第12話
キッチンに向かった愛斗の背中からはやる気が感じられ、料理を作ることに嫌な気持ちを一切持っていないようだった。
「あっ、そうだお風呂どうする?」
途中で踵を返した愛斗が気になったことを聞いてきた。
「そっか、お風呂って二人が限界ってとこだもんね」
「未來と如月が入ってこいよ、俺はその間に赤崎さんに自分を紹介がてら仲を深めるから」
「そっか、今日がはじめましてなんだ」
俺の意外な発言に赤崎さんは戸惑っているようだったがそんなに気にしなかった。
「じゃ、なつみ行こー」
「うん、じゃあとで」
着替えを取りに別の部屋に行った二人を見送り、俺はその場に赤崎さんと二人きりになった。
「改めて、俺は片桐翔、隣のクラスにいるから何かあったらよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
緊張してるのだろうか、敬語を使い、落ち着かない様子だ。
「敬語じゃなくていいよ、あと好きなように呼んでもらっていいから」
「う、うん、分かった。じゃ片桐くんって呼ぶね」
「あぁ、いいよ」
ここで話しは途切れるが沈黙が好きじゃない俺は彼女と仲を深めるべく頭をフル回転させる。
「赤崎さんって愛斗のことどう思う?」
「小渡くんのこと?」
「そう。俺と未來は幼い頃、如月は中学からあいつのこと見てるからもう慣れたけど、オッドアイのあいつを初めて見る人はどう思ってるのか気になって」
「そっか。私は小渡くんの目はキレイだと思うよ。目だけじゃなくて他のいろんなとこも人よりいいものを持ってる気がする」
「顔とか運動とか?」
「うん、それもだけど一番は優しさかな」
赤崎さんの言葉に俺は一瞬驚いた。
だって愛斗と出会ってまだ一ヶ月も経ってないのにあいつの細かいとこを分かっていたから。
「小渡くんはどれだけイジっても、お願いをしても怒らないし断らない。もちろんそれが全部いいことになるわけじゃないけど。でも私は私にできないことを当たり前って言って接することができる小渡くんのことをすごいって思ってる」
「ははっ!もう幼馴染じゃん赤崎さん。もうそんなに愛斗のこと知ってんのか」
「そう?たまたま小渡くんと一緒になることが多かったからかな」
さぁ、ホントにそれだけなのか俺には分からないけどな。
「そういえば私小渡くんに誘われてテニス部のマネージャーになることになったよ!」
「ホント?!それはいいな。これからテニス部は成績が右肩上がりになるだろうな」
「いやいや、そんなことないよ」
「いやいや、赤崎さんテニス部マネージャーになるなら絶対モテるぞ、可愛いし」
「えーそう?」
「俺はそう思ってるけど」
「じゃ、片桐くんファンに怒られちゃうね」
「なんだよそれ」
話を聞くと俺のことをかっこいいといい、ファンクラブみたいなのができているらしい。ちなみに俺はそういうのにはあまり興味はない。
「ということで気をつけないとだね」
「いいや気をつけなくてもいいだろ、普通に接してほしいけどな俺は」
「大丈夫、そのつもりだよ」
冗談を言う赤崎さんの笑顔は確かに多くの人を魅了すると思うが俺は魅了されない側だ。なぜって、俺にはもう好きな人がいるから。ただそれだけだ。
それが実るか実らないかは俺次第だけど……。
赤崎さんとの話の途中に別のことを考えていた俺は話を戻して会話を続ける。
「でもなんでテニス部のマネージャー?」
「私が中学の時、女子バスケのマネージャーしてるって言ったら勧誘してくれたんだ。それにやることも少ないから転入してきた私でも覚えやすいだろって」
「確かにそうだな。さすがは愛斗だな」
やっぱりあいつはいい性格をしていると思っていると俺の頭に一つ、赤崎さんも愛斗から聞いていないであろうことを知っているかという疑問が浮き上がってきた。
「ねぇ、赤崎さん、赤崎さんは愛斗の部活のこと詳しく知ってる?」
「んー片桐くんとダブルス組んでて二人ともめちゃくちゃ強いってことぐらいかな」
「そっか、じゃ知らないみたいだから教えてあげる」
「うん!なになに?」
愛斗のことになるとめちゃくちゃ興味津々じゃん。
「愛斗は運動全般できるのは知ってるでしょ?」
「うんうん」
「ではここで問題です、愛斗の一番苦手な球技は何でしょうか」
まぁ頭のいい赤崎さんなら当てれるかもしれないけど、当たらない可能性も全然ある。もし赤崎さんが愛斗に感化されてたり、そもそもがドジだったりしなかったら当てれるな。
「んー難しいね……」
考えること一分。
「野球かな!」
「不正解ー。赤崎さんなら当てれると思ったけどな、話の流れ的に」
「話の流れ的に……あっ!……え?でも……」
「その様子だと気づいたみたいだね。正解はテニスだよ」
「やっぱり!!」
気づいたときの赤崎さんの顔はとても驚いていた。答えが分かったときもなぜその答えなのか理解できなくて頭が混乱しただろう。
「じゃ、なんでテニス部にいるの?」
「ただ俺がいたからって理由らしい。ただそれだけだっていうのがなんか悔しいけど」
「そうだね、ホントになんでもできるんだ……」
「まぁ運動以外はダメダメだけどな」
愛斗のテニスの最高成績は中学三年生のときの全国ベスト8だ。俺はそのときのベスト16が最高で実績で愛斗に負けたのが悔しかった。でも愛斗は愛斗なりに悩みを持ってることを分かったときは愛斗にも悔しさがあるんだと知った。だからもっと頑張ろうって再起の原動力となってくれた愛斗には感謝している。
「ちなみに愛斗は高校入学前に全球技部活から欲しいって言われてたからな」
「えぇ!そんな人いるんだ!やばすぎじゃん」
運動に全振りしたからあんなに学業が疎かになってるんだろうな。
俺は一人で納得していた。
「まぁ、愛斗の運動能力のすごさと学業成績のすごさも分かったとこで次、お風呂行ってきなよ」
そろそろ二人がお風呂を出ている頃だと思い、いいタイミングでお風呂に促した。
いつものメンバーのことになればもうだいたいのことを把握できるようになってるな。
愛斗のことを知れて嬉しそうな赤崎さんは未來と如月と交代でお風呂に向かった。
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