元剣聖は腹がすく。
昨日は投稿できませんでしたね。仮眠をとったら九時間ほど寝坊をしていました。
いやぁ申し訳ない。
朝露と、湿度が高めな草の中。
太陽の日差しで目が覚める。
「あー……」
そうだ、昨日は確か泊まれる場所がなくて野営――といってもただの野宿とほとんど変わらないが――をしたんだった、となんとなく昨日のことを振り返る。
「おー、起きたのかい?いい天気だね。お散歩でもする?」
「じめじめしててとんでもなく寝ざめがわりぃ。ちゃんとした寝具でもう一度寝たい」
「あーらら。あの剣聖さんがもうベッドがないとまともに寝れなくなっちゃったんだ―。あんな鋭かった牙が、抜けるもんだねー?」
「言っとけ」
寝起きの光に慣れていない目に太陽光は毒だ。思わず目を背けて影の中に入りたい衝動に駆られる。
身近に影を見つけたのはその直後。そう、リーガンの影が一番近くてなおかつ大きな影だった。
そうと決まれば、メイトは早速リーガンの後ろに隠れるように光を遮った。
「おお?なんだいなんだい、積極的なアピールは嬉しいけど、もうちょっと僕好みのお姉さんな体つきになってから来ていただきたいかな?」
「バカ言え。いくら俺がお前の好みにドンピシャだったとして、俺だからな?」
「体が女子なら女子、なんて考えはもう古いってことには同意するけれど、君はなんだかんだでその体に合った口調になっている気がするよ?」
「そうか?そんなに変えているつもりはないぞ?」
きょとんとメイトは首をひねる。本人には全くそんな覚えはなかった。
「例えば今の言葉だって今までだったら「ねぇぞ?」のところを「ないぞ?」って言ってたりね。口調が荒いのは今までと変わらないけれど、ちょっとはその体に合うようなましな言葉遣いになっていると思うよ?」
「そんなもんかねぇ……?」
そう考えるとなんだか話すのが妙に気恥しくなってしまうロンだった。
そんなことを考えていると、ふと「ぐぅぅ……」と音が鳴った。
メイトのおなかから。
「……腹減ったな」
「そういえば、昨日の夜も大したもの食べてないしね。保存食のおいしくない料理なんて食べる拷問と一緒だよ。栄養を体に取り込むための応急処置みたいな」
「そこまでまずいか?」
「あーあ、これだから戦争で育てられた人間は困るよ。どうせ君はプロの料理も素人の料理も保存食もうまいとしか感じないバカ舌なんでしょ?」
「そんなことねぇよ?」
「そうならいいけど。……とりあえず朝ご飯どうしようか。何か意見ない?」
特に面白い案の思いつかなかったリーガンはロンに話を振った。
彼――今は彼女だが――が突拍子のない回答をすることに関してはむしろ信頼すらしているのがこのリーガンという男だ。
「村にいる馬を盗んで食うとか」
「初めからクライマックスだねぇ……なんで最初に思いつくのが犯罪行為なのさ」
「なんでって、一番楽じゃん?」
野生の動物を探すのも時間がかかるし、近くの村――名前はなんだか知らないが、昨日拒否されたところだ――に言って頼んでもまた拒否されたら面倒くさいことこの上ない。
よって、近くの村の探せば必ず見つかって拒否されることのない家畜を狙うのは至極まっとうな思考、だと彼は思っている。
実際はただの犯罪行為でしかないわけだが。
「……村の人に頼みに行こうか」
「んだよ決めてるんなら最初から言えよ。まともに考えちまったじゃねえか」
「まともに考えて回答がそれってところに恐ろしさを覚えるよ。戦争は人間を変えるって本当なんだねぇー。幼き頃の純粋なロン君を思うと泣けてくるよ……まあ、今も十分幼いわけだけど」
「幼いってほどかぁ?14、5ぐらいだろ?」
メイトはほとんど砕けたプライドを総動員して反論した。今の彼にはこの反論が精いっぱいだった。
「枝葉末節じゃない?」
そして、一言でその残されたわずかなプライドも踏みにじられることとなった。
「うぐっ……!」
「あーダメージ受けちゃったよ……そんな大きな問題かねぇ……?まあ、とりあえず――」
ぐうぅぅ~。
先ほどよりも一段と大きな腹の音がメイトから発せられた。
そして、それにタイミングを合わすかのように、リーガンは言葉をつなげた。
「あの村にいこっか」
誤字報告ありがとうございます!読んでくださっている実感が持ってすごくありがたいです。
評価ポイントもありがとうございます!やる気が上がるぜ……!