二人の父と二人の師
見切り発車した今作ですが、すこーしだけ今後の展開も考えましたので一話目を書き直しております。
これからは、毎週金曜日更新を目標に(あくまで目標なので土日になったり、一週飛んで来週になるかも)頑張りますのでお付き合いいただければ幸いです。
<エリック視点>
「お前はホントに親バカだな、エリック」
背後からの呆れを含んだ声に目だけやると、大仰に肩をすくめて目を半開きにした黒貴人族、ラースがこれ見よがしに溜息をついていた。エルフ特有の長くとがった耳に褐色の肌、まだ未成熟な身体ではあるが私の五倍は長く生きているのは種族としての特性だ。
そんな彼の言葉に身に覚えがないわけでもない。ただ、背中から伝わる呼吸はまだ深く、大業を成したばかりのフェオは回復に専念させるのが遠征隊としての最適な行動だろう。
「…前衛のお前がそんな重りだらけの身体でどうすんだよって言ってんだけど」
私がまだ理解していないと踏んだのか、ラースは面倒臭げに言葉を続けた。胸には焔石の塊を、背にはフェオを担いではいるが、この程度の重りであればここらで現れる魔物に後れを取ることは無い。
それを証明するように、闇に紛れている小鬼達を一刀のもとに切り伏せた。返り血を浴びることもなく、剣に付いた血を払うように振るう。
「脳筋にはなに言っても無駄か」
「お前こそ、弓なり魔法なりで敵を排除してくれれば楽なんだがな」
「ザコ相手にはどっちも温存だ。魔法だってタダで使えるわけじゃねぇんだよ」
人族には魔法は使えない。魔法に必要な魔力と呼ばれる力を持ち合わせていないからだ。魔力というものを理解できない私はラースに返す言葉もなく、そんな彼が一人で焔石確保までの護衛をしてくれていたのだから、ここからは自分の仕事だと割り切る。
ふと、ラースの目がフェオに留まり続けていることに気付いた。
「どうかしたか?」
「…勘違いかもしれねぇが、フェオが気絶したのは魔力切れのせいだ」
「なんだと!?…修行の成果が出たのか?」
フェオは格闘を私に、魔法をラースに師事していた。その成果と言えば格闘は半人前、魔法は当たり前だがからきしだったはずだ。そんなフェオが魔力切れ?
「魔力を持ってねぇのに魔力切れを起こすはずはねぇ。もしそんなことになったらお前ら人族は一生気絶してる。だから、こんなことはありえねぇはずなんだが…」
私よりよほど魔法に詳しいラースが分からぬことを考えても無駄だろう。気持ちを切り替えて、二つ先の休憩地点を目指して足を速める。後ろから悪態が聞こえてくるが、このエルフは長い時を生きているだけあって優秀だ。たとえ私が本気で強行軍しようとも付いてこられるのだ、気にかける必要も無い。
そんなことよりも、フェオが梯子渡りを成し遂げたことが私にはとても喜ばしかった。あれは戦士と認められた穴の者たちでも、そう易々と越えられる試練ではない。それを荷運びとしての経験しか持たぬフェオが見事にやり遂げた。口では言えぬが、自慢の息子だ。
実は、フェオの格闘の技量は十分に一人前と呼べるほどには育っている。だが、その優しい心根故か攻め手に欠けた戦い方しか出来ない。特に肉薄した戦闘になれば、その手の鈍りが生死を分けてしまう。だからこそ半人前と呼び、戦士となることは許さなかった。
そんなフェオが恐怖との戦いである梯子渡りを越えて成長し、戦士としての成長も見せてくれるのではないかと期待せざるを得ない。だからといって、身体が出来上がるまでは戦地に送る気はこれっぽちもないが。
私が穴に帰った後のことを夢想していると、息を乱したラースが声をかけてきた。
「もうちょっとオレに合わせろよ脳筋」
「付いてこられるだろう?」
「チッ。…それよりこの状況、どう考える?」
少し真面目な顔つきになったラースの言ったことは、道中の魔物たちのことだ。焔石の採掘中にはラースの手にも余るほど多くの魔物が襲い掛かってきたが、その後は小さな群れが二三現れた程度と、今までの経験にない状況は異常といえた。
