春の装い
長い学校の授業も終わり、放課後の幽幻街の何処かをぶらぶらと歩いていた。
辺りには雪が降っているのであまり遠出はしていないだろう。
幽幻街では土地によって季節が変わる。
時間経過による季節変動はあまり起こらないのだ。
なので僕の住む幽幻荘周辺はここ二、三年ずっと冬だ。
それは何故かと言うと幽幻荘の三階に雪女が居住している為である。
僕たちは冬の根源たる彼女と住処を同じとしている為、冬の生活を繰り返しているのだ。
すると、蒲公英の咲く河原に出た。
遠くに見える山はとても冬とは思えぬ青々とした装いだ。
山から流れる河は、浮かぶ雪を僕の背の方へ流していく。
この様に辺りに冬の気配が消える時、僕は幽幻街から遠ざかっていることが分かる。
極度の方向音痴の僕でも我が家に帰れるという訳だ。
しかしまだ家に帰るには時間があるため、あの山の方へ歩を進めた。
この様な行動が僕を方向音痴として定義付けているように思う。
取り敢えずあの山を探索しに行きたいと思うが、あそこまで辿り着くには少々時間がかかりそうだ。
何か素早い移動手段があればいいのだが...
と、その時空から垂れた触手が背中に伝った。
うわっと驚いて振り向くと、そこにはウキクラゲがふわふわと浮いていた。
どうやらまたまた迷いそうな僕を見かねて付いてきていたらしい。
有難く、その触手に絡まって山を目指した。
山から吹く風に抗い、僕達は高めに上昇して山を目指した。
漸く大地に足をつき、
山の入口を正面にいざ探検だ。と意気込んでいると、脇に黒ずんだ木製の看板が目に入った。
[この先、樹神家の土地。無用の立ち入りを禁ずる。]
どうやらこの先は、いや、この山自体が樹神さん家の土地らしい。
そう言えば、樹神と言えば僕のクラスメイトに同じ姓の者がいた。
ふと思い出してあばら家から貰ったメモを取り出した。
《請求書》
樹神嬢に五〇〇円を要求す。
あばら屋 店主
彼女もミニシャンパンの瓶を返しに行かぬ不届き者であったらしい。
普段は植物の様に大人しく清楚で居るのに、どうやらガサツな面も持ち合わせていたらしい。
無用では無くなった僕は樹神家の山に足を踏み入れた。