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コトバがあるということ  作者: かなたつむぐ
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文字の「おはよう」 ~大学生の思い出~ ③

「ま、まさか……学園祭の準備は入学早々からだなんて」とアイは大きなため息をつく。

「今それをいうのか! 今までと規模が違うから、仕方がないね。アイがやるっていったんだからアイが最後まで責任持ってやらないとね」


「うう。みんなのアイドル、アイちゃんがんばりゅ」

「ファイト! みんなのアイドル!」


「しゅんしゅん! 代わりに会議とか出てくれてもいいんだよ?」

「僕は実行役だから、近くなったら力を出しますよ。それに教授お墨付きのアイディアマンなのでそちらでお役に立ちましょう!」


 僕はとある心理学の授業で心理実験のアイディアを発表した。過去の論文を読み漁り、いろんな実験をキメラのように組み合わせながら自分なりのアイディアを入れるという、少しズルイ、ポジティブに言えば賢いやり方で好評をもらっていた。そのため教授に「お前はアイディアマンだ!」と言われたのだ。折角なのでそれを利用することにした。


 そしてこの何気ない「アイディアマン」というコトバが僕の未来を大きく変えるものとなる。


 学園祭ではチョコバナナをやりたいと女子たちの提案で決まった。学園祭当日、チョコバナナをお祭りの屋台のように並べたが売れ行きがよくない。そこで僕は希望者にはパフェにしたらどうかと提案した。少し見た目やトッピングを豪華にしたいので値段は少し上がるが、買う人の好みに合わせて好きなものを作るというものにした。透明な紙コップを使い映えるような見た目にもこだわり、売り歩きもした。すると売上が何倍にもなった。


 その時、色んなアイディアを考えることも楽しいと知ることが出来た。同じ四角を見たとして。それを平面とみるか立体物とみるか。それを下からみるか中からみるか上に乗ってみるか空中からみるか。それを地についているか空中に浮いているかとみるかで答えは十人十色な訳で、個々の視点で同じモノでも同じに見えないと思うから作り方にも工夫が必要なんだなと学ぶことが出来た。




  青春を謳歌するのもいいが現実はそう楽しいことばかりではなく、仕送りを貰うのは申し訳ないと思い、授業が終わってからは接客業のバイトをはじめた。母はバイトが終わる時間くらいになると『おかえり』ではなく『お疲れ様です!』というメッセージを送ってくるようになった。


 バイトに行くとどんな時間でも「おはようございます」と言うことに最初は驚いた。土日は朝からシフトに入るので「おはよう」というのは当然として、基本は授業が終わり夕方にバイトに行く。それでも「おはようございます」と言わなくてはならない。それが社会のルールなんだなと思うと少し大人の階段を登った気がした。


 母が寝る時間に『おやすみなさい☆』とメッセージが届くが、僕は一人暮らしなので夜は勉強や時には友達と飲み明かしたり、色んな友達が終電を逃したといって泊まりに来るという毎日を送っていた。


 そんな生活を送っていたらとうとう『おやすみ』という返事をしなくなった。それでも母は毎日、そのメッセージを送ってくれた。母には返事を返さないのに友人や恋人にはメッセージが来たらすぐに返す、電話をするという行動を取っていた。


 僕の大切なものは家族ではなく友人や恋人に変化していた。今まで家族の優しさや温かさに包まれてきたということをすっかり忘れ、その大切な家族たちのことを最下位の位置に置き、後回しにするようになっていた。


 言い訳としては大学生になって、今までよりやることもやりたいことも多くなり忙しくなった。そんなのは理由にはならないけど、家族を思いやる気持ちも言葉も忘れられるようになっていった。

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