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愛でる会、発足:ウィリアム視点

長くなったので分けました。

2話連続投稿です。


コッチがいっこめ。

 彼女と知り合ったのは王都の学園。同じクラスで席の近いクラスメイトだ。

 入学してすぐのグループ課題で、席順で割り振られた同じグループのメンバーとして仲良く話すようになった。


 彼女─セリナ・ミュラー子爵令嬢。

 グループのメンバーには顔の造りも印象も派手なエレノア・ブラッドリー伯爵令嬢や、一部の男子生徒の間では入学初日から『愛と美の女神(ウェイネス)』だと持て囃されているマーガレット・リース子爵令嬢も居て、

 そんな中でパッと見は目立つ所のない筈の彼女が、僕は最初から何故か気になって仕方がなかった。


 同じグループには頭脳明晰で白皙の美貌を持つ候爵令息のレイモンド・キャンベルも居て…自分で言うのもなんだけど僕も『恋の天使(キュピリオン)』なんて騒がれているし…目立つグループだったと思う。


 …因みに紅の髪を持つエレノアは『薔薇の女戦士(ワルキューレ)』、レイモンドは『董の魔術師(マジシャン)』とか言われている。


 どうしてこうも恥ずかしい二つ名を付けられるのかと赤面至極なのだが、僕らは今そういうお年頃なのだから仕方ない。

 まぁ、エレノアの家は武人の一族でエレノアの父君も三大将軍の一人だし、レイモンドの家は魔法伯の称号も持っている魔法一族だから、そっから来てるんだろうけど。



 ともかく、そんな目立つグループに席順で入れられたセリナは最初ものすごく腰が引けているのが丸分かりで

 最初に放課後の図書室に集まった時はカチカチに緊張していて、小柄な彼女は怯えた小動物のようにも見え…むちゃくちゃ可愛くて頬が緩んだ。

 なんだか構い倒したくてしょうがない、という衝動に駆られてあれこれちょっかいを掛けていたんだが

 徐々に慣れてきた彼女の、時折見せるふにゃりとした笑顔にヤられた。ヤバイ、可愛い。癒やされる。なんだこの可愛い生き物は。


 キュピリオン(恋の矢を放つ天使)である筈の僕自身が恋の矢に射抜かれてしまったのをハッキリと自覚した。


 彼女はよく見ればかなり整った美人顔で、ミルクティー色の緩くクセのある細い髪は触ればきっと心地よい柔らかさだろうし、鮮やかなターコイズブルーの大きな瞳はクルクルと表情を変えて愛らしい。

 そんな彼女のふにゃりとした力の抜けた笑顔は癒やしの効果抜群で


(あー、いつまでも見ていたい…)

そう、思った。


 でもどうやらそう思ったのは僕だけじゃなかったようで、気が付いたらグループ内でセリナの争奪戦が繰り広げられていた。


 隣の席の確保や、手分けして調べ物をする時のパートナー、事あるごとに水面下で熾烈な戦いが繰り広げられた。



 セリナを除く4人の思惑はセリナ以外にはバレバレで、このままでは争いは表面化してグループが分裂してしまう。そうなればきっとセリナは悲しむだろう。

 セリナを悲しませてはならない。そういう思いが一致した僕らはある日セリナを除いた4人で集まり、腹を割った話し合いをした。


 エレノアとマーガレットはそれぞれ自分の兄や弟をセリナとくっつけて親戚になり、一生セリナを傍に置こうと画策していたし

 レイモンドも18歳になったらすぐに婚約を申し込むつもりでいる事が分かった。

 なんてことだ。


 僕は伯爵家の次男坊で卒業したら家を出る事が決まっている。

 叔父が第一騎士団で団長をしているので、その伝手で僕も騎士団に入る予定で日々鍛錬しているが

 伯爵家が持っている男爵位を貰う事になっているので騎士団の『臭い』と悪評高い寮には入らずに、王城近くに彼女(セリナ)と一緒に住む為の手頃な家を借りようと思っている。

 彼女(セリナ)は子爵家の次女だし、実家の伯爵家が後ろ盾の男爵になる僕とは釣り合いも取れるだろう。

 そう思って僕こそが彼女(セリナ)に求婚しようと思っていたのに!


