元剣聖は偽名を付けてもらう。
リーガンはつかみどころのない笑みを浮かべて、機嫌よさそうに話を続ける。
「僕がロンがこんな状態になっているのに気が付いてここまで脇目も振らずに来たってわけだよ。……まあ、まさかこんなかわいい姿になっているってのは予想外だったけどさ」
「うるせー俺だって好きでこんなひょろい体になったわけじゃねぇんだよ。で、なんで俺がこんなになったかわかったんだ?」
「そうそう、僕はそれが今話したくて話したくてたまらないんだよ。じゃあ、話すね。まず、さっきも言った通りロンの精霊は今、体の中にいない。大方ナニカってやつに何かをされたんだろうね。何かはわからないけれど」
ロンは眉根を寄せた。
「おいおい、それはさっき聞いたぞ?もったいぶるのはてめぇの悪い癖だ」
「僕からしたらせっかちなのも君の悪い癖だけどね。それはともかく、さっさと結論から教えてしまおう。君から精霊の圧を感じなくなったってことさ」
更に眉根を寄せた
「……ほう」
「あ、わからないって顔をしているね?まあまあ、これはいわばゴール、最終地点だよ。君だって終わりの見えないマラソンをするよりゴールが見えるほうがやる気が増すだろう?そういう魂胆さ」
「力を付けるって点ではゴールが見えないほうがいくらでも走れていいと思うけどな」
「それは君だけだよ。大体の人間はみんな、終わりが見えなきゃ動かない。……と、脱線しちゃあったね。君がどう走ろうと僕には知ったことない話だ。勝手に走っておくれよ。じゃあ、その理由を説明するけど……」
それは、要約するとこういう意味だった。
人の持つ力と、その精霊の力は比例の関係にある。そして、ロンの精霊は人一倍強く、ロンという殻を用いても隠せないものであった。
だからこそ、彼は剣聖と呼ばれるほど強くなれたのだ。
そして、数日前の夜に、不意にロンの内側から漏れ出る精霊の圧が消えた。
それは普通の者には知覚できないものであったが、リーガンもロンと肩を並べるほどの人間。察知するのは容易だった。
それから、もしかしてロンが死んだのかと急ぎ駆け付けた。
「……てな感じで、まとめるよ」
「なんていうか……死んだと思ってたくせに、出合頭にはろろんとか言ってたのか?おまえは」
「いやーロンがタダで死んでいるとは思えなくてね。ユーレイかなんかにでもなってんじゃないかなーと思ってたけど、美少女になっているなんて、想像できるやつは相当な変態だよ」
否定はできないけれど、微妙な気持ちのロンであった。
「と、とりあえず、なんとなーく、ふわーっと、それとなーく、理解した」
「全然理解していないことがわかったよ。こんなに頑張って話した僕の努力は何だったのか……」
「し、仕方ねぇだろ。専門用語みたいな言葉言われたって、理解できないんだよ。意識高い系か?」
恥ずかしさをごまかすようにまくしたてた。
「僕そんな難しい単語も横文字も使ってなかったと思うんだけどなー。まあ、いいや。とりあえずここから出よう」
突然真面目な表情でリーガンは告げた。
「え、なんで?」
「さっき言っただろう?君に精霊の力がなくなったことは僕ら程度の手練れなら全員気が付いている。ずっとここにいては危険だよ。他国からロンの生死の確認のための暗殺者なんかが来ていたら、今の君では対抗できない」
「それは、確かにそうだが」
ロンは床の木目をじっと見つめながら心の中で今の自分の弱さを嘆いた。
俺に精霊の力さえ残っていれば、こんな目に合うこともないのに。
もう、争いごとには疲れたというのに――
「なぁに、こんなに姿が変わってしまったんだ。おまけに精霊の力も感じられないようなか弱き美少女だ。ここから離れてしまえば、安全だよ。それに、僕の放浪の旅にロンみたいな人間は適任だと思うんだ」
リーガンは、慰めるようなものではなく、ごく自然ないつも通りの声で話しかけた。
「僕が偽名を用意してあげよう。……君はネーミングセンスがなさそうだしね。ロン、君はこれからメイトだ。さあメイト、僕と楽しい冒険に行こうじゃないか?」
そかし、ロンにはそのいつも通りのリーガンが妙にありがたく思えた。
「っち、わかったよ。今回はお前の言うとおりにしてやる」
「やったー!これでこれからの旅はさらに楽しくなりそうだ」
子供のように無邪気に喜ぶリーガンを持て、少しだけ心が和らいだ。
そして、さっきの言葉で少し気になる部分があったので聞いてみることにした。
「ちなみに、さっき俺みたいな人間が適任って、言ってたよな」
「うん、いったよ?」
「あれはどういう意味だ?俺にはもう戦闘能力もなにもないぞ?」
「ツッコミ係がいないとボケても面白く無いじゃないか」
そんな理由か、とロンは呆れたようにため息をついた。
名前の元ネタ
ロン 麻雀で相手が振り込んできてくれた時の言葉から
メイト チェスで勝ったときに言う言葉?(ガバガバ知識)
ボードゲームっと、どちらも勝つみたいなところでかけた。