて、目が腐っているのでは?」

 

それにルビーも静かに頷く。


「ええ、どうやら皇妃殿下の視界には欠陥があるようですわね」


さらりと放たれた冷徹な言葉に、皇妃の表情が一瞬にして怒りに染まる。しかし、すぐに作り笑いを浮かべ、小さく息を吐いた。


「まあ、小さかったから気がつかなかったわ。お元気そうで何よりね、ルーナリア皇女殿下」


そして、ようやく私へと視線を向ける。けれど、その瞳には好意の欠片もない。


「ごきげんよう、皇妃殿下」


美人の顔面の圧強いなぁっと思いつつ、にっこりと微笑んで返すと、アデルのこめかみがぴくりと動いた。


(……わぁお、今すごく睨まれた)


でも美人の怒った顔は迫力があってこれまた良いと思う私は、やっぱり美形が好きなのだろう。

双子に手を引かれ、席へと向かう。背後から感じる視線は、まるで刃のようだったけれど、私にとっては春風程度の心地よいものだった。睨んでくるだけなら特段問題にはならないのだ。


やがて、部屋の扉が開かれた。


入室してきたのは、皇帝ルシウスと皇后シルビアの夫婦だ。ルシウスは今日も氷のように冷え切った表情を浮かべ、その完璧な美貌には一切の感情が読み取れない。一方で、シルビアは春の日差しのような柔らかな微笑みをたたえていた。二人は並んで歩き、まるで静謐と温もりが調和した、美しき一対の芸術のようだった。


(わぁぁ、今日もお美しい。自分の両親ながら美しすぎて目が潰れそう)


私は心の中で感嘆の息を漏らす。ちらりとアデルを盗み見ると、彼女はすごい形相でシルビアを睨んでいた。


(おおぉ、怖い)


アデルはシルビアの存在そのものが気に入らないらしい。その視線は炎のようにぎらぎらと燃えているが、シルビアはそれをまるで気にした様子もなく、静かに席に着いた。


(意外とお母様も強いんだよなぁ)


そのまま食事が始まる。部屋の中に響くのは食器の触れ合う微かな音と、控えめな会話のみ。ルシウスは私に視線を向けると、いつもの優しい父の顔ではなく、氷の彫像のような冷ややかな皇帝の顔で、淡々とアデルとアルフレッドへ向かって口を開いた。


「この子が第四皇女ルーナリアだ」


紹介の言葉は至極簡潔で、まるで事務的な報告のようだった。その言葉とともに、アデルへと向けられたルシウスの紫の瞳は、まさに凍てつく刃のよう。アデルは一瞬体を強張らせたが、すぐに取り繕い、無理に微笑みを作った。


「まあ、お会いできて光栄ですわ」

「ごきげんよう、皇妃殿下。こちらこそお会いできて嬉しいですわ」


私は笑顔を浮かべながら、丁寧に挨拶を返す。


(すでに3回目の挨拶なんだが……)


表面上は何の問題もないやり取り。しかし、私は内心ヒヤヒヤしていた。ルシウスの冷たい視線がアデルを射殺すがごとく向けられていたからだ。これでは、アデルが傷つかないはずがない。


(おぉっと、お父様。冷たい、凍ってしまいそうな視線だぞぉ!)


実際、アデルの表情がわずかに揺らぎ、唇を噛みしめるのが見えた。そして、その怒りを静かにシルビアへと向ける。


(アデル選手、その怒りをシルビア選手へと向けました!果たしていかに!)


シルビアはそれすらも気にした様子はなく、穏やかな笑みを崩さない。アデルの視線など、まるで最初から存在しないかのように。


(シルビア選手、強い!全く動じません!2対1の戦いではアデル選手に不利な戦いすぎますね)


結局、食事会は特段何事もなく終わった。だが、会話も少なく、緊張感に包まれた時間だった。私は、あまり食べた気がしない。両親たちの冷戦状態が酷すぎて、いちいち心の中で実況してしまったではないか…。


アデルは食事が終わると、アルフレッドを残して足早に退出してしまった。


(え、置いていくの?置いていっちゃうの?アルフレッド兄様可哀想すぎますよ!?)


しかし、アルフレッドは特に動じることもなく、まるで「いつものことだ」とでも言うように静かに座り続けていた。


対照的に、私は両側から双子にチヤホヤされていた。


「ルーナ、本当にかわいいな」

「ルーナちゃん、もっと食べなくて大丈夫だった?」


兄と姉に甘やかされる私は、アルフレッドとまるで対照的な状況にいる。それを思うと、少しばかり気の毒に思えてしまう。


(まぁ、双子は性格も父似だし、興味ない者は基本視界に入れないタイプだもんなぁ)


その後、ルシウスはシルビアと共に立ち上がった。


「お前たち、また明日な」


短くそう告げると、私たち三人の頭を優しく撫で、そして、愛する妻の手を取って退出していった。


(いや、あなたの息子はあちらにももう一人いたのだが……)


残ったのは子供たちだけ。双子はそろそろ帰ろうと私を促す。

だが、このままではアルフレッドと話す機会がない。


(せっかくこのブローチつけてきたのに…。送り主がアルフレッドお兄様なのか聞けないじゃない)


私はアルフレッドに向き直り、軽く笑って言った。


「では、また明日。機会があればお話しましょう、アルフレッドお兄様」


そう言って、双子と共に部屋を後にする。

その姿を、アルフレッドは無表情のまま、ただ静かに見送っていた。


冷ややかな両親たちの無言の戦いを実況中継のごとく心の中で楽しむルーナリアさんでした。

ちなみにディアはお部屋でお留守番です。



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