「ここで考えたところで出来ることはない。今は一刻も早く穴に帰るべきだ」
「野性の勘…か。おそらく、なにかより強い魔物に追い立てられたんだろうよ。それが魔物の大群の正体だとしてだ、オレらが向かってる道はどんどん魔物が疎らになってる。ということは…お前と同じ結論だ」
「…もし黒い狼が現れたら、そのときはフェオを連れて逃げてくれ」
ーーーーー
「黒い狼だぁ?知らねぇな、んなもん」
ラースが初めて穴へ訪れた日の夜、私は黒い狼について尋ねた。我々は移民でありこの地のことを知らないが、この地に国を持つ黒貴人族ならば正体を知っていると思ったからだ。
「なぜそんなことを聞く?親でも殺されたか?」
「友が…英雄が殺された」
「英雄だぁ?そんな御大層なもんがこんな穴蔵に居たとは思えねぇが」
終始意地の悪い顔をしたまま話し続けるラースを、黙らせるように眼光を強める。
「マジになんなよ。そんなこと聞く奴は復讐だって言って死んでくんだ。その英雄ってのはお前より強かったんだろ?なら、やるだけムダムダ」
「…ああ。分かっている。だが、私には守らなければいけないものがある。備えねばならないのだ」
私の視線の先には、生まれて間もないフェオがいた。立つことも喋ることもできない、襲われれば泣くことしかできないか弱い存在。なにより、預けられた忘れ形見だ。
「お前のガキか?」
「ちが…、いや、俺たちの息子だ」
わざとらしく大きなため息をついたラースは、私の首に腕をかけると強引に引き寄せて耳元で呟いた。
「おそらくそいつは神殺しの狼。どれだけ犠牲が出ようとも、振り向くことなくひたすら逃げろ。それだけが生き残る道だ」
ーーーーー
もし、フェンリルと出会うことになるのであれば、あの時に友がしたように私が死力を尽くして皆を逃がす。それが順番というものだ。
「ハッ!言われなくともそんときゃオレは旅を再開するだけで、命なんてかけやしねぇよ。ま、仕方ねぇから一応の弟子も連れてってやる」
頼もしいラースの言葉に思わず笑みが溢れる。軽い態度が目につく男ではあるが、十余年の付き合いで知ったのはその情の厚さに他ならない。これで最悪の場合の憂いはなくなった。
「それにお前から聞いた話しじゃ、バカみたいにでかかったんだろ?そんな体じゃ、穴に続くほせぇ坑道を通れやしねぇよ。案外、大鬼のはぐれでもうろついてんじゃねぇのか?」
ラースの言うことはもっともで、私が見たフェンリルの体躯は地下に身を置いているのが疑問に思えるほど大きかった。それに比べれば、大鬼が迷い歩いているほうがよほど現実的で納得できた。
その場合、私たち遠征隊として出た三人を除いた戦士たちが穴を守護しているのだから、心配することはないだろう。
こういう知識や経験の面でも、ラースは非常に頼りになる。
「現状で考えられるのはこんなもんだ。加えるなら、ただの杞憂でなにも起きてないかもな。…ってことで、あとは任せたぞー」
急に投げやりになったラースをいぶかしみながら背後に視線を送ろうとすると、背負っていたフェオと目があった。
母親譲りの美しく端正な容貌は、眉を八の字にして悲しみに染まっていた。まばたきをする度に、白く長いまつ毛が溜まった涙を弾き出して、はかなさを一層醸し出している。
「エリック…。僕を置いていかないで」
その言葉は、帰りの梯子渡りで苦虫を噛み潰して背を向けた私を責めているようにも聞こえ、開いた口からは息を吐くことすらできなかった。
ーーーーー
<ラース視点>
完全に足の止まったエリックを追い抜いて、先頭に立って歩く。ここまで無理にペースを合わせたせいで、かなり疲労が溜まった。
エリックの身体能力、そしてそれを扱うための技術は穴の中でも一線を画していて、黒貴人族として長く生きているオレから見ても類を見ないほどだ。しどろもどろになりながら子供に言い訳をしている男とは、とてもではないが思えない。
魔法で起こしていた追い風をこっそりと消してから、先ほどの奇妙な現象、フェオの魔力切れについて考察する。
