側にいないと見えないもの ①
何か月も経ち――。
母からのメッセージが来なくなった。
電話をしても『電波が届かないところにあるか電源が入っていないためかかりません』というメッセージが返って来る。心配になり、父に連絡をすると母が倒れたと聞かされる。
すぐに実家に帰ると、珍しく父が母についてと介護について説明してくれる。母は祖父母の介護と仕事で体が限界に来てしまい、倒れて入院してしまったこと。母は病気ではなく過労での入院ということ。母がこの状態では元の生活が出来なくなるため、おばあさんを老人ホームに入れなくてはならないこと。
そして、メッセージが届かなくなった理由は病院という場所でスマホを使えないということ。母の入院する病院では携帯電話を完全に使用禁止になってはいないが、病院で働く母は携帯電話を使うのはよくないという考えから、電源をオフにしているらしい。なんとも母らしいともいえるが。病院で入院している母は数か月でまた老けた気がした。
「具合はどう?」
「ごめんなさいね。心配かけて。心はとっても元気ですよ」
「もういい年なんだから、無理はしちゃダメだよ」
「あらあら。息子に叱られちゃう日が来るなんてね」
「叱ってなんかいないよ。心配しているだけだよ。母さん、僕がこっちに帰った方が……」
「こら! 親の心配なんかするものではありません! 俊も星耶も夢のために東京にいるのでしょう! ちゃんと夢を叶えるのが親孝行ってものですよ!」と母はニコッと笑って見せる。
「心配するな。任せろ」と珍しく父も微笑みながらそんなコトバを言った。
「ありがとう、頑張るよ! 自分しかできないことを精一杯!」と僕は答えた。
僕にはスクールカウンセラーになる夢があった。
とある実習で一人のサッカー少年に出逢った。彼は小学六年生、身長は150センチ。いつもサッカーのユニフォームを着ていた。
「結翔くんはいつもサッカーのユニフォームを着ているね」と声をかけると「うん。親の趣味だからね」と笑いながらいった。
「結翔くんが好きで着ているわけじゃないの?」
「うん。俺はゲームをするのが好きで最近はパソコンを使ってUnityでゲームを作るのが好きなんだ。でもね、親の好きなサッカーをやらされているんだよ。本当は運動全般が不得意なんだ。特にサッカーが苦手でね、チームのメンバーにもクラスメートにもバカにされて学校へ行かなくなった。けど親は学校いけだの、サッカーの練習だけでもいけだの煩くて無視した。そしたら心の病気だからってここに連れてこられた。ねえ、僕って心の病なの?」
親は子供になんてことをいったんだろう。悔しくて歯をぎゅっと食いしばる。
「結翔くんは心の病気なんかじゃないよ。それに嫌だったら学校には行かなくていいだよ」と経験が足りない僕は当たり障りのないコトバしか出てこなかった。
「本当に! 先生がそういうなら安心だ!」と満面の笑みをみせる。
その後も何度か結翔くんに会ったがいつも元気いっぱいで笑顔で溢れていた。そんな結翔くんは中学校に入る直前に自ら命を絶った。僕は結翔くんのSOSに気がつくことが出来なかった。結翔くんが最後のカウンセリングで行ったという箱庭療法の画像をみせてもらった。笑顔の裏に隠れていた心に気がつくことが出来なかったことに絶望した。
それから暫くの記憶がない。
毎日、浬音が家にやってきた。そんな気がする。
「私はヒゲモジャの人は嫌いだよ。いつになったら髭を剃ってくれるのかな?」
何か聞こえてくるような気がするけど、布団を被り、目を閉じ、耳を塞ぐ。
「俊!」と呼ばれたと同時に布団を剥がされ、頭突きをされる。頭がジンジンと痛む。
「俊、生きている私たちに出来ることをしよう。今の俊じゃ、何も出来ない何も変わらないよ。過去は変えられない。なら過去を大切にしながら未来へ進んでいこう。生きている俊にしか出来ないことやろう!」
浬音が泣きながら僕のカラダを揺らす。
浬音のコトバで僕は我に返り、目標を立て未来へ進むことを決意した。




