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それはオーラというらしい。

 セリナに見える、人の周りの膜とは…乳母のマリサが様々調べてくれたのだが、どうやら“オーラ”と呼ばれるものらしい。

 人の身体から放射される生体エネルギー。

どうもそれが、セリナには見えるらしい。


 マリサがいろいろ調べてくれたのには訳がある。

 幼い頃、自分にだけ視えているものだとは思っていなかったセリナは、母と姉と一緒に居る時に口に出したのだ。


「おかあさまのは可愛らしい桃色なのね。おねえさまは、赤、かしら?」


 一体なんの話だと首を傾げる二人にセリナは(あれ?)と思いながらも説明をした。


「えっと、おからだの周りに、こう、ふやふや〜っと」


 身振り手振りも交えて懸命に説明するセリナだったが、眉を顰めた母が


「変な事を言うのはやめて頂戴! 私、オカルトは嫌いなのよ!」


 思いがけぬ母からの強い非難の言葉と態度に、セリナの頭は真っ白になって、固まった。

 そこへ姉のジョアンナも言い募る


「おかあさまぁ、セリナはちょっと頭の()()()()子なんですわ! へんな事ばかり言って。この間もねぇ─」


 そう言いながら母の手を取り、二人で部屋を出て行ってしまったのだ。


(へんなこと? おかると?)


 訳がわからず固まっていたセリナが、母と姉の言葉を頭の中で反芻し…


(あたまの、オカシイ…子)


 嫌なものを見るような母の視線と、勝ち誇ったような意地悪な姉の顔。

 セリナはじわじわと悲しくなって、涙がポロリとこぼれた。


 一人部屋に残されたセリナを見つけて「どうなさいました?」と声を掛けてきたマリサに泣きながら話した。

 それで、初めてソレはセリナにしか見えていないのだと知ったのだ。


『人に話したら頭のおかしい子だと思われる』


 それ以来、セリナは誰にもそれを話す事はしなかった。


「こんな小さな子どもに、何てことを!」


 憤慨したマリサが伝手を使っていろいろと調べてくれた。

 魂を観るという呪い師達の間で、それは「オーラ」と呼ばれていると。

 それで、そのオーラと呼ばれる生体エネルギーがセリナには視えているのではないか、という事がなんとなくわかったのだ。


 そして黒っぽい靄の事も、それを自分が取り除く事が出来るということも、マリサと、それからマリサの娘のメイのおかげで知ることが出来た。


 メイが12歳、セリナが7歳になった時の事だ。

 セリナの侍女になる為に屋敷に上がったメイだったが、侍女になってすぐ、同じ年頃の使用人の子に嫌がらせをされるようになったのだ。


 最初、メイのオーラはキレイな黄緑色で生き生きとしていたのだが、数日でその色がくすみだして、半月ほど経つ頃には黒っぽい靄がその中を漂うようになった。

 それと共にメイも元気を無くしてゆき…


「ねぇ、メイ。どうかしたの?」


 セリナが聞いても「なんでもありません」と弱々しく微笑むメイが心配になり、セリナはマリサに話をした。

 マリサは最初、ちょっと困った顔をして笑うと「よくある事ですから、お嬢様はお気になさらず」と言ったが

 セリナがメイのオーラが汚れている、黒っぽい靄があるのだと必死に説明をするとびっくりした顔をした。


「セリナお嬢様、オーラの事をメイにも話してもよろしゅうございますか?」


 マリサにそう聞かれて、だがセリナは青褪めて首を横に振った。

 初めて会った時から、明るくて優しいメイの事がセリナは大好きになったのだ。メイに『頭のおかしい子』だと思われたくなかった。


 マリサはそんなセリナを柔らかく抱きしめ


「大丈夫ですよ。メイはお嬢様が大好きですから、変なふうに思ったりはしません。絶対に。」


 そう言われても、セリナは怖かった。泣きそうになりながらイヤイヤと首を振るセリナに「わかりました」と言い、謝ったマリサだったが

 日に日にメイのオーラには黒っぽい靄が溜まってゆき、ある日とうとうメイが倒れてしまったのだ。


 それをマリサから聞いたセリナはとても心配になり、こっそりと使用人部屋までメイを見舞いに行った。


「セリナお嬢様…こんな所にいらしては、なりませんよ」


 力なくそう言いながら起き上がろうとするメイをセリナは泣きながら押しとどめた。

 メイのオーラは黒っぽい靄だらけで、セリナにはメイがよく見えない程だった。


(どうしよう、どうすればいいの)


 こんな靄、とセリナがメイのオーラに触れた時、吸い付くような感覚があった。

 不思議に思って自分の手を見てみると黒っぽいモノが手に絡み付いている。


(うわ! 気持ち悪い!)


