マリナの道具屋開店前
俺は少し早いが、居酒屋を出てトワイライト城に戻るとする。トワイライト城の正門には2人の門番がいる。
その2人の門番はフードを着た俺を見て
「止まりなさい。トワイライト城になにか御用ですか?」
あーそうか。外に出る為だけに作られた認識阻害のフードだから、門番が分からなくて当然か。このフードって正面から見てもそうだが、どんな角度から見ても顔は見えない仕様になっている。なので門番が怪しむわけだ。
「あぁ、すまない。少し散歩をしてただけだ」
俺はフードを脱ぐ。
「こ、これはルーク様!お帰りなさいませ!」
「ただいま」
「ルーク様、もしや1人で外に?」
まぁそうなるよなぁ。王が1人で出歩くなんて考えられない。まぁこの国で襲われる事なんてまずないのだが、それでも仕事は仕事というか、ルールはルールだ。1人ぐらい配下を側に付けて外に行く決まりがあるのだが、それだと落ち着かないだろ?だから1人で出歩いたりするのだが。なので言い訳する。
「まぁ1人になりたい時もあるもんだ。お前達もそういう時ぐらいあるだろ?」
「はぁ…確かに1人になりたい時もありますが、ルーク様は王ですのであまりみんなを心配させないでほしいと言いますか…」
全く以て正論だな。
「まぁでも俺の国は平和だ。何か悪い事に巻き込まれるなんてないだろ?それに1人でこの国を散歩してるだけで心配する奴なんているか?」
「はい…。エール様が…」
いたな。めちゃくちゃ心配してるのが目に見えて浮かぶわぁー。帰ったら絶対「どうして置いていったのですかぁ!」なんて、泣いて言われそう…。
「俺が帰って来た事は内緒にしてくれ。これは王命だ!」
「それは構いませんが、そんな事で王命を使わないでください…。それにばれると怒られるのは私達なんですよ?ルーク様」
まぁこの会話のやり取りを見て分かると思うが、この国の兵士達は俺に凄いラフに話しかけてくる。それは俺も気にしてないというか、こんぐらいがちょうど良い。元々リーマンの俺からしたらだが。
そしてここまで「やれやれまたですか…」的な雰囲気を出しているのは、これは恐らくゲーム時代に、配下を連れずにこの国を散歩しまくったからだな。その記憶が残っているのだろう。別に襲ってくる者なんていないと分かっていたら、この国を散歩ぐらいするでしょ。
それにいちいち配下を側に置くのめんどいし。というか側に置かなくてもゲームだから何も言われなかった。だが言われなかっただけで、配下達はあまり良いようには思っていなかったのだが。この兵士を見てもそれが分かる。
「分かったよ。取り敢えず中に入るよ」
「はい」
俺はトワイライト城の中に入る。門番って意外にしっかりしているんだなと俺は感心した。
取り敢えずメイドに見つからないように俺は城に入り最短で俺の部屋に行こうと2階へ上がり、北の方角に歩いていく。だが結局メイドに見つかってしまう。
「あっ!ご主人様!お帰りなさいませ!」
「た、ただいま」
「ご主人様、何処に行かれていたのでしょうか?」
「あー…まぁ少し散歩だな」
メイドには見つかってしまったが、まだ大丈夫だ。最悪エールに見つからなかったら言い訳など何とでもなる。
「そうですか。エール様が泣きながらご主人様を探していましたよ」
「やっぱりか。帰って来た事はエールには言わないでくれ!王命だ!」
「それは…出来ません」
なにっ!?王名は絶対のはず!それがなぜ出来ないのか!まさか反抗期か?
「何故だ?」
「大変申し上げにくい事なのですが…ルーク様の後ろに…」
後ろ?はっ…!まさか!と俺はゆっくり後ろを振り向くと…
涙が今にもこぼれそうで、両手はスカートを掴んでギュッと握ってプルプルと体は震えている。ま、まずいな…。これは何か言い訳を…。
「エ、エール…ただ…」
「ルーグざまぁあぁーー!!」
涙腺は崩壊して抱き着いて俺の胸に顔を押し付けてくる。いや抱き着いてはいいのだが勢いが強い!
「おふっ!ちょっ!?エール!?」
「なんで私に一言も言ってくれないのですかぁ!私に会いたくなかったのですかぁ!」
「そ、そんな事はないぞ?だから落ち着け?なっ?」
「私はルーク様の専属メイドですぅ!ルーク様の側にいるのが仕事ですぅ!それなのに…」
「分かった。俺が悪かったよ?今度は一緒に外へ出ような?」
「グスッ…。本当ですかぁ?」
エールは顔を見上げて言ってくる。念話の指輪を使えばよかったのに。いや念話の指輪は報告専用にしてたっけな?同じ国にいるなら使うまでも無いと思ってたのかな?
