家族との「おはよう」 ~小学生の思い出~ ①
午前七時。ピピピピピピ――。
目覚まし時計の音が部屋中になり響くが僕は夢の中。
目覚まし時計は僕にとても優しく、起こされた記憶がないくらいだ。目覚まし時計がなりはじめてから数分後、母は階段を上がって僕の部屋にやってくる。そっと部屋のドアを開け、目覚まし時計を止め、音が聞こえるくらいにカーテンを勢いよく開ける。僕もそうだがカーテンは静かに開けるより、シャっと勢いをつけて開けたくなるのはなんでだろう。目覚まし時計よりこの音で目が覚める。覚めるといっても一瞬ですぐに夢の中へ戻っていく。そして僕は布団に潜り込み、ふわふわ毛布を抱きかかえスヤスヤと寝はじめると。
「おはようございます! 朝ですよ! 起きる時間ですよ」と母は太陽に明るさに負けないくらいの声で声をかけてくる。
看護師をしている母はどんな時でも明るく元気いっぱいで爽やかな風を運んでくる。その性格は本来のものなのか職業病なのかはわからないがとにかく元気でお節介好きな人だったりする。そして母は誰に対しても敬語を使うというルールがある。誰に対しても敬意を払うという、そのままの意味が含まれているそうだ。もちろん、それは他人だけにではなく家族にもそのルールが適応されている。といっても僕はタメ語を使っていたけれど。
母はバサーっと布団をはぎ取ってからキッチンへ戻っていく。僕は一度布団にもぐりミノムシのように布団を体に巻き付ける。数分後に母がまた起こしに来る。コップ一杯の氷水をおでこに乗せられるのでコップを受け取り、僕はなんとなく起きる。まだ目が開かないので冷え冷えの氷水を一気飲みしてから目薬をさす。
「おはようございます、俊しゅん」
「おはようございます……お母さん」
「今すぐ起きないと昨日買った美味しいクッキーはお母さんが食べてしまいますよ」と母は言いながら部屋を出ていく。
「今すぐ起きないと、帰ってきてもおやつはないですからね」と部屋を覗き込みながら最後通告をしていく。
別におやつが欲しいわけではないけれど、ないよりはあったほうが心もお腹も幸せになる気がするのですっと布団から起き上がる。カーテンが開いた窓からは目が開けられないくらいの太陽が眩しく光って、僕の寝ぼけを覚ます手伝いをしてくれる。顔を洗いダイニングへと向かう。
朝ごはんは母と僕の弟と星耶せいやの三人で食べる。父もいるが仕事場が遠いため一人で朝ごはんを食べ、僕らが食卓につくと同時くらいに家を出ていく。
母は仕事をしていたけれど日勤のパートで勤務していた。僕と星耶が学校へ行くのを見送り、家に帰ると母が家で待っている。寂しい思いをしないようにと僕らがいない日中だけ働いていた。
「いってらっしゃい」と母は玄関先で手を振りながら僕らを見送ってくれる。
「いってきます」と僕らも手を軽く振りながら家を出ていく。
その頃は県営団地の三階に住んでおり、僕らが階段を降りて集団登校をする子たちと合流するまで、母は階段の柵からいつも笑顔で僕らがみえなくなるまで手を振り続けてくれた。
これが小学校の時の僕の朝の光景だった。