 セリナが慌てて手を広げてブンブンと振ると、それは煙のように霧散して消えた。

 びっくりして恐る恐るもう一度手を触れると、やっぱりセリナの手に黒っぽい靄が吸い付いてくる。

 あとは夢中だった。

 メイのオーラに触れて吸い付いてくる靄を手に絡めてひっぱり出しては霧散させ…


 途中で「お、お嬢様?」「何をなさっているのです?」とメイが声を掛けるのも聞こえず、夢中になって靄を取り去って

 メイのオーラがすっかり綺麗な黄緑色に戻る頃には大汗をかいていた。


「「………」」


 ポカンとしたメイと、(やってしまった)と青褪めるセリナは、二人で黙ったまま暫く見つめ合っていた。


(ああ…変な事をしてしまった。これでメイにも『頭のおかしい子』だと嫌われてしまう…)


 視線を外して項垂れかけたセリナの手を、温かなぬくもりが包んだ。見ると、メイの手だった。


「お嬢様…私の為に、何かをなさって下さったのですね…!」


 顔を上げて見るとメイがホロリと涙をこぼすところだった。


「メ…メイ、わたし……」


 セリナはメイに話した。たどたどしかったが懸命に説明した。


「あ…頭が、オカシイのかも、知れないのだけれど…」

「そんな事はありません。お嬢様のおかげで、私の身体はすっかり治ってしまいました。お嬢様の不思議なお力は、きっと女神様からの賜り物です!」


 俯くセリナの手を、両手でギュッと握りしめたメイはキッパリと言った。

 それから眉を下げて笑うと


「実はお屋敷に上がってすぐの頃から、ちょっとした洗礼を受けてまして…」


 苦笑しながらそう言うと、それで気持ちが参ってしまって病気を呼び込んだのかも知れない。セリナにそれを助けて頂いたのだと涙を滲ませて何度も感謝の言葉を述べた。


 メイは「ちょっとした洗礼」と言ったが、後からマリサに聞いたそれは酷かった。

 洗濯に出したお仕着せの侍女服を汚されたり、裏庭に捨てられたり、食事にゴミを入れられたりしていたというのだ。


「使用人同士の()()()()で、よくあるお話でございますから、どうぞあまりお気になさらず…」


 そんな事で気持ちが挫けるようでは、お屋敷勤めは続かないのだとマリサは苦笑しながら言うが、セリナはそれを聞いてショックだった。


 (自分の住む屋敷の中で、そんな事が行われていたなんて…)


 セリナは悩んで、父に話した。

屋敷内の事なので本来は母に話すべきだったのだろうが、この頃はセリナは母と姉が怖くなっていた。


 それからすぐに、メイを虐めていた使用人は解雇されたが、今度はセリナは母に叱られた。

 目を釣り上げて怖い顔をした母がセリナの部屋にやってきて


「どうして使用人の話をお父様にしたの? こんな事でお父様の手を煩わせるなんて、あなたはなんて悪い子なのかしら!」


 セリナをそう叱りつけ、今後家の事や使用人に()()()ある時には自分に言うようにと一方的にまくし立てると、母はセリナの部屋を出て行った。



 そんな事があってから、セリナは一層気を付けるようになったのだが、オーラを見ていてわかる事が増えてくると、逆にいろいろな事が気にならなくなっていった。


 人にはそれぞれ基本となる色があり、それがその人の性格に反映されているようだが、感情の変化でその時々で一時的に現れる色もある事。

 あの黒っぽい靄は、本人以外の誰かからの感情を受け、それを気にしたり不快に感じたりすると、オーラの中に取り込まれてしまい、心身の不調をきたす事。

 元気な時はオーラは大きくなるけれど、元気がなくなると小さくなる事。


 そして、感情で現れてくる色の意味もだんだんとわかってきて…


(お姉様は嫉妬深い方だし、お母様は見栄っ張りなのね…)


