美子の西方見聞録
これは会話系の1話です。
美子は西方総司令として護国戦争に参戦した。
西方戦線ではまず北三壁が、次に東安領の多い中三壁の殆どが敵軍に占拠されており、それぞれに国が建ってしまった。
「湿地の民」の三壁帝国―尤も区別が面倒なので北三壁帝国と呼んでいた―に加え、亡命者の正統三壁帝国の2国を平定し、東安よりも西方の領域から敵軍であり侵略者たる「湿地の民」を放逐する任務である。
この西方戦線での戦記は次の通りであった:
北三壁帝国が石野共和国の故地を併合したとか。
石野から逃れてきた人々が頼ってきた。
北石野にもまだ残っていたらしいが、
侵略から逃げてここまで来たとか。
戦線は外街8区で動かない。取り敢えず使者を送った。
これ以上戦線は動きそうもない。
正統三壁と協力しないと恐らく無理だろう。
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正統三壁との協力が出来た。
クロスボウをできるだけ多く使うことで倒すことにした。
外街5区からは数百本集まった。
将軍数人からは力攻めを強く推された。
でもこの「完全兵装」が奪われないことを第一に考えなければ。
奪われれば帝国は終わる、と言ってたし。
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防壁を築いて暫く経って、正統三壁が大勝利して。
ようやく外街8区まで進軍したけど、防衛戦ばっかり。
攻める機会がない。でも将軍たちは「勝機がある」、
「作戦がある」と言って聞かない。
明日、この人たちに1度だけ任せてみようと思う。
これで戦況が変わったらいいな。
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将軍たちが正面突破を挑んで負ける。
兵の半分が死んでしまった。
帰還した兵をもう一度戦地に送り返すのは酷だったけど、
何とか落とした装備品を全て回収させた。
全て私のミスだ。危なかった。報告の使者を送った。
どうやら私が指揮を執らないといけないらしい。
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将軍たちは外街9区に攻め入ったけれど、
まずは囲んでからだと思ったため、石野に攻め入った。
守りは手薄で、すぐに落とせた。
外街10区や北石野が連携を取ると負けるので、
連絡線を徹底的に切って、北石野を降伏させた。
石野に住人は居らず、特に罠もなかった。
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北石野に生存者がいるかも、ということで
調査に向かった。延々と岩山が続く。
到達するとそこには横穴があって、
そこが「北石野亡命政権」の本拠だとか。まるで未開人の生活だ。
北石野まで来た指揮官は私が初めてだとか。
辺境の地だから、と人は言うが、
辺境だからこそ生き残れたのだろう。
ここまで来るのに1日かかってしまったので、
仮の陣屋を置いて留まった。
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外街10区に向けて進軍する。
南下するだけなので、石野の町並みも見えてくる。
石野には謎の建造物が多い。
何かを祀るためのものか、もしくは楽しむためか、
競馬場というには少し小さい施設や、空堀や塹壕などの防衛施設が多い。
住居はそんなになく、ただ大きな宮殿風の駅舎が建つだけである。
石野地域は東西に200ブロック以上あるらしく、
地元民が言うには外街10区との間の峠が開かれてなければ
ここは完全な独立国だっただろうに、と。
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その峠は元から開かれていたらしく、
誰が何のために開いたものかは分からないという。
石野で知ったのは、「謎の建設者」が
この世界に都市をもたらしたということ。それくらいだった。
「謎の建設者」について他に知ることは、と問うと、
意外な答えが返ってきた。
「皇帝陛下なら知られているのでは?」
皇帝が知ってるのだろうか。
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外街10区の城壁はとにかく高い。
推定でも20ブロックほどの高さだ。
それにその壁を乗り越えようものなら、
背後にそびえる高いマンションからの
容赦ない攻撃を受けるだろう。
ならば穴を掘るしかなさそうだ。
門は深く閉ざされ、壁の上は焼けそうなくらいの監視だ。
外街10区の元住民によると、
戦時中に地下鉄が発見され避難所とされたが、
住民が去るにつれ忘れられたとか。
占領時に10区の住民は殆ど去っており、
知っている可能性は低いとか。
そこに忍び込むために、
壁の影に隠れて穴を掘る。
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1日もしないうちに出来た坑道は、
せいぜい1人が通れるほどのものだったので、
もう1日かけて拡張・整備させた。
すると快適な通路が出来上がった。
地下鉄の跡はまだ使えそうな雰囲気だったので
線路上を歩いてそれぞれの駅へ向かう。
本当ならトロッコを用意したかったが、
鉄資源は貴重だ。そこまで使えない。
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10区の地下を歩くと、10区の地面は蓋のようなものと気付く。
地下といっても元は地表で、盛り土された訳ではなかったらしい。
「謎の建設者」は地下の利用を考えて残したのか、
それとも地下鉄は住民が造ったのか。
そんなことを考えているとまるで皇帝みたいと皆は言う。
そうしているうちに突撃準備が整った。
いざ突撃、こう号令を掛けると駅から兵が飛び出す。
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突如建物から現れた我が軍に、敵兵はとても驚いた様子で東に退いた。
外街10区から9区への橋が掛けられていたが、