それにしてもエールの大きい胸が当たってるんだが…。エールはいつもより強く抱きしめているから余計に意識してしまう。まぁ寂しかったのは俺のせいだから仕方ないのだが…。今度は1人でこっそり国に帰りあの店に行くか。
「あぁ。本当だ」
俺はエールの頭を撫でてやる。だがエールはまだまだ子供だ。体は大人だが。
ようやくエールは泣き止んでくれた。
「なら約束ですよぉ!」
「あぁ。約束しよう。さて、俺はこの後ゆっくりするから一緒にいてもいいぞ」
「はい!お側にいますぅ!」
俺は部屋に戻る。ちなみに先程話していたメイドは気を利かせてその場を去っていた。出来るメイドだ。
俺はその後、部屋でゆっくりし、みんなで夕食を食べて寝る。エールは寝る前までほとんど一緒だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、俺はエールに起こされて起きる。今日はクインに起こされなかった。
「おはようございますぅ!」
「おはよう。さて今日も1日頑張るか」
俺は起き上がり、朝風呂に行く。エールは、今日はクインではなく自分が起こしたからなのか機嫌が良い。
風呂場に着いて、風呂に入り体を洗い、風呂に浸かる。するとクインがまた出てくる。今度は子供達を連れて。
「あれっ?子供が6匹になってるな」
「ギチチ!」
「なるほど。今日産まれたのか」
実は、クイン達は俺の知らない間に結構活動しているらしく、異次元空間は俺(俺に付いたフェロモン)から半径2キロまでならどこでも空間を開ける事が出来る。
なので2キロ以内のギリギリに空間を開いて、2キロ圏外まで巣作りに必要な木や、花の蜜を集めてくるらしい。やはり子供達にも俺に付いたフェロモンが離れていても、何処にいるか分かるらしく、どれだけ遠くに行っても迷わず戻ってくる。まぁビーコンみたいなもんか?
俺はクイン達の子供達とお風呂の中で戯れて、というかスキンシップを取って少し逆上せてきたからそろそろ出る。
その後、朝食を食べて王都に向かう準備をする。準備をするついでに今日、王都に行きたい者を集う。まぁ少し似たようなメンバーだがまぁいいだろう。
王都に行く準備が終わったので転移門部屋に向かい中に入る。中にはスサノオ、セレス、プリン、ドラグがいた。あとレイアだ。
「レイア、今日は行くのか?」
「妾はいかん。主に言われた物が出来たから渡しに来たのじゃ。これを」
俺は受け取る。ネックレスは金のチェーンで出来ており、宝石が付けられている。すげぇ高価そうだな。もう少し簡単でも良いのだが…。宝石の色は紫、緑、黄色、水色と全て違うな。
この世界での宝石は主に装飾品として使われる事が多いのだが、武器などにも使われることもある。宝石の魔力伝導率はそこそこに良い。魔法の威力を少しあげてくれるのだがそれだけだ。どちらかというと装飾品に使われる事が多い。
「どうじゃ!これも見た目に凝ってみたぞ!このチェーンだが術式が書かれておる。悪意を持った者が触れようとすると発動する。この宝石は妾が集めていた宝石を使ったのじゃ!ちなみにこれは錆びないし千切れないからのう!」
紫はアメジスト、緑はエメラルド、黄色はトパーズ、水色はアクアマリンだ。そこまで大きくない宝石なので価値もそれほど高くない。まぁ宝石云々よりマリナ達を守るために作るのだから、そこまで凝らなくてもいいのだが。まぁでも有難い。
「作ってくれてありがとう」
「お安い御用じゃ!」
「じゃあ王都に行くか!」
他の守護王達も頷く。今日はマリナの店の開店の日だ。
「「「行ってらっしゃいませ。ご主人様」」」
最古参メイド達に見送られて王都に行く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は王都に着いてまずマリナの店に行く。マリナの店に着いて中に入りマリナを呼ぶ。
「マリナいるかー?」
叫ぶと奥ではなく地下からマリナが出てくる。
「いらっしゃいルークさん!」
「あぁ。どうだ?開店準備は進んでるか?」
「えぇ。ポーションをポーション瓶に入れる作業ももう少しで終わりそうですし」
「そうなのか?少し見に行ってもいいか?」
「はい!」
俺はマリナの店の地下に行く。地下に行くとリリナとレナルドもいた。
「なんだレナルドもいたのか」
「えぇ。数が多そうなので助けに来ました」
「そういえばポーションの大樽をポーション瓶に入れ替える時はどうやって入れてるんだ?」
直接入れているのか?
