教室
通常の人間であれば奇怪に感じる内容もあれば、変わらぬ内容の授業も存在する。
幽幻街のこの学園では教師に依存した授業体系が確立しており、むしろ学園そのものが自ら求めるように混沌を作り上げているのだ。
一限の読書学、二限の数学、その他諸々の授業を終え、長めの昼休みに入る。
そこでいくつかの机をくっつけて4人がけの卓を作ったのは、酩酊会館の賭場の一つを仕切る支配人の一人息子、銭目だった。
銭目は正にその父の濃い血を継いだと言った存在であり、根っからのギャンブラーだ。
学帽を深く被り、黒髪の下の両目を包帯で覆っている。
「亡もやっていかないか?」
僕は少し考えたが今回は見送ることにした。
賭博とは言え、この学園であっても最低限の良識は持ち合わせている為、金銭における賭け事は当然禁止されている。
その為銭目はミニシャンパンの王冠をこの学内での通貨とした。
この王冠は学友に譲渡することによって多少の雑務を押し付けたり、パンの欠片を頂けたり、数頁程度の宿題を写させて貰うという効果を発揮する。
最初は駄菓子屋のあばら家などで購入したミニシャンパンの王冠を生徒間でやり取りして上記の効果を発揮するのみだったが、その硬貨の流通と需要が一定の値に高まったところで銭目はこの机賭場を設けたのだ。
この親にしてこの子あり。
やはり賭場経営のセンスに長けている。
買った負けたの阿鼻叫喚を背に、僕は教室を出て中庭に移動した。
ゴチャゴチャとした幽幻街の中でも珍しく、まっさらとした砂場と花壇が有るのみである。
僕はこの花壇をぼーっと見つめながら昼食を摂ることも多い。
なんの花かは分からないが、幽幻街の外では見た事が無い。
不明の花であっても僕の昼食に添える景色として不足は無いのだ。
もそもそと葉や肉や米を噛んで食事を終えると、弁当を広げていたベンチに仰向けになった。
視線と少しズレた位置に真っ白な日の光が見えて目が眩んだ。
落ちた米粒をそのまま蟻に与えてその場を去った。