といっても、魔力が消費された原因は明らかで、あのペンダントに刻まれたルーン文字によって魔術が発動したのは間違いない。
問題は発現した効果のほうだ。フェオが梯子渡りをしていたとき、オレは魔法で風の影響を弱めていた。そうでもしなきゃ、能力バカのエリックくらいしかあれは渡れない。それが、フェオがペンダントを握った途端に完全に風が止んだ。オレの魔法でも消せない裂け目に吹き荒れる暴風が、だ。
加えて、自重よりも大きい荷物を背負ったまま足場の悪い梯子の上で立ち上がるなど、なにかしらの力が手を貸しているとしか思えない。
ただ、これら全てが先のルーン文字による魔術だというのはあり得ない。なにせ、たった一文字のルーンだ。
魔術の効果の規模は、それに使われるルーン文字の組み合わせ、文字数の増加に比例している。だからあのペンダントはお守りほどの価値しかない、はずだった。
クソ姉貴ならなにか分かるかもしれないが、あいにくオレは魔術の類いには詳しくない。もしかしたらペンダントに秘密が…。考えるだけ無駄か。
さて、と。魔物が全くいない道など、ただの散歩にしかならない。暇潰しに、もうひとつ気になることを解明しようじゃねぇか。
「バカ弟子!ちょっとこっちこい」
「はい。…エリックなんてもう知らないからっ!」
石像になったエリックを置いて、フェオが駆け寄る。オレがフェオを弟子と呼ぶのは、魔法の訓練を始めるときだけだ。それを察してだろう、先ほどまで涙で濡れていた目はキラキラと輝いている。
毎度毎度、使えもしない魔法の訓練を嬉々としてやりたがるこいつにはため息しか出ないが、教えがいがあるのは認めてやろう。
「なんでもいい。今まで教えた魔法を使ってみろ」
「え?」
「ほら、さっさとしろ」
いつもなら、オレの知識や魔法の実践を見聞きしているだけの訓練だ。まさか自分で魔法を使うとは、思ってもいなかったのだろう。そして、梯子渡りのときも無自覚だったのなら仕方がないとも言える。
だが、早く検証をしたいオレにそんなことは関係ない。フェオの尻を蹴りあげて、さらに急かす。
「わ、分かりましたから、何回も蹴らないで~!?」
「ものわかりの悪い弟子だ」
「…ぅう。土よ。フェオの名において命じる。我が敵から身を守る盾を作り出せ。土盾!」
しーん………。
「おい。やる気あんのか?」
「もう!僕に魔法使えないって言ったの師匠じゃないですか!いきなり言われても出来ないものは出来ないです!」
おかしい。魔法の詠唱に問題はなかった。魔術は使えたのだ、魔力の伝達も出来ているはず。なのに結果は不発だと?
「もう一度」
「えー」
「もう一度」
「…土よ。フェオの名において命じる。我が敵から身を守る盾を作り出せ。土盾!」
「もう一度」
「……土よ。フェオの名において命じる。我が敵から身を守る盾を作り出せ。土盾!!」
「もう一度」
「………土よ。フェオの名において命じる。我が敵から身を守る盾を作り出せ。土盾!!!」
「もう一度」
「ひいぃ…」
ーーーーー
「もういち…おっ、休憩地点まできたか」
「やっと、やっと休める…」
ここまで休みなく詠唱させてきたが、これだけの試行回数で駄目なら明確な問題が経過の中に含まれているな。ならば、手法を変えてみるか。
坑道の壁にぽっかりと空いた空間に腰を下ろして、フェオに次の課題を与える。
「次は初級呪術を試すぞ」
「ひえっ!休憩じゃないんですか!?…あれ、でも呪術って専用の杖がないと出来ないんじゃ…、も、もしかして!?」
「そうだ、特別にオレの杖を使わせてやる」
「やったぁ!!はやくはやく!!」
手のひらを返したフェオを今度は逆に落ち着かせながら、肩にかけた荷袋の中から手より一回りほど長い杖を取り出す。
これは小人族に作らせた特製の一本、名をるつぼの杖。杖としては異端な金属製、しかし、表面には木目のような模様が出ている。
性能は大枚叩いた甲斐のある出来で、オレの最大出力にも余裕で耐えてくれる最高品質。だから、これまでフェオ含め他人には一切触れさせて来なかったが、面白い実験が出来そうなのだ、使わせない手はない。
