浮遊
帰宅した僕はこもり様にミニシャンパンを渡して一緒にちびちびとちびっこヨーグルトを啜った。粘り気があるのに舌触りがパサパサとしていて不思議な食感だ。ベタベタな甘みと酸味が後を追ってやってくる。
その後しばらくテレビを観てお風呂に入って布団に入ってこもり様の尻尾を掴みながら寝た。
翌朝覚めると机の上に『チンして食べなさい。』というメモと共に煮物が鍋に入っていた。
食事や支度を終えると部屋を出て対岸の窓を見た。
するとやはりそこにクラゲが浮いていた。
それは実に大きなクラゲで、人1人があの笠に乗れる程だ。
窓から伸びる触手に絡まって僕はクラゲと共に風に乗った。
ふわふわと浮いた空はもうすっかりと水色と朝日で輝いており、冷えた空気と風の香りが心地良かった。
頭上にはクラゲの笠が被るように存在し、透ける奥にはやはり水色の空が拡がっていた。
そこから伸びた触手のブランコで僕の脚は空にぶら下がって風に揺らされていた。
その足下に広がる朝の幽幻街はやはり闇の中の印象とは全く違って見える。
また違う美しさと趣を空から捉えられるのは僕以外にそうはいないだろう。
このウキクラゲの触手は人間が触れるとその刺胞から毒が注入されてしまい、三日で死に至るのだ。
風に従って進むと校舎が見えた。
幽幻荘の様に傾いたりあらぬ場所にあらぬ施設が配置されていたりとはしているものの、それとはまた違った印象と趣がある。
自分の教室の窓に外からノックをして学友に開けてもらうとウキクラゲに礼を言って中に侵入した。
僕は地上を歩いていると必ず迷って学校にたどりつけないのでウキクラゲにいつも送ってもらっているのだ。教師達も黙認してくれている。多分。
教室内は顔が有ったり無かったり、人の形で有ったり無かったりと実に様々な学友がいつもの様に妖しく騒いでいる。