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第5話 どうやら家庭内の問題は根深いようです


父ルシウスの腕の中に抱かれながら、私は皇帝の執務室へと入った。扉の前にはルシウス付きの近衛騎士が二人並んでおり、ルシウスと私に向かって恭しく頭を下げる。


「陛下、ルーナリア皇女殿下」

「あぁ」


無表情に返しながら、ルシウスは扉を開け、私はそのまま執務室へと運ばれるように入室した。

室内には、一人の男性が机の前に立ち、書類を整理している。宰相であるランベルトだった。


「陛下自ら飛び出していくとは……まったく、落ち着きのない」


ランベルトはそう言ってルシウスを見ながら苦言を呈したが、その声色はどこか親しい友人へ向けるもののように柔らかく気やすかった。そして、私の存在に気づくと、口元を緩めて言葉を続ける。


「ルーナ姫、ご機嫌麗しゅう。とんだ災難でしたね?」

「ランベルトおじ様も、ごきげんよう。特段問題はありませんわ」


軽く会釈を返した私の後ろには、彼の妻セレスティーヌとその息子のサフィリアンがいた。ランベルトは彼らに目を向け、「すまないな」と軽く頭を下げる。


「問題ないわ」


セレスティーヌは優雅に微笑み、サフィリアンも穏やかに頷いた。


「まあ、座ってくれ」


ルシウスの言葉に従い、私たちは執務机の前に置かれたソファに腰掛けた。ディアが私の腕の中からソファーへ飛び降り、ルシウスは私を自分の隣に降ろした。ソファーに飛び降りたディアは、座った私の膝の上に丸くなって落ち着く。ルシウスは真剣な眼差しでランベルトを見た。


「それで、騒ぎとは何だったんだ?」


ランベルトが問いかけると、セレスティーヌがゆっくりと説明を始めた。


「リアンが、婚約者であるルビー皇女殿下と親友のルーク皇太子殿下に会いに行くと言うから、私もシルビア様にご挨拶がてら同行しましたの。そして城に到着し、いつもお会いする部屋へ向かうための通路を歩いていたところ……アルフレッド皇子殿下を連れた皇妃様にばったり出会いました」


その言葉に、ルシウスとランベルトがわずかに表情を険しくする。


「対立する派閥の者とはいえ、彼女は皇妃です。ですから、私とリアンは礼儀として挨拶をいたしましたわ。そうしたら……」


セレスティーヌの声が僅かに冷たくなる。


「皇妃様はリアンを見つめて、『ローザリア公爵令息は定期的にお茶会を主催していると聞いておりますわ。なぜ私の息子アルフレッドには招待状が届かないのかしら?』と……」


「「はぁ……」」


ルシウスとランベルトが同時に頭を抱えた。


「なぜか、とは……」


ランベルトが呆れたように呟く。


「当然ですわ。リアンのお茶会は、未来の同派閥の者たちとの交流を目的としたもの。それに、回数は少ないけれど形式的なお茶会では、他派閥の子息もアルフレッド皇子殿下も招待しております。ですが、皇妃様がおっしゃったのは、リアンが個人的に親しい者を集めて開く茶会のことでしょう。それならば、親友であるルーク皇太子殿下や婚約者のルビー皇女殿下をお誘いするのは当然ですが、アルフレッド皇子殿下を誘う義理はございません」


セレスティーヌが淡々と語ると、ランベルトは深々とため息をついた。


「まったく……皇妃様は本当に非常識だな」

「昔からだ」


その言葉にルシウスが呆れたように言う。


「あの女は周りが見えておらず、親から甘やかされて育った結果、わがままばかりだ。しかも、周囲の貴族たちから有ること無いこと吹き込まれて、それをそのまま鵜呑みにして権力を振り翳そうとする。正直、我慢ならない」


そう言ったルシウスの顔には、明らかな怒りが浮かんでいた。


「おおかたリアンのお茶会のことだって、周りの者から何か言われて突っかかってきたに違いない」

「だろうなぁ」


ルシウスの言葉に遠い目をして同意するランドルフ。続いてルシウスはさらに顔を顰めながら言った。


「特に許せないのは、我が最愛の妻シルビアを逆恨みしていることだ。学生時代から何かとシルビアに危害を加えようとしてきた。私がシルビアに惚れて結婚までこぎつけたと言うのに、なんでシルビアに逆恨みをしているのか意味がわからない。そもそも私はあの女が嫌いだと言うのに。早く排除したいと”常々”思っている」


(お父様、常々ってめっちゃ強調して言ったよ…本当に排除したがってるんだなぁ)


ルシウスの強い言葉に、ランドルフも頷く。


「陛下が皇位を継がれたばかりの頃は、まだ貴族たちの掌握が不完全だった。だからこそ、対立派閥筆頭の娘を皇妃に据えることで一時的に抑え込んだんだ。しかし……」


ランドルフの視線が鋭くなる。


「そろそろ、本格的に動き出してもよい頃合いかもしれないな」


私は小さく瞬きをした。どうやら、親の世代のゴタゴタは想像以上に根深いもののようだった。

そんな話の最中、扉の外で近衛騎士の一人が声をかけた。


「ルーク皇太子殿下、ルビー皇女殿下がお見えですが、いかがなさいますか?」

「通してくれ」


ルシウスの言葉で、私の双子の兄と姉が入ってくる。


「リアンが執務室にいると聞いたので迎えに来ました」

「あら?ルーナちゃんもいるじゃない!」


ルークが穏やかに言ってリアンを見つめ、ルビーは私がルシウスの隣に座っているのを確認して喜んだように言った。

続いて、マリーとエディの姿もやってきた。私を迎えにきたようだ。


「そろそろ戻りなさい」


ルシウスがそう言いながら、ルークとルビー、そして私を見据える。


「今夜の顔合わせの食事会では皇妃に気をつけろ。何かされたらすぐに言え」


私たちは真剣な表情で頷いた。

こうして我々はルシウスの執務室を退室し、それぞれ、私はマリーとエディと共に自室へ戻り、双子とサフィリアンはいつも3人が過ごしているルークの自室へ、そしてセレスティーヌは母シルビアの元へと向かったのだった。

皇帝の執務室での一幕でした。次回は波乱?の顔合わせです。


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