第3話
時間は曖昧ですが、急な用事ができないかぎり毎日1話から2話投稿する予定なので最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです。
数多くの下足箱の中に自分の名前を見つけ、ローファーと上履きを入れ替える。
僕が通うこの優成第一高校は高校だけで全校生徒が1000人を越えるマンモス校である。そのため登下校では必ずこの制服を着た人と会い、集会が開かれるときには初めて見る顔がいたりする。
今も3年の下足箱にいる先輩を初めて見た気がする。中高一貫だから中学にいたのだろうが……分からない。
ぼーっと考えていた僕は、手に持ったままの上履きを下に落とした。ドンッと床にあたる音がこの騒がしい玄関に広がることはなくそのまま足を入れて歩きはじめた。
翔は課題をやりに先に教室に行った。
3階にある教室へと階段を登ろうとしていたそのときに――。
「おはよっ!小渡くん」
学校に来る憂鬱さを感じさせない1人の女子が赤髪をサラサラっと揺らしながら挨拶しながら近づいてきていた。
「おはよう、赤崎さん。それにしても毎日元気でよく1週間過ごせるね」
「そんな元気かな?」
「金曜日の朝に走って大声出して挨拶する人のこと、僕は元気だと思うけど」
「そっか、じゃ私がその秘訣教えよっか?」
「僕に真似できるとは思わないけど、教えてもらおうかな」
「そんな難しいことじゃないけどね……毎日楽しめる趣味を作ることです!」
手を腰に、胸を張り、いばるようにそう言った赤崎さんは案外大雑把なとこもあるのだと知った瞬間であった。
アニメとか漫画とかで見るやつを本当にする人って存在したんだな……。
「ちなみに瞬間ってなんなの?」
「それはある人をイジることです」
「ある人?」
「うん!」
赤崎さんは転入初日から沢山の人と関わっていたようで、もう友達が何人もできていた。
だからその友達のことを言っているのだろう。
「その人イジると思いもしないことが返ってくるから飽きない気がするんだよね」
「そうなんだ、その友達もイジられてることに気づいてなかったりして」
「ぷっ!あはははは!」
小さく、えっ?と言いながらすぐにゲラゲラと笑い出した赤崎さん。僕は何がそんなに面白くて笑っているのか分からなかった。
「やっぱり小渡くん最高だね!」
「なにが?」
「そういうとこ」
「どういうとこか分からないよ……まぁでも赤崎さん楽しそうだからいいか」
気にしないことにした。考えても分からないし、教えてくれないから。まぁ、分からない僕が悪いんだけど。
「はぁぁ、笑い疲れた」
涙が出るほど笑ったようで、頬を伝って落ちていく涙を手で拭っていた。
「――それよりさ、昨日の約束覚えてる?」
「それはもちろん」
約束とは、再テストの答えを教えてあげる代わりに赤崎さんの昨日と違うとこを当てることだ。
正解しなければ松下のクラスまで行かなければならず、いろいろと目立つのが好きではない僕には避けたい選択肢だった。
「じゃ、制限時間は私たちがクラスにつくまで」
「え?!それってもう時間ないみたいなもんじゃん」
話しながら階段もしっかり上っていたため、今はもう2階と3階の踊り場にいた。
「ほら、頑張って当てないと!」
やばいやばいと僕を急かす赤崎さんは楽しそうだった。
僕もそれに従い、焦りをどんどん感じて頭が回らなくなっていた。いつも回っていないけど。
一歩ずつ教室に近づいていく。おそらくあと十歩も歩けば僕の負けが決まるだろう。それでも僕は前に前に歩き続けた。
ん?歩き続ける?……あっ、そうだ!
僕は歩き続けることをやめ、その場にストップした。
「どうしたの?まさか、分かった?!」
「いや、教室に入らなかったらずっと考えられるかと思ってね」
「あぁー!そういうことね。よく考えました」
「でも、止まったとこで変わったとこ見つけれるわけでもないんだけど」
朝のホームルームが始まるまでに見つけようと時計を見ると8時を過ぎたとこで時間に余裕があることを確認してじっくり観察する。
昨日の赤崎さんは制服をキレイに着こなし、カバンを右手に持ち、髪の毛はポニーテール……今日も一緒だから外見に変化なしかな。
キーホルダーも変なペンギンで……それから……うん、分からん。
「本当に何か昨日と違うの?」
「ほんっっっとに違うよ!」
「――ごめん、分かんない。ギブアップする」
考えに考えた結果チャイムの一分前まで粘ったがギブアップ。そうして教室に入り、窓側の席についた。
そこから見える桜は全盛期のようで、風に揺らされながら花びらをヒラヒラ落としていた。
「正解は、左手の小指に赤色のネイルをしていることでしたー!」
小指はキラキラと髪色と同じ色を光らせていた。
「ほんっっっとに分からなかった」
制服の着こなし方、カバンの持ち手とか覚えてただけでも褒めてほしいものだ。
「ということで!再テストの再テスト受けないとだね」
「嬉しそうなとこ悪いけど、残念ながら他の人に教えてもらうので大丈夫でーす」
「えぇ!?それはズルいでしょ!」
「いいや、正攻法です」
「ちなみに誰?」
「隣のクラスの松下未來」
「あぁ!聞いたことある、才色兼備だって!」
転入してきてまだそんなに経っていないが、さすが松下。めちゃくちゃ有名なだけあるな。
「でもなんで松下さんのとこに?」
「幼馴染だからいろいろ聞きやすいんだよ。だから昨日もし僕が赤崎さんに敗れたら聞きに行くって言ってたんだ」
「そっか、ちゃんと対策考えていたとは……」
「頭悪いなりに頑張りました。でもあんまり行きたくないんだよね」
オッドアイは珍しいため人の目を集める。だからクラスを出ると話しかけることは当たり前で、写真を頼まれることもたまーにある。
悪用されそうで心配なんだよな。
「じゃ、私もついていっていい?」
「え?いいけど」
「ホントは小渡くんが当てれなくても教える予定だったけど、松下さんに会えるなら友達になれるチャンスじゃん?」
「そうだけど……」
松下は赤崎さんと反対の性格だからなれるか分からないけど……まぁいっか。
「いつ行くの?」
「昼休みって言ってあるよ」
「おっけー私もその時ついていくね」
そうして約束をしてから4時間の授業を受け終わり、チャイムとともに隣の1年4組に赤崎さんと向かった。
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