天空の頂上決戦
それは東王府で少し混乱があったからであった。外の様子が騒がしいと思って窓から見てみると、あちらこちらで火の手が上がっている。火事でも起こったにしては騒ぎが大きい気がする。飛行騎馬隊が敗れたのだろうか、由美が一瞬ではあったが部屋を出た。この隙に寝床の下の未完成の脱出通路に逃げ込むしかない。そしてどこへ出るかは分からぬものの、上へ向けて穴を掘り始めた。気付かれぬように横穴から更に曲がってそこから掘り進め始めた。掘り進めるにつれ、地上の喧騒が近付いてくる。どうやら厳戒態勢らしい。ここで脱出してしまうと却って見つかってしまうかもしれない。そこでここからは横方向に掘り進めて行き、喧騒の少ない所を探した。そうしている内に喧騒がピタリと止んだ。東王府で何かあったらしい。脱出が発覚したのだろうか。にしては遅いような気もする。しかし湿地というのは酷いもので、少し掘ると水が出てくる。お陰で掘削が全然進まない。仕方なくここで横への掘削を諦め、地上に出る事とする。地上に出ると、そこは幸い建物の中だった。倉庫らしい。しかしここも燃えつつあるらしく、あと2分もしないうちにここを出る事を余儀なくされそうだ。倉庫の窓から外を見ると、東王府は大混乱にある。今なら外に出ても問題は無さそうだ。外に出ると、東王府には火が放たれ、由美の救出を行おうとする反乱軍側が東王府を取り囲み、水堀に幾つもの橋を架けている。しかし東王府の火はどんどん燃え広がっている。その光景を見ていると、背後から睡眠薬らしきものを嗅がされ、そのまま意識を失った。目を覚ますと、そこは白亜の空間。それなりに広い。ここはバベルの塔。バビロン市にある世界最高の高さを誇る建物。かつてはここの頂上にスポナーがあった。バビロン市をモンスター共から奪還してゲーム内で何年が経っただろうか。しかしここでは飛行用具も持っていない状況で階段以外から脱出する事は不可能だ。地下牢獄で繋げないと見るや否や地上牢獄とは、中々面白い。しかしどうやってあの混乱の東王府を捨ててバベルまで来たのだろうか。無用の長物と化しているバベルだが、ここなら占拠されているとも思わず誰も来ないし、由美は飛行騎馬でどこへでも行ける。一番便利な場所だ。しかし私にとっては脱出が殆ど不可能な、まさに天空のアルカトラズである。しかもここはその最上階である。下階の様子を少し見てみると、由美らの反乱軍が待ち受けている。これでは降りることが出来ない。近付いた戦闘機も飛行騎馬隊に目の前で粉砕されているため、空からの救助は期待できない。飛行騎馬隊に対応できるのは今や大陸間弾道弾くらいのものだろう。いやミサイルでさえも、発射時に粉砕されてしまうかもしれない。制空権を握られ、我が国は大丈夫であろうか。最早残る都市は存在しても高山くらいのものだろう。そう覚悟していた。由美は「欲しい人がもう居るのに滅ぼす訳ないじゃない」というが、理由も示さぬまま西森市を「硫黄の火」を降らせ滅ぼしたという実績がある。他の都市がどうなっているのかが知りたい。存続していたとしても、私が居ない事で機能不全になっていなければ良いのだが。そうしてまた数日が過ぎた頃、バベルの塔で混乱が起こった。魔術封じを破って魔術を行使する者が現れたとか。反乱軍の女帝である由美の「夫」として認識されている地位を使うと意外にも外の様子も知れるものだ。そうこうしている内に報告が来なくなり、幾つかの銃声の後に階段を上がる音が聞こえる。救援か、反乱軍内での造反か。救援であってほしい。急報を受けて由美が飛行騎馬で塔に突っ込んで来るのと同時に、2つの影がそれを撃った。由美は全く物怖じせずにこちらに近付いてくる。由美を撃ったあの2人の影はそう、萌香と美子だ。短銃型の新兵器を持ったショートヘアーの萌香と、猟銃型の新兵器を持ったポニーテールの美子。萌香が上空へ向けて2発撃ち、停戦を要求する。何とか私は彼女らの許まで近寄り、美子と抱擁を交わす。萌香は「横でそんな事しないでよ」と苦言を呈しながらも由美に禁忌兵器を返還すれば全ての罪を不問にすると告げた。しかし由美は拒絶し、更に無人の飛行騎兵を増やす。こちらも数を多くせねばというと、2人は「この兵器に全エネルギーを使ってるの」という。禁忌兵器が禁忌と言われる所以は数を無限に増やすほどのエネルギーを持つから。そのエネルギーを全て使い尽くすとなると、とてつもないエネルギー量なのだろう。かろうじてポータルからの膨大な恒常的供給があるから撃ち続けられるのだろう。それほどの兵器ですら倒しつくせぬ相手。由美は飛行騎兵を次々を向かわせてきた。彼女らが撃ち損じたものの内、向かってくるのを剣で応戦する。「禁忌の剣」とだけあって、大量に展開して攻撃しない状態なら素殴り1発で敵が砕けてしまう。それに助けられ、どうにか第1波を耐えしのいだ。しかし由美がその飛行騎兵を盾にして決着が付かないのも事実。しかし2人には勝算があるらしい。「もう少し」と言っていた。一体何があるのだろうか。すると階段を上がる音が聞こえる。敵か、味方か。現れたのは盾と小銃を持つ重装歩兵。どうやら「禁忌の盾」で全身を守り、「禁忌の槍」で迎撃するらしい。2人が「間に合ったか」と安堵している様子からも、この重装兵が頼みの綱のようだ。重装兵は我々3人へ向かってくる全ての敵を引き受け、萌香が短銃で由美を撃ち、美子が猟銃で由美の乗る馬を撃墜し、私がその馬を一刀両断する。こうして「禁忌の車」の核は真っ二つに破壊された。由美はその場に崩れ落ちた。ところで、重装兵は誰なのだろうか。訊いてみると、それは私の友人の綾子であった。綾子は萌香の友人で、普通に可愛い。美子とは違う方向性ではあるが、私の話をきちんと聞いてくれるという点が好きだ。というか萌香と美子が私と張り合ってばかりであまり世間話に取り合ってくれないのがいけないのだが。しかしどうしてこの世界に綾子が居るのだろうか。それを訊くと、"It's a long story."(話せば長くなる)とだけ答えて、はぐらかす。そこで何故に英語使うし。しかし大抵のことは見当が付く。ポータルの欠片が含まれる禁忌兵器をポータルとして使ったのだろう。しかし何故綾子を?まあそれについては触れないでおこう。
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イメージとして萌香ちゃんはクールビューティな感じです。




