商人達の語らい
レナルドさんが来たのでどんどん肉や野菜を焼いていく。もちろん肉には塩をつけて食べる。この世界にはまだ野菜につけるマヨネーズやドレッシングなどはないので、焼いたらそのまま食べる事の方が多い。他の調味料はあるけどすぐに広めるのはなぁー。
勇者ってほとんど子供だろ?マヨネーズの作り方を知ってる子供なんてほとんどいないよなぁ。マヨネーズって身近にある物だし、身近にあるからこそ当たり前のように使っていた。だからマヨネーズの製法なんて調べた事もない。この世界では肉と野菜がある場合は、一緒に食うのが一般的だ。サムギョプサルにサンチュみたいな食べ方だ。
今回使う野菜はティアベルという野菜とニジン(人参っぽい)とグリーンボール(キャベツっぽい)だ。ティアベルはなんの野菜かというと玉葱みたいな野菜だ。目に染みるとこも似ている。
涙とベジタブルか?この世界の野菜はやはり日本と似ていたり、モジッたりする野菜が多い。女神様が決めたのかもな?一番最初に見つけた人が名付けたとかじゃなくて、鑑定したら名前が既に付いてたんだろう。じゃなきゃこんな名前、勇者が全ての野菜を名付けた事になる。それは不可能だろう。それにもし勇者が名付けたとしたら、日本と同じ野菜の名前になりそうだし。
ちなみにティアベルのティアは、ティアベルの形が涙っぽいのと、切れば涙が出るって事で名付けられている。
まぁ誰が名付けたかはどうでもいいか。俺は周りを見渡してみる。
「ほら焼けましたよ。熱いから気をつけて食べるのですよ?」
「うわー!お肉食べる!」
「ララもー!」
「ボクもなのです!」
イーリスが焼けた肉や野菜が大量に盛られた皿を子供達の前に出している。イーリスは年少組といっても、年少組の中では一番お姉ちゃんだから世話をしたがるかもしれない。楽しそうだ。とこっちでは
「こちらも焼けましたよ」
「…ドラグ感謝する」
「スサノオ食べさせてー!」
「スサノオ、可愛いお嬢様の頼みですよ?断ってはいけませんからね?」
「…うぐっ。…分かった」
スサノオは鎧の手で器用に箸を使い、エリナちゃんに食べさせてあげている。完全にエリナちゃんに懐かれたか。微笑ましい絵面だ。スサノオは子供は嫌いではないみたいなのだが、どうやら扱い方がよく分からないみたいだ。まぁ、剣一筋の不器用さんだから仕方ないか。ちなみに箸や木のスプーンや木のフォーク、ナイフもこの世界にはある。
そしてこっちでは
「レナルドさん、お久しぶりです!マリナです!」
「お久しぶりですねマリナさん。トワイライト商会のメンバーになったんですね!」
「はい!」
「ミルハイムさんも塩や砂糖の件ではお世話になりました」
「なに、宣伝だけでアレなら私も役得ですからね。それにしてもどんどんトワイライト商会が大きくなっていますね!これなら大商会になるのも近いかもしれませんね!」
「ですってルークさん!…ルークさん?聞いてましたか?」
いいなぁこういうの。商人同士で語り合う。そしてあっちでは和気あいあいとしてみんなで食事したり。俺はそんな感じでみんなを見てたので、全く話を聞いていなかった。
「あぁ、すまんマリナ。少し考え事をしていて聞いていなかった」
「ですから…」
「ちょっと待ってください!」
マリナが喋ろうとしたら、レナルドさんが話を遮る。なんだ?少し怒ってるのか?
