第45話
――頭の良し悪しで言えば間違いなく俺は悪い方に類するだろう。だから如月に勉強を教えてもらうことで、期末テストの赤点を回避した。
そんな過ぎ去っていった前の話を思い出しながら真夏日の夜、俺は如月と夏祭りに来ている。
あたりは屋台の明かりや街頭、屋台で買ったと思われるキラキラ光る仮面なとで照らされ、夜とは思えないほど明るかった。
そんな中俺は覚悟を決め、如月を待っていた。
覚悟とは言わずもがな――。
スマホに映る時間は19:45。集合時間より15分早いが、何故か集合場所に行かなければ体が落ち着かないような気がしたので今の俺に退屈はなかった。
「それにしても人多いな……」
街中での祭りとは言っても人口密度が半端ない。屋台を全部見て回るのに五時間はかかりそうだ。
家族連れや友達と来てるだろう集団をよく見るが、それよりも圧倒的に多いのがカップルと思われる男女二人組。俺よりも年上もいれば同い年、年下と年齢層はさまざまだ。
そんな人たちに俺と如月の姿を重ねて想像してみると、それだけで顔に熱が発生するのが分かる。そんな自分がなんだか恥ずかしい。
なんてことを考えていると、背中を指で突かれたため、俺はゆっくり後ろに振り向く。
「お、お待たせ」
如月なつみがいた。
「お、おう」
如月は赤色をベースとした花柄の浴衣を着ていてめちゃくちゃ似合っていた。そして白色の髪飾りも。
「浴衣着てきたんだな、めちゃくちゃ似合ってるぞ」
「ほ、ホント?良かった」
緊張か恥ずかしさか分からないが少し硬かった表情が崩れたような気がした。
「如月、今日は楽しもうな」
「うん、楽しも」
如月の緊張が解けても俺の緊張は解けない。この世はタイミングが全てだ、その時に完璧に想いを伝えれるように常に気を張ってなければいけない。
「じゃ行こう、なにか食べたいものある?」
「んーこういうときって何食べるの?よく聞くのはりんご飴とか綿菓子とかだけど」
「去年は愛斗たちとできる限り食べ歩きしたぐらいだから、ベタなこととか分かんないんだよな」
思い出す愛斗たちと行った夏祭りがもう一年前かと時間が経過するのは早いなと思う。
「まぁ目に入ったもので食べたいもの出てきたら買っていこうぜ」
「そうだね、そのほうがいつも通りって感じだもんね」
俺たちは基本大雑把な人間だ。だから計画とかを細かく立てないし、成るように成れの精神で動く。
屋台を回る上で気をつけること、それは花火が打ち上がるタイミングをしっかり把握すること。街中とはいえ、近くには海が広がっている。そこから数多の花火が打ち上げられるのだが、その時にこんな人混みがすごく、なんのムードもないとこで見るなんてことはしたくないからな。
歩き始めてしばらくすると人混みの中に入っていったのもあり、よけい暑苦しく感じる。浴衣を着ている如月は俺の感じる暑さなんて比ではないほどだろう。
「あっ、りんご飴売ってる」
「よく見つけれたな」
「身長低くても屋台ぐらい見えてますけどなにか?」
「ははっ、ごめんごめん。そんなつもりで言ったんじゃないよ」
身長148cmの如月は人混みの中にいると人に邪魔されて周りを見渡せないと思っていたんだが。それより如月は暑さをそこまで感じていないようで、汗も出ておらずいつも通りの如月だった。意外と暑さには強いみたいだ。
「りんご飴食べようか」
「始めて食べる」
如月とりんご飴を買い手に取る。俺はりんご飴を食べたことは二回ほどしかないが、個人的に好きな食べ物だ。
手に取った如月の顔はほとんどりんご飴と変わらない大きさで、りんご飴が大きすぎるのか如月の顔が小さいのか一瞬迷ったが、正解はどっちもだろう。
「いただきます」
一口、俺の二分の一口でかぶりついた如月の第一声は。
「美味しいね」
「如月、甘いの好きなのか?」
「うん、辛いよりかは全然甘いもの派かな」
「そっか」
「今、見た目通りって思ったでしょ!」
「はははっ!バレた?」
