家族との「おはよう」 ~小学生の思い出~ ②
学校が終わると家と学校の間にある母方の祖父母の家に向かう。祖父の昌夫まさおは病気がちで入退院を繰り返しており、体調が常に不安定だった。だからいつも家にいた。そんな祖父の様子が気になったのもあり、家に帰る前には祖父に会いに行く。
祖父母の家の入り口には紫のカーテンのような藤棚があり、そこを潜ると花畑のようにたくさんのカラフルな花が咲き乱れている。その場所はまるで別世界に来たかのような空間で一歩入るだけで心が明るくなり幸せの気持ちでいっぱいになる場所。
「じいじ、ただいま!」とインターホンを鳴らさずに勝手に玄関のドアを開けてリビングに入る。
「おお、おかえり」と祖父は笑顔で迎えてくれる。
「今日ね、学校でね。こんなことがあったんだよ」
「そうか。今日も楽しそうで良かったさ」
祖父にジュースとお煎餅を出してもらい今日の出来事を一方的に話す。祖父はどんな話も僕の顔を見ながら真剣に聞いてくれ、僕はそれが嬉しくてたくさん話をする。そして話が終わると、祖父と一緒に祖父の趣味である植木や花々に水をやる。これが僕とじいじとの当たり前の日常。
「こんにちは、お花さん! 今日もキレイだね! じいじの愛情のおかげだね」と植木や花々に声をかける。
祖父はニコッと微笑み僕の頭をポンポンと優しく撫でながら「お花も人も褒めてもらうと嬉しいものさ。もっと声を掛けてもらおうとキレイに見せようと自分磨きをするのさ」と言った。
「そうなの? じゃあたくさん声を掛けないとだね」
「そうだな」
順番に水やりをしていると液体肥料がなくなっている鉢植えを見つけた。
「じいじ、この鉢植え、栄養剤がなくなっているよ。そこのお店で買ってこようか?」
液体肥料という言葉を知らない僕はずっと花の栄養剤だと思い込んでいた。まぁ意味は同じようなものだけど。
「おお、そうか。一人で買い物に行くのは危ないから一緒に行くさ」
祖父はそう言って部屋に財布を取りに行き、一緒に五分以内に行ける何でも商店に向かった。車一台分が通れる幅の道を100メートルくらい歩くと大通りに出る。祖父が道路側を歩こうとするので僕が道路側を歩くことにした。これは祖母がいつもやってくれる。大切な人を守るために自分が道路側を歩くという行動。
「俊、危ないからお前は内側を歩きなさい」という祖父に対して僕は「ばあばがね、大切な人を守るために道路側を歩くって教えてくれたんだよ」と伝える。
「おばあさんもたまにはいいことを言うな」と言い、そのまま店へと向かった。
祖母の一恵かずえは看護助手の仕事をしており、ほとんど家にいることはなかったけど家にいる時はいつも僕や星耶のために味噌おにぎりや手作りのお菓子を作ってくれた。正直なところ、その食べ物が目当てで祖父母の家に毎日遊びに行っているともいう。
祖母が仕事が休み日のこと。
いつものように「じいじ、ただいま!」とインターホンを鳴らさずに勝手に玄関のドアを開けてリビングに入る。
「おかえり」とくしゃくしゃの優しい笑顔をみせる祖父。
「おかえりなさい」とキッチンからひょこっと顔を出す祖母。
「ばあばがいる!」
「今日はお休みなのよ。さて、味噌おにぎりにする? ドーナツを一緒に作って食べる?」
「うーんとね、ドーナツの気分!」
「あら! 奇遇ね! ばあばもちょうど食べたかったのよ。おじいさんもドーナツでいいわね?」
「おお」と相撲中継をみながら返事をする祖父。
「じゃあ作りましょう!」と祖母は立ち上がりキッチンへと向かう。
「うん!」
祖母がいると祖母が好きな洋菓子や甘いものが出て来る。
「ばあばが作るお料理はすっごく美味しいね」
「ばあばはね、食べてくれる人のことを思って愛情いっぱい入れているのよ」
「ばあばの愛がたくさんなんだ! 僕は本当に幸せ者だね」
「ばあばは俊や皆の美味しいって言って嬉しそうに食べてくれるのが幸せなんだよ。それにね、俊のくしゃくしゃの優しい笑顔が大好きなの。だからね、たくさん作っちゃうのよ」
祖母はそう言って満面の笑みを浮かべる。