杖を渡してやると、恭しく受け取ったフェオは目を皿にして隅々まで見たり、触ったり、舐めたり…。
「おい!このバカ弟子!誰がそんなことしろと言った!?」
「え?だって、エリックは初めて見るものは口に入れて大丈夫か確かめてたから…」
「あんの脳筋が…。分かったから炎の術式を描いてみろ。見本を地面に描いてやる」
「大丈夫です!覚えてますから!」
そう言ったフェオは、熟練の術者のようにさらさらと眼前の空間に術式を描き始めた。杖が通ったあとには青白い光が残され、しっかりと魔力が出力されていることを示していた。
これには流石に驚いた。術式を見せたのはたったの一度だけだ。それにいくら初級とはいえ術式は複雑で、いま描いているものであれば、火、風、木の要素を基本としたルーン文字を円型に配置しながら一筆で描かなければいけない。
事も無げに描いているということは、魔力もないくせに日頃から練習していたのだろう。諦めの悪いフェオらしいことだが、今回ばかりは褒めてやりたい気分だ。
そして、オレの目論見が合っていれば面白いことが起きる。
「出でよ火炎!!」
均整のとれた見事な術式の中心に杖の切っ先を向けて、フェオは掛け声と共に一際大きな魔力を放った。
すると、刻まれた術式は淡く青白い光から目が眩むほどの金色へと変わり、弾ける。術式があった場所には、拳ほどの大きさの炎が生まれていた。
この魔術はここからが本番だ。
拳大の炎は薪をくべられたような破裂音をたてて、みるみるうちに巨大になっていく。大人一人飲み込める大きさになったところで変化は終わり、術式が描かれたのと同じ方向に一直線に飛んでいった。
「師匠!やりましたよ!僕、呪術が使えました!!」
「…よくやったじゃねぇか」
フェオは魔力がないことで諦めかけていた夢を実現して、跳び跳ねながら大はしゃぎしていた。どれだけの努力を重ねてきたかはオレが誰よりも知っているし、それが実らないことも誰よりも理解していたのだ。最初は残酷な未来を与えないために冷たくあしらってきたが、へこたれなかったフェオが結局は正しかった。
褒めた覚えなど一度もない弟子の頭をわしわしとぶっきらぼうに撫でながら、魔法を発動する。
「風よ。ラースの名において命じる。何人も止められぬ突風を吹かせよ。空気砲」
フェオが放ったフレイムの方向へ、坑道に壁を作るように空気の塊をぶつける。どちらが早いか、着弾したであろうフレイムの爆発音と共に、爆炎がとんでもない勢いで周りを照らしながらこちらへと向かってきていた。
隣で息を飲むフェオは、これほどの威力になることは想像していなかっただろう。それもそのはず、オレがやって見せたのは魔物一匹を焼くぐらいの小さな炎だ。
魔力のコントロールどころか、初めて意識的に魔力を使うのだから暴走するのは仕方が無いことでもあるが、それらを踏まえてもこの規模は規格外過ぎる。
エアインパクトが押し止めた爆炎が引くと、炎が通った道は辺り一面赤熱していて、道幅が一回り大きくなっていた。こんなもの戦闘中に使ったとしたら、ぞっとする結果をもたらすのは想像に難くない。
当の術者は口をポカンと開けたまま思考停止しているが、おそらくもうひとつ衝撃的なことが起きる。
一番初めに変化に気付いたのは、それに触れていたフェオだ。術式を描くために使ったるつぼの杖が、先端から崩れ始めたのだ。崩壊は伝播するように広がり、終わりにはフェオの足元に一山の灰が積もった。
青ざめた表情でこちらを見ながら動けないでいたフェオが、ふっと意識を虚ろにして倒れようとしたところで抱き止める。まだ完全に落ちていない意識でなにか言おうとしているが、押し止めて安心させるようにささやいた。
「安心しろ。完済するまでこき使ってやる」
ーーーーー
「先ほどの音は何事だ!…っ!?どうした、フェオ!?」
爆発音で石化から解けたらしいエリックが猛ダッシュで駆けつけたかと思えば、オレから奪い取るように白目を剥いたフェオ抱き締めている。