「どうしたんだ?レナルドさん」
「なぜ…なぜ!マリナさんを呼び捨てにしてるのですか!?」
あーやば。やっぱそうだよなぁー。マリナに呼び捨てで良いと言われたが、俺よりも明らかに歳上なのに呼び捨てするのは礼儀がなってないしそりゃ怒るわ。俺が悪いし早く謝ろう。
「いやすまん。流石に呼び捨ては…」
「私も呼び捨てにしてくださいよ!」
「そっち!?」
てっきりマリナの事を呼び捨てにしたから、いくら上司といっても年上なので礼儀がなってないと怒られるかと思っていたのだが、まさか自分も呼び捨てにしてくれと怒られるとは…。
「私も敬語で無くても良いと言いました。流石に呼び捨てで呼んでもらうのはまだ早いかなと思って言わなかったのですが、なぜマリナさんはもう呼び捨てなのでしょうか!?」
「えっ…いやー…まぁそう呼んでくれと言われたから…?」
「でしたら私も呼び捨てで呼んでください!」
「…レ、レナルド?」
「ありがとうございます!」
なんだこのやり取りは。てっきり私はいいですが、歳上を呼び捨てなんてって怒られると思ってたのにそこを気にしたのか。別に呼び方なんて何でもいいと思うのだが…。さすがに女性を呼び捨てにするのは緊張するが。
「レナルド、マリナ、お前らも俺の事を呼び捨てにしていいんだぞ?」
「それはいけません!私達よりも上の立場になるんですから!」
「そうです!ルークさんはルークさんです!」
「そ、そうか…」
「ルークさんは良い人達を商会に入れましたね。羨ましいです」
「そ、そうですか」
いやまぁ、確かに良い人材なのだが、ここまで思ってくれるとは…。有難いのだが重圧が。ここまで信頼されると失敗した時にどうなるかと考えた時は胃が痛くなりそうだよ。そんな事を考えながら適当に話を流す。ちなみに今は交渉の場ではないから、ミルハイムさんが俺を呼ぶ時は様ではなくてさんになっている。
「それよりも先程は何の話をしてたんですか?聞いていなかったので…」
「トワイライト商会は大きくなるのが早いですねと。大商会になるのも早いかもしれませんと話してましたよ」
「そんな話をしてたんですか。どうでしょうかね?一応プランは考えているんですが、そのプランが俺の描いた通りに行くかは分かりませんからね」
「ふふっ。その考えを出来るのは素晴らしい事です。商売は1つのミスで大損、倒産、あるいは借金すらする事だってありますからね。常に危機感を持って挑まないと大変なことになりますから」
ミルハイムさんが言う。俺やレナルド、マリナは大先輩のアドバイスと捉えて真剣に話を聞く。やはり為になるなぁ。1つのミスで店が潰れる事がある。恐らくミルハイムさんはそういった店を今まで幾つも見てきたのだろう。だからこそミルハイムさんの話は貴重なのだ。そこから色々話して、話はマリナの道具屋の話になる。
「マリナさんの道具屋については、また凄い物を出しそうですね。どうなんですか?ルークさん」
「まぁ一応新商品はありますよ?ですがそれよりもミルハイムさん、マリナの道具屋をまた宣伝してくれませんか?もちろんタダでとは言いません」
そう俺は言って1枚の紙をミルハイムさんに渡す。ふふふ。ただの紙ではないぞ?この紙がなければ仕事が手に着かないって言葉が口から出てくるぞ?
「これは?」
「紙ですよ」
「これが紙ですか?手触りが滑らかです。それに真っ白ですね」
この世界の紙は、一般的な色は少し茶色の紙だ。羊皮紙と呼ばれているが、ミルハイムさんが使っている紙は白い。だが真っ白ではなく、くすんだ白だ。その紙は表面がザラザラしている為、書きづらいのだ。俺が持ってきた紙は地球にあるA4ぐらい紙だ。商人や貴族ならこの紙がどれほど使えるのか理解できるだろう。
「これはレナルドの店に置こうと思ってる紙です。ミルハイムさん、これに何か書いてみてください」
「分かりました!」
ミルハイムさんはアイテムバックからインクと羽ペンを出し適当に書き始める。流石ミルハイムさんだ!常に書く物を用意しているとは商人の鑑だな!