今の如月は愛らしいというのが正しいだろうか。かわいい人が世間一般で思われているかわいいイメージのものを手にしている。これは誰が見ても見た目通りって思うだろう。
改めて今の自分の気持ちを確かめさせられたな……。
それから綿菓子やフランクフルトなど、定番なものを食べ、射的や金魚すくいなど定番なことをやった。
そんな中でも如月は常に楽しそうにしてくれていて俺もそれだけで幸せで嬉しかった。癒やされるとはまさにこのことなんだな。
「そろそろ花火打ち上がる時間だからキレイに見えるとこまで行かないか?」
「どこかスポット的なとこ知ってるの?」
「スポットとまでは行かないかもだけど、ここで見るより人は圧倒的に少ないかな」
「それならついていく一択だね。私、人多いの好きじゃないから」
「知ってますよ」
如月が未來とよくいるのは人とあまり関わりたくないから。別にクラスメイトが嫌いなわけではなくめんどうとのこと。分からないことはない。俺も似たようなことを思っているから。
そうして俺たちは一旦人混みから遠ざかり、海近くの街頭が光るだけの公園にやってきた。
近くで祭りがあっているため、俺と同じ考えのここで好きな人と一緒に静かに花火を見たいという人が多くいた。でも一つ違うのは俺と如月はまだ付き合ってはいないということ。
「じゃここで待とうか」
いい感じの段差を見つけ、そこに二人で腰掛ける。横には好きな人がいるこの状況でも俺の頭は冷静だった。吹っ切れたという感覚に似ているかな、さらに覚悟を決めたから逆に冷静になれてる感じだ。
それから静寂をはさみながら俺たちは打ち上がるまで話しを続けた。これまであった出来事や、愛斗、赤崎さん、未來といったいつものメンバーのことを。
そういえば愛斗も上手くやってんのかな……杞憂だな。
あいつならきっと上手くやれてるだろう。鈍感な割にはそれを帳消しにするほど運が強いからな。
――カウントダウンがここまで聞こえる。
3.2.1.0
一つ目の巨大な花火が打ち上げられる。それに続くように小さい花火が連発される。どれもこれも去年とは違うもので今年なりの感動がこみ上げてくる。いや、この気持ちを花火に対する感動と勘違いしているだけだろう。
花火を見ながらキレイとつぶやく如月の横顔を見ると鼓動が激しくなるのを感じる。
俺は今、今言わないといけないんだ。ここが今日で一番の完璧なんだから。そう思うと自然と俺の口は動き出した。
「如月」
「なに?」
俺の声は花火にかき消されることはなくしっかりと如月の鼓膜に振動した。
「俺、ずっと前から如月のことが好きだったんだ。如月が図書室に来てから、退屈してた、飽き飽きしてた学校生活が嘘みたいになって……そしたらいつの間にか如月が図書室に来るのが楽しみになってさ、その時は気づいてなかったけど、今は分かる。その時から好きだったって」
うまく俺は伝えれているだろうか。今言ったことさえも思い出せないぐらい焦りというかなんというか形容しがたいなにかが俺の頭を惑わせている。
「だから――俺と付き合ってくれないか?」
なんとか出てきた言葉はなんのひねりもなくありふれたものだった。だがこれが一番伝わるやり方だと思う。
「……私も片桐くんのこと好きだった。それも同じ時から」
思ってもいなかった返答に俺は驚きを隠せなかった。
「え?そ、それってホント……?」
「うん、だから私からも――片桐翔くんのことが好きです。私と付き合ってください」
「……これじゃ俺の告白の意味なくないか?」
「どっちが告白したかなんて関係ないよ。今大事なのは好きか好きじゃないか、ただそれだけだよ」
「ははっ、そうだな。――では、これからお願いします」
花火が打ち上がり続ける中、俺と如月はお互いの想いを伝え合い、見事実った。笑い合う俺たちは今誰よりも幸せだ。
嬉しさのあまり俺は自然と如月の手を握り、打ち上がる花火を見ていた。いや、嘘は良くないな。ホントは花火なんて目に入ってない。なぜなら俺は今如月に夢中だから。
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