「お前が付いていながら、これはどういうことなんだ!!」
「ああ、もううるせぇな。炎ぶっぱなして魔力切れしただけだ」
これ以上相手するのも鬱陶しいだけなので、話は終わりだと言わんばかりに背を向けて、るつぼの杖だったものを革の巾着に集める。
杖に起こったこの現象は魔力崩壊と呼ばれており、材質によって変わるもののどのような物でも起こり得る現象だ。理屈は単純で、その物質が許容できる量を超過して魔力を与え続けることで灰へと姿形を変える。
そうしてできた灰は魔塵と呼ばれ、魔術・呪術・付与術・錬金術どれにしても欠かせない重要な触媒となる。さらに、今回できた魔塵は、るつぼの杖に使われた貴重な金属とフェオの規格外の魔力で生まれた特級品だ。ここまでのものになれば、秘薬や新素材の開発などに使えるため価値は計り知れない。
これでちゃらにしてやるようなお人好しではないので、フェオにはしっかりと弟子としての使い走りをやらせてやろう。
「エリック。休憩は無しだ、さっさと穴に帰るぞ」
「…少しでも早く戻ることには賛成するが、流石に私もお前も消耗している。最悪を想定するならば、ここで軽い休息を取って置くべきではないか?」
「オレはこいつを正式に、魔法使いラース・ディ・エル・ロワーズの弟子にする」
始まりは、梯子渡りの魔術。あの規模の効果が単一の魔術で成されるなどあり得ない。あるとすれば、常軌を逸した魔力による力業。
そして、先の火炎とそれに伴う杖の魔力崩壊。これで予想は事実へとなった。
「フェオはオレを、黒貴人族で歴史上最高の天才と謳われたこのオレを超える魔力と、更なる高みに登らんとする探究の片鱗を見せた。さすれば、最高の環境を整え最高の教えを与えることで、オレを、いや、神にも届く最強の魔法使いに」
昂りのままに言葉を紡いでいたオレの腹に、拳が突き刺ささる。勢いのまま地面を転がり、壁に叩きつけられてようやく止まった。痛む腹を抱えて立ち上がり拳の主を睨み付けながら、言葉を吐ききる。
「人族の一生は短い。大成したけりゃ、休む暇も悩む暇もねぇんだよ」
「それをフェオが心から望むなら止めはしないが、周りが才能だけで道を決めることはあってはならない。行き先が頂点に近ければ、なおさら志がなければ進むことなど出来ぬ」
実をもった言葉に一瞬気圧されたが、訂正する気など毛ほどもない。覚醒したきっかけが判然としなくても事実は事実、フェオなら届きうる。
「…それに、だ。フェオは立派な戦士になるのだ!梯子渡りで今まで足りなかった勇気を見事に掴みとったことを考えれば、これからの成長には目を見張るものがあるはず!本来ならば聖騎士としたいところではあるが、守るものなく聖騎士は務まらん。よってこの私、元聖騎士エリックが責任をもってフェオを最強の戦士に」
最後まで聞き届けることなく、オレは加減無しの空気砲をエリックの腹に叩き込んでやった。憎たらしいことに、奴は片膝を付くだけで倒れこむことはなかった。
「一瞬でもてめぇの戯れ言に耳を貸したオレがバカだった。結局のところ、言ってること変わらねぇじゃねぇか!」
「何を言う!嫌々やらされている魔法とは違い、私との訓練は真剣かつ楽しそうに取り組んでいるのだ。優しいフェオはキサマの手前、笑顔を取り繕っているに過ぎん」
「はあぁあ!?なにが嫌々だ!あいつがどうしてもってしつこいから、仕方なく教えてやってたんだぞ!それに、てめぇみたいな脳筋の稽古なんざ体力の浪費だ。フェオのためにも、もう二度とするんじゃねぇ!」
気が付けばお互いの額をぶつけ合いながら、至近距離で視線を闘わせていた。
「こうなったら、ここらで白黒つけようじゃねぇか」
「いいだろう。負けた方はこれからフェオの将来について一切の口出し、及び強制を禁ずる」
「上等だ」
「流石にここで殺り始めるわけにいくまい。では」
「「さっさと帰るぞ」」
うーむ、本人不在のまま将来設計が決まる恐怖。
英才教育の賜物ですね!
ラース「来た道にフレイム撃たせりゃ良かった」