彼女の「おはよう」は特別なモノ ②
午後七時の終業時間になると母から『今日も、お仕事お疲れ様でした!』とメッセージが届く。
そんなメッセージが送られてくる頃、仕事が終わっていれば幸せなのになと思いながら毎晩遅くまで仕事をし、家に帰る。家に帰ると浬音と一緒に夕ご飯の支度をしていると『おやすみなさい☆』というメッセージが母から届く。
時計を見ると、午後十時を過ぎている。僕と母との時間がこんなにもズレているというのに、その時は特に驚くこともなかった。
ご飯の準備を終え、席につくと浬音は必ず手を合わせて「いただきます」と言ってからご飯を食べはじめる。そして食べ終わると同じく手を合わせ「ご馳走様でした」と言う。浬音に強制されたわけではないが僕も自然とその習慣が身についたのか「いただきます」「ご馳走様でした」と言うようになった。
「いただきます。っていうのなんかいいよね。ご飯が美味しく感じる気がするよ」
「でしょ! 私はご飯が食べられるのはたくさんの人のおかげだと思って、その一人ひとりに感謝を込めて言うようにしているんだよ」
「たくさんの人というのは、野菜を作ってくれる農家さんとかそれを運んでくれる運送の人や管理して供与してくれる人とかのこと?」
「そうそう! 人は一人では生きていけないから。毎日たくさんの人にお世話になって生きているわけでしょ。たくさんの人に感謝をしたいけど、一人ひとりに言うのは難しいから……せめて、いただきます。ということで気持ちだけでもコトバに出そうと思っている。そんなんじゃ伝わらないでしょ。とも言われたことがあるけど、当たり前を当然だと思って何も感じないとか言わないとか、それは私が納得いかないので自己満足だとしても言うようにしているんだよ」
「僕はその考えはステキだと思うよ。あって当たり前、やってくれて当たり前ではないよね。その環境をつくってくれる人が必ずいるわけだから感謝の気持を持つことも、可能ならコトバで伝えることが出来るなら伝えたいと思うよ」
「うんうん! 共感してくれるだけでなく理解をしてくれる! だから私は俊が大好きなの!」
「ありがとう! 僕も同じ感覚の人に出会えて本当に幸せだよ」
浬音はグーの手を差し出してきたので、僕もグーの手を突き合わせてフィスト・バンプをする。浬音は嬉しそうにニカッと笑う。
「あのね、前にも話したけど私は星や宇宙が大好きでしょ。それで何万光年先の先が見える望遠鏡の話をある程度仲良くなった人に話すようにしていてね。『何万光年先のある星が目には見えているけど、向こうの星は消滅しているかもしれないね。そう考えたらその星を見たことも、今という時間も奇跡的だね』とか言うと大抵の人はポカンとするんだよ。言っていることが理解できないのか、私が何を言ってるの? アホなの? とか思われているかのどちらかなんだろうけど。でもその会話に『もしお互いが星を見ていて会いたいと思っても会うことは不可能だけど、お互いの星を見つけたというミラクルはとてもステキなことだよね』と言ってくれた人がいたんだ。あ~感覚が一緒ってこういうことなんだよ! ってはじめて思った!」
「その気持よくわかる、僕も日本人なのに感覚が合わないこと多くて。理解してもらえなくて変人扱いよくされたんだよ。でも浬音に出会ってそれがなくなった。これって運命ですかね?」
「私の大好きなコトバでまとめると! ステキミラクルじゃあ!」
浬音はそう言いながら僕にダイブしてくる。そして猫のようにスリスリをして丸くなる。浬音は嬉しいと猫のようになるのがとても可愛い。
夜も甘々な時間を過ごしながらご飯を食べ終えると「ごちそうさまでした」と僕らは両手を合わせる。片付けを終わらせ、お風呂に入って、午前一時を過ぎるまで浬音とおしゃべりしながらテレビを見てゲームをして、午前二時に就寝。
浬音は「おやすみ」と言って僕の頬にキスをする。僕は「おやすみ、大好きだよ」と言って、朝同様に鼻と鼻でキスをする。「へへ、私も大好きだよ」と浬音は僕を抱き枕のように抱き、ギュッと抱きしめてくる。
これが僕の当り前の日常となっていた。
僕の生活が変わっていっても、母の一日の時間も送ってくるメッセージも変わることがなかった。
だから、母はいつも元気でいつも通りだって思いこんでいた。




