第11話
「ただいま……」
家の前についた時点で察していたけどここまでとは……。
「あっ、おかえり小渡くん!」
「う、うん」
あまりの声量に驚いたがすぐにいつもの自分に戻る。
それにしても、松下と如月さんだけでもなかなか騒ぐのにそれを一人で上回るほどの元気さだな。
「とりあえず荷物置いてくるからもう少し静かにしてもらえると嬉しいです……」
「えーこれでも静かにしてる方だよ。それに凛と初めてのお泊りだし」
「そうですかそうですか、じゃいいですよ」
よし、諦めた。お隣さんにはあとで謝りに行こう。
覚悟を決めて今日を楽しむことにした僕は、翔とキッチンに向かい荷物を冷蔵庫等に置いた。
「あれ、ほんとにいいのか?さすがの俺もうるさいと思ったけど」
過去に一度怒られた経験のある翔は言う。
「じゃ、何か案をくれ。僕にはもう松下たちを止める方法が思いつかない」
「――無理無理。ぜんっぜん思いつかないな、すまんな」
「ん、いいよ」
過去に二度松下と如月さんを止めることに失敗した翔は言う。
「それじゃそろそろ戻るか」
「ああ、そうしよう」
松下たちのいる部屋とキッチンはこの家の中で一番離れている。だがそれでも僕の鼓膜に大きな振動が伝わってくるほど騒いでいるようだった。
松下と如月さんって静かで気怠げなイメージ(実際そうなんだが)なんだけど僕の家に来たときだけこんなにうるさいんだよな……謎い。
考え事をしながら部屋に戻るとゲームをしてるわけでも、テレビを見てるわけでもなく、ただ三人輪になって話しているだけだった。
その中で僕たちが戻ってきたことに一番はやく気づいた松下がいつものように――。
「今何時でしょーか」
「18時半過ぎだけど?」
「正解ーってことでそろそろお腹も空いてきたから誰が作るか決めよー」
「賛成」
「えぇ?誰が作るか決める?」
「うん、毎回止まり来たときは夜ご飯誰が作るか決めてるんだよ」
僕は泊まりにくるのが初めての赤崎さんに説明をする。
「私料理とかできないんだけど……」
「あぁ、それは大丈夫」
松下が赤崎さんの発言の後すぐに安心するように言う。
「大丈夫ってどういうこと?」
「凛が負ければ分かるよ」
「そうだな!」
翔……お前もそっち側だもんな。
僕は心の中で大きくため息をついた。
「――それで何をして決めるんだ?」
「ここにトランプあるからトランプで決めたいなー」
「それじゃブラックジャックでいいんじゃない?」
「あぁーいいねー」
「小渡くんは参加しないんだからディーラーしてもらって」
「うん、いいよ」
如月さんの言うブラックジャックとは、ディーラーと参加者で別れて行うゲームだ。トランプの2から10はそのまま数えJ.Q.Kの絵札は10と同じ扱いになりエースは1になったり11になったりして合計数字をディーラーより21を近づけた人、またはブラックジャックにした人の勝ちとなる。簡単に説明するとこんな感じで、とても早く終わるゲームだ。
「勝敗はどうするー?」
「三回先に小渡くんに勝った人から抜けていくってことでいいんじゃない?」
「おっけー」
「じゃ、早速はじめていい?」
僕の問いかけにみんな首を縦に振り、僕になんのメリットもないブラックジャックが始まった。
トランプをシャッフルし、それぞれの目の前に二枚ずつカードを置く。その結果。
松下 16
如月さん 18
赤崎さん 14
翔 7
僕 15
「松下から聞いていくね、ヒットする?」
「んーーいや、いいスタンドで」
「如月さんは?」
「スタンドで」
「赤崎さんは?」
「ヒット!」
元気のいい赤崎さんに合うカードKが来た。
「あー赤崎さんバストだね」
「最悪だぁ!もーー!」
「最後、翔は?」
「ヒットしかないだろ」
翔の手元には4がきた。
「おっ、これはもっかいヒットだな」
二度目のヒットに幸運は降りてきた。
「おぉ!翔、21じゃん」
「よっしゃ!まず勝ちか?」
「僕がブラックジャックじゃなければね」
そう言って引いたカードの数字は8で見事バスト。
「ってことで赤崎さん以外の勝ちだね」
勝ちの三人はいい出だしと満足気だが、赤崎さんは悔しそうに唇の下を噛んでいた。
「じゃ次いくよ」
――その後は松下が初手でブラックジャックを取ったり、如月さんもブラックジャックをしたりと赤崎さんだけがブラックジャックをできずに6戦目を迎えていた。
「今松下と如月さんが2勝、翔が1勝、赤崎さん0勝ね」
今までの5戦で見事に負けの道を歩いている赤崎さんはなんでなんでを繰り返していた。しかしとても楽しそうで笑顔なんて見てるこっちが癒やされるようなほどだった。
「ほら、赤崎さん頑張らないと負けるよ、いいのかー」
いつもいじってくるからここでやり返してもいいでしょ。
「頑張ってもこんなの運じゃん!どうしようもないってぇ!」
赤崎さんの欠点は運か……。
僕は赤崎さんの欠点を見つけた気がした。
「これがラストゲームになるのか、それともまだ続くのか。勝負の6戦目いくよ」
みんなの手元に同じようにカードを配る。
松下 21
如月さん 21
赤崎さん 6
翔 13
僕 17
「あっはは!私となつみはもう勝ちじゃん!」
「うん、すごい」
勝ちの二人がおとなしい感じを一切感じさせないぐらい喜ぶ。
うん、まぁ、これすごい。この二人には運が味方についてるのか……。
「まじかよ、じゃ俺と赤崎さんの勝負か」
「そ、そうですね!勝ちます!」
「いやいや、張り切ってるとこ悪いけどもう決着ついたみたいなもんじゃない?」
松下の言っていることが分かる翔は気づいたあとすぐあぁ!と理解した様子だが、分からない赤崎さんは頭の上で?を出していた。
「赤崎さん、説明するとね。料理を作るのは僕か如月さんの二人だけなんだよ。だから僕は翔と、松下は如月さんと組んで負けたほうの料理を作れる人が作るってことになってて、赤崎さんは僕と組むことになってるから結果、赤崎さんの負けが僕の負けになって僕か作ることになったんだ」
「だから負けても大丈夫なのか!」
「ホントに負けるとは思ってなかったけどね?」
「んー、ごめんね小渡くん。手伝えることあったら言って!できだけ手伝うから!」
「ありがと、何かあったら呼ぶよ」
「うん!」
実質1対1の勝負を何もせずに負けた僕は今日の料理を作りにキッチンに向かった。
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