 知り合ってからの、この短期間でそこまで将来を見据えた堅実な計画を立てているのは僕くらいのものだろうと高を括っていた。


 僕はここまでしっかり考えてセリナを手に入れたいと思っている、その想いを聞けば他の奴らはしぶしぶ諦めるだろうと思っていたのに

 それぞれが自分の綿密な計画を述べ、それぞれがセリナは自分の計画の方が幸せになれるだろうと言って引かない。


 そして三つ巴ならぬ四つ巴になり

 互いが互いをメラメラとした炎の宿る瞳で睨みつけ、牽制という勝負が繰り広げられるかと思った時──


「あなた方の気持ちはわかったわ。」


 エレノアが腕を組み、尊大な態度で言った


「ここはひとつ、協定を結びましょう。」


 さすが武人の一族。無駄な争いは避け、だが戦いを仕掛ける機は逃さないという訳か。


 そして話し合いの末─


ひとつ、僕らに対する令嬢方の人気を鑑みるに、男性陣があまり近付きすぎればセリナが他の令嬢方から攻撃される可能性がある。

 その為、常のランチタイムはエレノアとマーガレットの女性陣のみがセリナと一緒に取る事。


ひとつ、これ以上ライバルを増やさない為に常に周囲には気を配り、他の男をセリナに近付けないようにする事。

 また、包囲網を掻い潜りセリナに近付く男は早急に把握し、それを排除する為に協力し合う事。


ひとつ、セリナに対する積極的なアプローチは婚約可能になる18歳の1年前、セリナが17歳になったらスタートとする事。


そして、協定破りは脱会となり、セリナに近付く事は許されなくなる事──


 最初のランチタイムについては不満があるが、セリナを護る為だと言われれば引くしかない。

 その代わり、セリナの誕生日や『セリナ嬢を愛でて慈しみ癒やされる会』─通称『ターコイズ』と呼ぶ事になった─メンバーの誕生日など、特別な日にはサロンでメンバーだけでのランチタイムを約束させた。



 セリナが17歳になったら──2年後に、戦いの火蓋は切って落とされる──筈だった。



 結成したばかりの会のメンバーに激震が走ったのは、会が発足してからわずか半月ほど後の事だった。


「なんだって?! それはどういう事だ!」


 いつも冷静沈着な筈のレイモンドの、一瞬にして沸点を越えたような怒鳴り声がサロンに響いた。



 アクセサリーや服飾品を取り扱う商会を経営しているマーガレットの家で、特別に作らせたという会員バッジが出来上がったからサロンを予約して欲しいと言われ

僕が予約を入れたサロン棟の一室にメンバーの4人が集まった。


 会員バッジはなかなかの出来だった。

ホワイトゴールドの翼がセリナを表すターコイズの石を護るように包んでいる意匠で

 渡された自分のバッジのターコイズに思わず口づけると、マーガレットもレイモンドもあからさまにイヤな顔をした。

 そんな事はお構いなしに僕は手の中のバッジを見つめ、いつか僕が、僕だけが彼女にとってのこの翼になるのだと夢想してニヤニヤしていたその時


 遅れてやって来たエレノアが真っ青な顔で告げたのだ


「スタンレイ公爵家の蒼玉の、秘密の婚約者がセリナだという噂があるわ…」


 一瞬、エレノアが何を言っているのか理解出来ずに頭が真っ白になったが、レイモンドの怒鳴り声で我に返った


「どうもこうも…」


 エレノアは額の辺りを掌で押さえ、力無くソファに沈み込む


「三年生を中心に噂が出回っているわ。なんでも渡り廊下で蒼玉の君がセリナを呼び捨てにして親しげな様子で声を掛けたとか。」


 スタンレイ公爵家の…あの双子の蒼の方…ギルバート様か…


「そこからいろいろと噂が飛び交っていて…早急に家の者に調べさせているのだけど、どうやら学園に入学する以前からお付き合いがあるようなのよ。」


 なんて事だ。僕のセリナが…僕のセリナなのに…いや、でも


「でも公爵家だろう? いくらなんでも子爵家の令嬢を婚約者とする訳が無いじゃないか」


 笑いながら僕は言ったが、引き攣った笑いだったろう。ただ信じたくなかったのだ。そんな訳無い、何か家同士の繋がりがあって親しく口を利く程度の話に尾ひれがついてるだけだと。

 でもそんな僕の願いを簡単に砕くようにレイモンドが言った


「…いや、先日の協定の話し合いの時にも言ったが、爵位(そんなもの)如何(どう)にだってなる。

 法的に正式な婚約はセリナの18歳の誕生日を迎えてからになるが

 それまでの間にセリナを伯爵以上の家の養女とする算段がついているのなら…あり得ない話じゃない。」


 実際、私もそうする積もりだったしな…とレイモンドが力無く言うのを、唇を噛み締めて聞いていた。


「じゃあ既に…勝負はついてしまっている、という事…なの?」


 ヘナヘナとマーガレットが座り込む

 だがエレノアは俯けていた顔をキッと上げると(くう)を睨んだ


「まだよ! まだ諦めないわ。現段階ではまだ噂話。まだ本当にそうと決まった訳ではないわ!」


 エレノアの言葉にマーガレットの顔が明るく輝く


「そうよね…! 背後関係を洗うのと同時に、セリナ本人にも確認してみましょう!」


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