敵兵は撤退の際に焼いてしまった。
元住民によるとこの橋は無かったらしく、
ちゃんとした道があるらしい。
道を進むと11区。思ったより早く訪れた私達に、
敵兵は恐れをなしたか、それとも勝機がないと感じたか、
理由は何にせよ撤退していった。
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深追いは禁物、そう考えながらも進軍する。
取り敢えずあいつの言った「壁内」は制圧した。
しかしこの戦争が終わったらどうするのか。
ここは誰のものになるのか。
そんなことを訊いていると、決めるのは皇帝だという。
何でも決めやがるのもむかつくので、
勝手に決めてやる、として希望を訊いた。
石野は石野の住民がというように
それぞれの人々がそれぞれの住処を得れば十分という。
なら何故この戦乱は訪れたのか。
三壁は高山に何故攻め込んだのか。
この真相を知った。
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三壁はかつて、この世界唯一の国家だったという。
だから当時の住民達は「全ての土地は我が物」と思っていたとか。
特に南との権力闘争に勝った北三壁ではその傾向が強く、
三壁の他に都市があるのを知らなかった人々は
高山という新天地を遠くから見つけたとき、
「ニュー三壁」なる名まで付けて植民計画を明らかにしたとか。
そしてまだ見ぬ新天地・ニュー三壁の土地が売られ始め、
遠征隊がそこに住民が居ると知っても、
そこで引き下がる訳にはいかなかった、
攻め込む以外の選択肢は与えられてなかったという。
何故なら彼等は北から来た騎士団で、
南に権益を渡さぬように、誰よりも早く、
新天地に足を踏み入れねばならなかったのだという。
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これが全てのあらましだという。
三壁の侵略は南北対立から始まった、
植民地争奪戦争だったのだとか。
だから北の騎士を追い払った新天地の民を
南の人々は歓迎し、そして北へ駆り立てたのだとか。
だから、兵站のためとはいえ南を開発した私には
感謝しているのだという。
だが南が北をそんなに憎むのか。そう訊くと、歴史を教えてくれた。
当初三壁には、北と南でそれぞれに政権があったという。
そして2つの勢力が出会い、壁の全貌が明らかになると、
それぞれの都市圏は密接に繋がるようになり、
「謎の建設者」が誰か、その目的は、という
共通の疑問を解決するために情報を交換し合った。
そして地図を作るようになった。
この段階では互いに独立していたが、
調査が壁外に拡大するにつれ、
石野属州の設置や金台の発見に伴って、
北の政権は南の利権を、やがては
南そのものを飲み込もうとした。
そして南北連合政権を立ち上げて、
南の者を次々と追い出し、
南の主要都市であった上街と外街1区に重税を課すことで
反抗を防いだのだとか。
更には外街2区から住民を追放し、北の植民市としたという。
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壁内を取り戻して、西森共和国では捕虜を得たということで、
西森の方へ行くこととなった。
西森は一時月都帝国の領土になったが
その後自立した場所である。
それよりも前は三壁の支配を受けていた所のはず。
西森を訪れると、聞くのとは全然違う風景が広がっていた。
未開拓の森林、その下に細々と延びる松明の線。
これが西森か、そう思っていると、少し広い道があった。
石で出来た道。見るに明らかに人造のものだ。
この南北の道がまだ知らぬ所まで繋がっているのだとか。
西森共和国といっても、実際は木を屋根代わりにして暮らす文明人。
開拓を夢見て移り住むも、
本国や同盟国の戦争に駆り出され、更には攻め込まれ、
未だ開拓を果たせずじまいなのだとか。
西森に着いて、捕虜から話を聞く。
捕虜、つまりは「湿地の民」もまた転移者なのだという。
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「湿地の民」の自称は湿原王国で、
ここも北と南に分かれているらしい。
南には湿原王国から分かれた第2湿原王国があり、
内乱で分かれたのだという。
今でこそ南北は相互不干渉を取り決めているが、
分裂から以後は暫く戦乱の時代だったとか。
そして湿原王国は南下できなくなり、
南の湿地を失った彼等は、
増えていく転移者の食糧のため、東に西に土地を求め、
そしてバビロン州に辿りついたのだとか。
話を聞くに、東安に行ったときにあいつが行った所だ。
モンスター源があったので今も住めないと聞いたが。
そう訊くと、彼らはそれを知って北の岩山まで逃れ、
東安を見つけたのだとか。
そして東安の建造物もバビロン同様に
モンスターに占拠されているものと思って報告し、
総力を挙げた遠征が行われた。
そうして退けぬ状態で、戦争が始まったのだという。
王は本土に居残っていたが、戦線拡大につれて西遷し、
今は捕虜として別に捕らえられているらしい。
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湿地王国の王らしき人物と面会した。
彼は随分と痩せていた。
湿地軍はどこまで征服していたのか。
そう訊くと、ほぼこの世界の北半分を手中に入れていたらしい。
何故東安を狙ったのか、と問えば、
やはり増大し続ける人口に対する食糧不足らしい。
こちらでは転移者は落ち着いたが、
向こう側では転移者が相次いでいるらしい。
転移を促進するものは一体何なのか。
それは分からずじまいだった。
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一番驚いたのは、この王が転移した場所であった。
この王は湿地で最初の転移者だったのだ。
それ以前にはここに誰も転移しなかったらしい。
つまり何らかの切欠があるはず。
しかし聞き出しても何も得られなかった。
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