盗賊団と月都・高山市
東安を後にした私と美子は、拠点である外街1区に戻っていく事とした。
その最中、地図中では「金台」にあたる所の少し前で、重装歩兵団が森から現れ、突如美子を人質に取って、有り金を奪おうとしてきた。
しかし私はこの前に全てをエンダーチェストに入れているので、奪われたのは剣くらいのものだた。
奴らは山賊行為を誰にも言わぬよう告げて、去っていった。
美子は連れ去られたが、その場では何もできなかった。数が多すぎた。
相手は30以上、こちらの圧倒的不利。
取り敢えず一旦東安まで戻ったが、やはり気に食わないので、隠しチェストに貯めていた発火剤で森を焼き払い、山賊行為を働きにくくし続けた。
やがて森林は殆ど焼失し、盗賊団はやがて燃やし残した場所に集まるようになり、そこと本拠を往復するようになった。
後をつけて本拠地を探すと、白亜の城壁がそこにはあった。
それは製作中だった自信作の都市、「月都」市であった。モデルはコンスタンティノープルである。
建設中の立地が、山賊には丁度だったのだろう。
城壁しか作っていないこの未完成都市に何人いるのか、創造者特権の超広域マップでは人が点になって映るようになっている。この前製図屋に売った際の特典として貰った機能だ。
見てみると約3000人。
この世界にある一市街としては最大人口であろう。都市国家連合・三壁共和国にもそこまでの人口を誇る都市はない。
内部は外壁と内壁の間が放牧用地、内壁側が宅地のようだ。
モデルがたったの2度しか陥落した事のない都市とはいえ、実はこの難攻不落の都市には1つだけ弱点がある。そこを突けば陥落するはずであるのだ。
沿岸部には城壁を建てていないのだ。
海からの脅威は無いと判断したのと、面倒だったためである。
そこから攻め込めば問題は皆無である。
すぐに船のための木を調達せねばと思ったが、そういえば周囲を燃やし尽くしてしまったのであった。
周囲200ブロックほどの木は全て無くしてしまったので、わざわざ山を越えねばならなかった。
そしてようやく船を作って、攻め込む。
ここで問題が生じた。鉄製武具を備える彼ら相手に、私は最強の剣の他には一本の枝すら無かったのだ。
敗走してかろうじて命を存えた私は、「例の」武器庫を解放せざるを得なかった。
この世界の全てを引っくり返す、最強の武器庫を。
それは海抜30ブロックの岩山の上にある。
幸い、まだ誰にも知られていないらしい。
外街1区からも南に100ブロック以上遠く、月都の西果てにある「黄金の門」から見えるか見えないかくらいである。
武器にはエンチャントといった魔術効果の付与ができるが、ここには「モメント」と称したフルエンチャントの剣の収蔵庫がある。
それも1万本以上。
そういえば、この武器庫のある「高山市」―モデルはローマである―は半ばローマ風とはいえなくなっている。
岩山の上という事で、いつの間にかアーサー王伝説のキャメロットのようになってしまっているのだ。
この武器庫から最強兵装を取り出した私は、万一死んでも装備が奪われてはいけないので、リスポーンせずに再復帰ができるアイテムである「不死のトーテム」を10本ほど持っていきながら、月都市の正門である「黄金の門」から正面突破する事とした。
守備兵は3人。一撃で切り伏せていく。日本刀ならこれでなまくらだ。
だが「修繕」のエンチャントのお陰で磨り減らない。
牧草地には非武装の者を含めて500人ほど居るらしい。
だが最短ルートで進まねばならない私は、これを無視した。
兎に角、道路を走った。
内壁―かのコンスタンティノープルではコンスタンティヌスの城壁と呼ばれる壁―が見える。
内壁から百人強の武装兵が出てくる。
それに対しては武器を最強の蒼い槍、「トライデント」というアイテムに持ち替え、迂回しながら槍を振り回した。
戦う事が目的ではなく、美子の救出が目的であるから、こんな連中を相手にしている暇はない。
百余人のうち幾人かをノックバック効果で突き飛ばし、内壁の門に到達する。
内壁の門は普段は開いているが、内側からロックを掛ければ入る事はできない。
だから急いだのだが、敵はその機構に気付いていないらしい。
しかし内壁には数倍どころか十数倍の人数が居た。
素性が知られぬように山賊共に紛れ込み、まずは首領とおぼしき人物を探す。
すると、首領はどうやら内壁の上から様子を覗っていたらしく、私が人影を認めると同時に、総攻撃の命が下る。
炎属性効果やノックバック効果があるとはいえ、数百人斬りというものは不可能だろう。
ならば首領と一対一で戦うしかない。追っ手を斬り伏せながら急いで内壁の梯子を上り、首領に肉薄する。
美子の安否を訊くと、どうやら地下に閉じ込められているらしい。
道理で、空中からの探索結果が表示される筈の最新地図でも見つからない訳だ。
敵は、美子の引渡しに1つ条件を突きつけてきた。
この山賊3000人の食糧問題の解決であった。
山賊行為を働くのは三壁市を追い出され、行くアテもなく彷徨っていたからだという。
そして今、農耕地が欲しいのだという。
月都に水道はなく、略奪品で食糧と武器を調達する彼等に治水術は無かったのだ。
そこて私は、農耕用地のある高山市を紹介した。
高山市はまだ誰にも見つかっておらず、そして岩山の南や西には農耕用地があるのだ。
更に言うと、私はこの都市の「住民」が欲しかった。
そしてこちらからの条件として、"元"山賊は全員、我が国「月都帝国」の国民となる事を付け加えた。
彼等はとても喜んでいた。
何故ならこれで山賊をしなくて済むのだから。そして新たな国・月都帝国に受け入れられたのだから。
高山市には約1000人が、屋根のある場所で住むことができる。
内壁や外壁の僅かな空間や地下壕で雨宿り程度に暮らしていた"元"山賊たちは大喜びであった。
彼らはこの世界に転移してほぼすぐに、何らかの理由で安住の地である壁内を追い出され、半野宿生活を強いられていたという。
私は彼等を高山市の守備隊とする事とし、武器庫の武器を与えた。
税金は取らず、賦役として緊急時の従軍のみを義務とした。
それに対して三壁市では重税が課され、債務奴隷となる者もいるのだとか。
商業相手の都市こそいないものの、屋根のある高山市は大いに栄え、競馬場や市場として作ったはずの建造物でさえも、集合住宅として改装するほどだった。
やがて私の住まいのはずだった宮殿も縮小し、高山の人口は周辺を含めると2000人程度となった。
それでも住みきれなかった者の分は、高山周辺の森林地帯を伐採し、そこに小屋を建てていった。
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