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1:ここで少々状況説明を

 改めまして、わたくし、ローゼリア・フェリアスと申します。

 フェリアス公爵家長女にして王太子エルリック・ジュネ・トランデル殿下の婚約者を務めております。

 おりました──と申し上げたほうが、正確でしょうか。


 ここで少々、状況を説明いたしましょう。


 時は晩秋、この春入学しました王立魔道学院の創立記念日が明日に控えております。

 学院の創立記念を祝って催されるパーティは、学院で主催されるものの中でも一、二を争う規模と華やかさを誇り、生徒のほとんどが貴族の子女というこの学院において、最も重要視される行事のひとつ。

 加えて、創立記念日の翌日より学院は冬期休暇に入りますので、夏学期の講義はもちろん、試験もすべて終え、試験結果に一喜一憂はございますが、おおむねすべての生徒が解放感に浸りながら、明日の催しを心待ちにしているところでしょう。

 皆様、寮の自室か王都の屋敷に一時帰宅し、明日の準備に勤しんでおられるものと思われます。


 わたくしたちもその予定でしたが、我が婚約者である王太子殿下からのお呼び出しによって、変更を余儀なくされました。


 常であれば午後の講義が行われている時間。講義からも試験からも解放され、明日のパーティの打ち合わせをしつつ、気の置けない友人と午後のお茶など嗜みたいところです。

 時間は有限。できれば有意義に使いたいものですが──王太子殿下の不始末への対応は、有意義ではありませんが必要なことですからね。仕方ありません。

 せめて今日が最後と祈るばかりです。


 そして、呼び出しにこの場所を選んだことは評価できます。

 隣接する学生寮を含めれば王都下町の一区画にも匹敵する王立魔道学院の敷地ですが、その東端に位置するこの辺りは、常より人気がありません。

 ひとが集まる主要な建物から離れていることと、三階建ての校舎と塀とに囲まれ、昼を過ぎると途端に日陰となるためでしょうか。

 そうはいっても、貴族の子女の通う王立学院です。木々や植え込みが整備され、東屋なども配されており、常に人気がないことも相まって、密会や密談には向いているのですよね。


 人目を避けての呼び出しとは、王太子殿下にしては思慮を見せたものですが、そこでなされるであろう内容を思えば、当然の配慮ではあります。

 故に、この呼び出しを無視するという選択肢はありませんでした。

 そんなことをすれば、考えなしの王太子殿下のこと、明日のパーティの只中に、衆人環視の中で切り出しかねません。


 わたくしはそれでもかまわないのですが、さすがに王家の威信は守らねばなりません。


 そのように殿下をお待ちしておりましたわたくしの前に現れた、我が国の王太子にしてわたくしの婚約者、エルリック・ジュネ・トランデル殿下ですが、三人の取り巻きの男子生徒を従え、ひとりの女子生徒を伴っておりました。


 ええ、頭の痛い事態です。


 殿下の背後に付き従うのは、キャンベル伯爵家のフィリップ様、シュナイデル伯爵家のトール様、ジェイムズ伯爵家のラディオ様と、まあ予想通りです。

 王太子殿下の太鼓持ち──もとい、未来の側近候補たちですから、これまでも大抵の場で殿下と行動をともにされていましたし。


 ただ、殿下の側近というならば真っ先に名の上がる、ハーノス侯爵家のデミオ様がいらっしゃいません。

 あの方は、側近というよりもむしろお目付け役ですから、このような場にこそ同席するものと思っておりましたが──デミオ様には別に、やるべきことがおありなのでしょう。

 あの方も苦労なさいますわね。優秀な方ほど苦労を背負い込むというのは理不尽にも思えますが……致し方ないことなのかもしれません。


 そして、殿下の傍らに立つ女子生徒──ソフィア・バラッド嬢。


 さて、状況もメンツも予想通りです。

 ええ、できれば外れてほしかったのですが、予想通りです。


 それでは、殿下が肩を抱いて伴われているソフィア・バラッド嬢について語る前に、わたくしたちが在籍しております王立魔道学院について説明させていただきます。

 王立魔道学院。ここトランデル王国において魔力を持って生まれた者が例外なく入学し、魔法理論や魔力制御について学ぶ、王立の全寮制教育機関です。

 名称こそ『魔道学院』ではありますが、実情は貴族子女のための教育機関ですわね。

 と申しますのも、トランデル王国において、魔力の保有者はほぼ貴族の血筋に限られる故、学院在籍者の大方が貴族の血縁者であるからです。


 魔力とは、建国の祖たる魔法使いより、王国の支配者たる王と貴族に引き継がれた血であると、伝えられております。伝承の真偽はともかくも、国内の魔力保有者がほぼ王侯貴族で占められているのは事実。

 ですが、中にはやはり、例外も存在します。


 例外と申しますか──

 魔力が血縁によって引き継がれるものである以上、必然と申しますか。

 つまりは、庶子の問題ですわね。


 王侯貴族と言えど必ずしも清廉潔白ではありません。ええ、むしろその逆のことも多いのです。

 同じ貴族としては恥ずべきことですが、事実である以上、認めないわけにはまいりません。

 貴族男性が妾を囲うことは珍しくありませんし、あるいは使用人や街で見初めた娘を身籠らせることもあります。そうして生まれた子供は庶子となります。


 正妻との間に子がいないなどの場合、認知して引き取り、爵位を継がせることもありますが、多くの場合、庶子は相続人としては認められず、認知もされないままに母親に市井で育てられるのです。

 その結果、市井には貴族の血を引く子供が紛れ、その子孫に魔力を有する血が引き継がれる。時には隔世遺伝でもって、魔力を持たない両親から魔力を持つ子供が生まれることさえあるのです。


 現在の学院にも、貴族の庶子や、隔世遺伝型の平民の生徒が幾人か在籍しております。

 今年の入学者では、平民はただひとりでしたが。


 ご丁寧にも殿下が肩を抱き、親密さを見せつけるように体を寄せている彼女こそ、その、今年入学したただひとりの平民の生徒──ソフィア・バラッド嬢です。


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