「錬金術師の中でもこうやって一気にポーションを作る方が多いのです。ポーションは薬草1束、魔力茸1つでポーション3つ分出来ます。1回1回作って、その都度ポーション瓶に入れて、とやるのが面倒くさいので一気に作る方が多いのです」
「ですが3つ分ぐらいなら時間をかけて入れれるのですが、大樽になると人の集中が切れてしまうのです。何かの容器に入れて、ポーション瓶を移すにも溢れてしまいます。溢れると私達の手にポーションが付いてしまう。そのポーションを誰が飲みたいのでしょうか?」
レナルドとマリナが説明してくれる。そうか、ポーション3つ分を、ポーション瓶に入れるのはそんなに時間が掛かるものなのか?と思っていたのだが、この世界には元々注ぎ口が付いてる容器みたいな物がないのか。
大樽の上でポーションをポーション瓶に移せば、溢れても大樽の中にポーションが溢れるだけだが、その際は手に付いたポーションが大樽に入ってしまう。気にしないといえばそれだけだが、それを知ってしまうと確かに飲みたくない。
それに汗臭いおっさんが入れてるかもしれないんだよなぁ。レナルドはおっさんではないがな!
「そこで、その話を聞いたポーション瓶作りの方が開発したのがポーションをポーション瓶に移す為の専用の容器です」
専用の容器を見せてきた。1つは小さい容器だが、もう1つは道具だ。
「この小さな容器といいますか、コップみたいな物は1杯でポーション瓶1杯分になります」
コップみたいな容器の取手は少し長めに作られているな。
「そしてこちらの道具ですが…」
まぁ簡単にいえば漏斗だ。木で出来ている漏斗だな。この漏斗にコップ1杯分を入れてポーション瓶が完成する。
ポーション瓶にポーションをどれだけ入れるかは、ある程度決まっている。決められた規定を満たさずにポーション売っているのが国にバレるとポーションを売れなくなる事があるらしい。
この異世界の住人が漏斗を思いついて作った事にはビックリだ。ポーション瓶やポーションを入れる作業なんて簡単だと思っていたが、結構苦労していたりするのか。そして少しでも楽にする為に新たに物を生み出す。
「なるほどな。そういえばポーション瓶が入ってた木の箱に、その容器が入っていたのか?」
「入ってませんでした。なので私がビルドさんの店に行き、貰ってきました!」
「それはすまなかったな」
ビルドさんも酒で浮かれて忘れていたのかもしれない。俺は元々そんな物があるなんて知らなかったからな。もう少し調べれば良かった。マリナには二度手間をさせてしまった。
「いえ、何故かは分かりませんがルークさんの名前を出すとタダで貰えましたので。」
「そうか」
まぁ酒の効果は絶大だという事だ。喋ってる内に全てのポーション瓶にポーションを入れたみたいなので上の階に戻る。エリナちゃんも起きてきて、スサノオがいる事が嬉しくて上機嫌になっている。
「さて、開店準備もこれで終わりだな?」
「はい!」
「じゃあ俺からプレゼントをやろう」
「プレゼントですか?」
「リリナも私も欲しい!」
「エリナもー!」
「まぁこれもちょっとした魔道具でみんなを危険から守ってくれる物だ」
俺はネックレスをレナルド、マリナ、リリナに渡す。レナルドは紫、マリナは緑、リリナは黄色だ。
「私にもあるのですか!綺麗な紫…アメジストですか!」
「わぁ!凄く綺麗な宝石ですね!緑色です!」
「リリナは黄色だ!」
「エリナのは?」
エリナだけ渡されていないと気付いたのか涙目になって見てくる。違うんだ俺からじゃないんだ!
「…我からだ。…受け取ってくれるか?」
「わぁ!スサノオありがとう!」
エリナちゃんは花が咲きほこったみたいな良い笑顔をしている。さてマリナとリリナには俺が付けてやるか。レナルドは男だから頑張ってくれ!ちなみにエリナちゃんは水色だ。
「ありがとうございます!大切にしますね!」
「ルークさんありがとう!」
「ルークさんありがとうございます!」
「気にするな。このネックレスは悪意のある者が触れようとすると、自動的に結界を張る。これは錆びないし千切れる事はないから出来るだけ肌見離さず付けていてほしい」
「分かりました!」
「分かりました」
恐らくマリナとレナルドは俺の言葉の裏を読み切っているだろう。これを渡すという事は、つまりこの先誰かに襲われる可能性があるという事だ。なので真剣に頷いている。
「さて開店時間まで…」
のんびりしようかと言おうとしたら勢いよくマリナの道具屋のドアが開く。そしてその者は俺達を睨みつけてこう言った。
「どういう事だ!マリナ!」
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