元剣聖はしりとりをする。
晴れと曇りの境界線のような雲と、それをものともせずに光を下に届ける太陽。
草がぼうぼうに生い茂っている中で、人や馬車に踏み固められて道になった場所をゆっくりと馬車は進む。
かっぽかっぽと馬はゆっくり進む。まるで平和な今をかみしめるように。
そんな馬車の中には、二人の男女がいた。
ロン――メイトと、リーガンだ。
二人そろって髪を隠し――どちらも特殊な髪色をしているため注目を受けやすいのだ――雑談していた。
「なんで、こんな鈍い馬車を頼んだんだよ」
「えーいいじゃん。風情とか、感じない?あー平和だなー、みたいな」
「戦争に染め上げられた人間には平和すぎるんだよ。お前だって何人も殺してきたんならわかんだろ?」
メイトは不機嫌そうに吐き捨てる。
「んー、まほうじゃ、あんまり自分がやったって感触が薄いからねぇー。ロ……メイトは剣で切ってたから余計に感じるのかもね」
「おいおい、お前が呼び方間違えるなよ」
「仕方がないじゃないか、いきなり人の呼び方が変わったらその名前に慣れるのって時間がかかるものなんだよ」
「そうかもしれんが、にしたってお前がつけた名前だからな?」
そんな話もいつかは終わって、無言の時間が訪れる。
狭い馬車の中、会話はひとつもなくなり馬車と草が風にそよぐ音だけが聞こえる。
メイトは、そんな状態が非常に気まずく感じた。
知り合いと狭い個室で二人。多少気が知れた仲とはいえ、この状況が彼にとっては非常にいずらかった。
リーガンはそんなことを考えもせず、窓から外の景色をのんびりとみていた。
彼は騒がしい男だ。話す言葉は多いし、語尾は長いし、遠回しな発言も多い。
しかし、彼はそれと同時に静かな時間を楽しめる人物でもあった。
ゆえに静まった馬車の中、メイトが気まずい雰囲気を出していても、何も気にすることなく平和な状況を楽しんでいた。
「し、しりとり、しよう」
気まずさに耐えかねてメイトが思わず声を上げた。
リーガンは、少し眠そうに目を細めながら、それに軽く了承した。
「いいよー。しりとりの『り』からね。じゃあ、僕が先行で。『リンチ』」
「初めに思いつくワードが環境と合ってなさすぎでは……?ええっと、『血みどろ』」
「君も大概だけどね?『牢屋』」
「仕方ねぇだろ、平和じゃない環境が普通なんだからよ。『焼け野原』」
青空と風と共に揺れる背の高い草たちに囲まれて、ゆっくりと進む馬車の中。
背の高い帽子をしたイケメンと背の低い、これまた帽子をかぶり、妙にぶかぶかの服をきつく締めて着ている少女が、異様にえぐい単語でしりとりを続ける。
その様子を聞いている御者が恐怖を覚えたのは、当然のことであった。
その後、何故か「客席で凶悪な単語でずっとしりとりしている謎の男女」の噂が御者内で広がったのは、また別の話。
誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
ここまでリアルタイムで追っていただいた方はわかるかもしれませんが、大量に誤字脱字をするタイプなので、見つけたら報告を頂けるとありがたいです。
あと、感想とかも良ければお願いします。