 そんな事がわかってきたので、セリナが10歳になる頃にはすっかり二人が怖くなくなったのだ。

 温かく優しいマリサとメイがセリナを程よく甘やかしてくれるし、お父様も時々甘い。

 母も姉も、きっと元来の性質のものなのだろうし、仕方がないのだ。刺激しないよう、あまり関わらないようにすれば被害を被ることも少ない。


 オーラが視えるおかげで2桁年齢になる頃にはどこか達観したようなセリナは、元来のマイペースさで、のんびりと過ごしている。



✼••┈┈┈┈┈┈┈••✼



「セリナ」


 学園の渡り廊下でギルバートから声を掛けられた。

 この国の貴族は15歳から18歳までの4年間を、王都にある学園に通う。

 義務教育ではないが、卒業後の社交の為にほとんどの貴族の子女が通っており、よほどの事情がない限り退学する事も稀だ。


 15歳になったセリナはこの秋から新入生として通い始めたが、ギルバートは17歳、既に3年生になっている。

 ギルバートと双子のジェームスも、セリナの姉のジョアンナと従兄弟のジェラルドも3年生で同学年だ。


 三年前、学園に入学したジョアンナは煩かった。


「学園でジェームス様をお見かけしたわ! ギルバート様とは違ってとっても優しげで、まるで本物の王子様みたいに素敵だったわ〜!」


 セリナに聞えよがしにジェームス様を褒めちぎっていたが、何の意味があるのだろうと不思議にしか思わなかった。

 セリナと仲良くしている─と、どうやら姉は思っているらしい─ギルバートよりも、その双子の兄弟の方が素敵だと、なんの関わりもない姉に言われても「姉はそう思うのか」としか思わなかったが、

 その後の姉の行動はすごかった…らしい。



 この国の貴族は学園に入学する15歳でデビュタントを迎える。

それから学園を卒業するまでは、プレデビューのような扱いだが、この歳から夜会にも参加出来るようになるのだ。

 そしてこの国の貴族は幼い頃から婚約を結ぶ、という事をほどんどしない。


 セリナの祖父母の時代には政略で幼い頃から婚約者が居るのが普通だったらしいが、父母の年代辺りに世界中で大流行した

『婚約破棄ブーム』というのがあったそうな。


 政略を無視して婚約者よりも身分の低い令嬢または平民の女性を恋人にし、卒業パーティーで婚約者である女性に婚約破棄を声高らかに告げる…

 という馬鹿馬鹿しい行為が、その頃大流行した小説が原因で各国で起こり、多くの貴族家が没落したり取り潰されたり、慰謝料や違約金で家が傾いたり嫡男が廃嫡されたり令嬢が国外追放や修道院送りになったり、果ては王族が王籍から抜かれて平民に落とされたり塔に幽閉されたり…したらしい。


 実に馬鹿馬鹿しい。馬鹿馬鹿しいが、それだけに恐ろしい。


 世界規模の災害のようなブームを危惧した国は

『特例を除き、18歳までは婚約者を決めてはならない』

という法を暫定的に定め、それであんまり問題も出なかった為に、未だにそうなっている。

(結婚は、家の事情で急にしなければならない事も発生する事がある為、女性はデビュタントの15歳から可能だ。だから人妻が学園に通っている、という事も稀にある。)


 なので15歳で社交界デビューするといっても、エスコートは家族や身内がほとんどで

身内がパートナーでない場合というのは、卒業する歳から決める婚約者の候補としてお試しのようにパートナーを組む時だ。


 そして、入学したばかりのジョアンナは、自分のデビュタントに、そのお試しのパートナーになって欲しいと、ジェームスを追い掛け回し、まとわりついていたのだそうだ。


 結果としてジェームス様が姉のパートナーになる事は無かったのだが、セリナは姉と同学年の仲の良いジェラルドからその話を聞いて、居た堪れない気持ちになった。

 ギルバートの兄弟だがジェームスとはお茶会の時に従兄弟と伯母と一緒に挨拶をした事があるというだけで、セリナにはなんの接点も無かったが

 あまりの恥ずかしさに思わずギルバートに


「姉がご迷惑をお掛けして申し訳ございません」と謝ってしまったくらいだ。


 ギルバートは割り切りがいいというのか合理的というのか


「君が謝る事ではないし、俺が謝られる事でもない」

と、全く気にしていなかった。



 そういえば学園に入学すると多くの人と関わるからなのか、ちょっとした変化があった。


 ギルバートは入学してから「僕」から「俺」になり、話し方も少し硬さがなくなり、砕けた雰囲気になった。

 そして今年、セリナが入学してからはセリナの呼び方が変わった。


 それまでは「セリナ嬢」もしくは「君」と呼ばれていたのだが、入学後の散歩とお茶会の時から「セリナ」と呼び捨てにされるようになったのだ。


(私もデビュタントの…社交界に出る歳になるのだし、そろそろ立場をはっきりとさせておこう、という事なんだろうな)


 セリナはそう思って納得した。


 そんな訳で渡り廊下でギルバートから声を掛けられたセリナは、まるで使用人のようにギルバートの前で畏まり


「次の休みに行く」


 というギルバートの言葉を、謹んでお受けした。


説明文的なのが

長いーーー



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