第18話
目先にある太陽が山の中に消えようとする時間、僕は東雲先輩と帰りをともにしていた。
4月も終わりを迎える準備をしてるんだなと散ってゆく桜の花びらを見ながら思う。
「愛斗くん、あのときなんでずっと下を向いてたの?」
あのときとは部活のミーティングのときだろう。
「あーなんとなく……ですよ」
「ホントかなーなんだか嘘ついてそうだけど?」
「ホントです」
「そう、それならいいけど」
東雲先輩への解答を誤るとめんどくさいことになると言われていたので、嘘はつきながらもバレないようにごまかした。
「あと、あの赤髪の転入生、愛斗くんの友達?」
「はい、赤崎凛って言います。赤崎さんがどうかしたんですか?」
「彼女かなって思っただけだよ」
「そうですか。残念ですけど僕と赤崎さんは釣り合いませんよ」
実際そうだ。学校で有名で人気の赤崎さんと、学校でただ有名なだけの僕じゃ釣り合いなんて取れるわけがない。
「そんなことないと思うよ、うちの学年じゃ結構人気だし。まぁ愛斗くんが人気になるたびにわら人形も増えるんだけどね」
「そうなんですね。でもあんまり実感ないので分からないです、人気っていうの」
わら人形のことはスルーした。まぁそんな趣味を持ってるんだなって思っただけなんたけど。
「んー愛斗くんはオッドアイだから生まれてからずっと人気だったのかもね、だから実感がないのかもよ。それか鈍感すぎるからなのかだね」
「どっちもあるかもしれないです……」
「ははっ、そうかもね!」
笑う東雲先輩にほんの少し、夕日の木漏れ日が美しくかかる。僕は東雲先輩が頭の良い人として人気が出ることより、美人な人として人気が出ることに大きく頷けた。
「東雲先輩――」
「弥生って呼び捨てか弥生先輩って呼んでほしいな」
「分かりました、では弥生先輩」
「なんだい、愛斗後輩」
先輩を名前の後につけることはよくあるが、後輩を後につけて呼ぶことは聞いたことがなく、僕はクスッと変ですねと笑った。
「僕のこと好きなんですか?」
「……うん、中学の時からね」
間があった。でも弥生先輩はしっかりと答えてくれた。
「そうですか……」
なぜこの質問をしたのか、それは、僕を好いている人と好いていない人の区別をつけたかったから。好いているというのは友達としてではなく、恋心としてだ。
松下、赤崎さん、如月さんの三人は僕に恋心というものを抱いていない。でも弥生先輩は抱いている……。
「弥生先輩、人を好きになるってどんな気持ちなんですか?」
「んー難しいね、好きには人それぞれの考え方があって、私の好きと愛斗くんの好きはきっと違うもの。だから私から教えてもらっても分からないと思うよ」
「それもそうですね」
「ちなみに私は愛斗くんのこと誰にも渡したくないし、ずっと一緒にいてほしいって思ってる。これが私の好き」
誰にも渡したくなくてずっと一緒にいてほしいと思える人……か。いつかこの答えを知れる日が来るんだろうか、僕には分からなかった。
「弥生先輩はなんで僕に告白しなかったんですか?」
「愛斗くん、恋に鈍感で好きな人もいないでしょ?だから告白しても付き合えないって思ってたからまだしないよ。いつか愛斗くんが恋を知ってそのきっかけが私だったらそのときに告白する予定」
「僕、恋なんてできませんよ。運動しか取り柄ないですから」
「それはどうかな?私はできないんじゃなくて、してないだけだと思うよ。まぁ愛斗くんの心に一番近づいた人に答えを教えてもらったらいいよ。つまり私だね」
私以外ありえないでしょ!というような顔で僕に微笑む弥生先輩に、僕は最近周りの人がどんどん僕の心を濃ゆく染めていってることに気付かされた。
周りの人がもともと濃いっていうのもあるんだろうけどね。
「愛斗くんは知ってる女子のなかで私のこと何番目に可愛いと思う?」
「いきなりですね」
「ちょっと気になったからさ」
「最下位ですかね」
「えぇ?最下……位?」
ガクッと膝から崩れ落ちるように態勢を崩した弥生先輩は思ったよりも心にきたみたいでなんか申し訳なかった。
「な、なんで最下位なのか聞いてもいい?」
「弥生先輩は可愛いより美人の部類じゃないですか、だから最下位です」
「あぁ、な、なるほどね、それなら良かった」
ほんとに良かったのかな、相変わらず態勢崩したまんまなんだけど。
「じゃ美人な人ランキングなら?」
「一位タイです」
「えっ!ダントツでも単独でもなく?!」
二度目の驚きで崩す態勢もない弥生先輩は声の大きさでその度合いを教えてきた。
「幼馴染の松下と同じぐらいだと思ったんです。松下も結構な美人で頭も良くて」
「あぁ、私のライバルね」
「ライバル……ですか?」
「うん、なんのかは教えられないけど中学の時からライバルなんだよ。しかもめちゃくちゃ難敵でさ」
松下も弥生先輩の名前聞いたときにけっこうびっくりしてたしお互いになにか競ってるものでもあるんだろうか。
「分かりませんけど頑張ってくださいね」
「愛斗くんに応援されるとなんだか不思議だけど頑張るね」
不思議とは失礼な、僕だって人の応援はしますよ。
そんなことを思いながら完全に隠れた夕日とともに僕と弥生先輩の別れ道に到着した。
「今日はありがと、久しぶりの愛斗くんの匂いと腕の形と目の色と目のキレイさと――」
「分かりました分かりました!どれだけ嬉しかったのか伝わったのでもう十分ですよ!」
そのまま何個も出てきそうな勢いで喋る弥生先輩を無理やり止める。
目がガチなんだよね……この人。
「とにかく、僕からもありがとうございました、では」
「うん!また一緒に帰ろうね、愛斗」
僕が見えなくなるまで手を振る弥生先輩は年上とは思えないほどはしゃいでいるようだった。
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