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コトバがあるということ  作者: かなたつむぐ
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序章

『おはようございます☀』

 携帯の画面が光り、メッセージが表示される。

 このメッセージは毎朝、母から送られてくる。僕が一人暮らしをはじめてから毎日届くようになった。午前七時前後に365日、欠かさず送られてくる。


 これが当たり前の朝のはじまり。


 携帯を置いているサイドテーブルには父、母、母方の祖父母と僕と弟の家族写真が飾られ、母方の祖母に二十歳の誕生日にもらったオルゴールとメッセージカードが立て掛けてある。


『この世界に生まれてきてくれて、ありがとう』


 祖母の手書きの朝顔のイラストに書かれた手書きのメッセージ。

 僕は生まれてすぐに生存をしているのにも関わらず死産として扱われるところだった。早産で本来あるべき部分がいくつか欠損している僕は、医者に障害児だから母には内緒で死産として存在しないことにした方がいいと祖母にいったそうだ。祖母は「生まれてきた子供を殺すわけがない。どんな子でも私と娘が一生懸命育てます。だから殺さないでください」と言ってくれたそうだ。そのおかげで僕は今、生きている。欠損部分はあるけれど、何不自由なく健康的に生きている。


 朝起きたら目覚ましのアラームを止めて、母からのメッセージを見て、もう少し寝たいなと思いながら起き上がる。起き上がったら先ず窓を開ける。窓から見える景色は雲一つない天色の空。聞こえてくるのは鳥たちの囀り。窓から入り込む匂いは花や木々の香りと太陽の匂い。

 洗面台に行き、顔を洗って歯磨きをしてから窓を閉める。

 朝ごはんはコーヒーのみ。

 窓を閉めると部屋中がインスタントのコーヒーの香りでいっぱいになる。


 これが今の毎日のルーティーン。


 おっと忘れていた。コーヒーを飲む前に必ずテレビをつける。

 テレビから「おはようございます」そんな元気な声を毎日聞く。これが当たり前の朝。『おはよう』という言葉が当たり前すぎて、その言葉がない日が寂しいと思うことがあるなんて思いもしなかった。

 ある日、母からの『おはようございます☀』というメッセージが届かなくなった。その時はじめて『おはようございます☀』という言葉が当たり前ではないと知った。そして、当たり前だと思っていた日常なんてないと思い知らされた……。

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