「おっ…おぉー!何とこれは素晴らしい!こんな書きやすい紙は初めてです!」
「まぁ最高級紙とでも名付けましょうか」
この世界でも植物から作られた紙はあり、この世界では高価な物で、羊皮紙や魔物皮紙より高い。植物から作られた紙はくすんだ白色でザラザラしているが、これでも高級紙と言われている。それよりも、俺が持ってきた紙は品質が良いので最高級紙と名付けた。ちなみに高級紙はザラザラしたりしているのだが、紙の形はちゃんとA4ぐらいの大きさで四角い。
羊皮紙は書き辛い上に、羊皮紙の形は四角ではない。全て形が異なっており、丸でも四角でもない。とにかく書けたらいいって感じだ。魔物皮紙も似たような感じで、そもそも魔物皮紙と言ってるが、ぶっちゃけ羊の魔物だから似たような物になっている。
「最高級紙ですか!これは確かに貴族や商人などには売れそうですね!何かと書類で紙は大量に使いますからね。それに今の高級紙はザラザラしていて書きにくいと思っている方は多そうですし」
「商人も名簿や商品リストに紙は使いますし、表面がザラザラだと字が汚く、インクが滲んだりして、字が見えにくくなり分かりにくいです。でもこの紙だとそんな事はなくなるんですね!」
「ミルハイムさんも家の売買の為に書類などを持ってきて俺に見せてましたよね?なのでよく使うのかなと。もし宣伝してくれるなら毎月塩と砂糖に加えて、この最高級紙も付けますがどうでしょうか?」
俺はミルハイムさんに宣伝してもらう条件に紙を毎月渡すという条件を出す。塩と砂糖は俺がレナルドに提供しているから、レナルドの許可を取らなくても全く問題ない。というかレナルドもそれで良いという顔をしている。ちなみに字を書くときは真っ黒のインクを使っている。これはイカ墨から作られているみたいで、この世界にもイカはいるみたいだ。食ってみたい。
「くぅ…こんなの付けられたら頷くしかないじゃないですか!宣伝は全力でやらせてもらいますよぉ!」
「ありがとうございます!ところで高級紙って1枚いくらなのですか?」
「高級紙は1枚、銀貨1枚ですよ。ただ単価は銀貨1枚ですが、1枚だけ買うなんて事はできません」
紙1枚に銀貨1枚!?高いなぁー!1枚だけ買う事は出来ないらしいが、まぁそうだろう。恐らく百枚セットで金貨10枚とかではないのかな?
「もし最高級紙を出すならいくらぐらいがいいんでしょうかね?」
「ふむ…。難しいですね。高級紙よりはかなり品質が良く、書きやすい。当然2倍では駄目ですね。レナルドさんやマリナさんはどう思いますか?」
「えぇ、2倍では高級紙が売れなくなってしまいます。敵が増えそうですからね。かといって、紙に金貨1枚は高すぎますから…銀貨5枚ぐらいでしょうか?」
「私もレナルドさんと同じ意見です。売るならそれぐらいが妥当かと…。銀貨5枚でも少し高い気がしますが、上級貴族なら手を出して来るでしょう」
「上級貴族だけではなく、王族も買うだろうな。私だって買いたいです」
おぉ!なんか商人同士話し合ってる。この世界の相場について俺は詳しくないから話に混ざる事が出来ない。だがやはりみんな商人なんだなぁと思ってしまう。新商品の値段についてかなり真剣に話し合っている。こういうのは見てて楽しい。
「ただ単価は銀貨5枚だが、紙を1枚だけで買う人などまずいないですから、束で売ることをオススメします」
「百枚か千枚単位で売る方が良いでしょうね」
「そうですね。私は百枚で売る方がいいと思います」
ミルハイムさん、レナルド、マリナが結論をだす。
「まぁこんなところですかね?私は宣伝をするかわりに少し譲ってもらえますが、追加でレナルドさんの店に買いに行くかもしれません」
「そうですね。その時はお待ちしております」
なるほど。売るなら単価は銀貨5枚で百束で売るのがオススメか。俺はちゃんと頭にその事を入れる。やはりこういうのは商人が決めてくれる方が俺としては安心だな。
「ルークさん、この最高級紙はいつ売り出すのでしょうか?」
「そうだな。マリナの道具屋が本格的に店を開けたと同時に売り出すかな。マリナの道具屋は家具や陳列棚をこっちに持ってきて、置かないといけないから、まだ店を開くには少しかかるだろう?」
「そうですね。仕入などもありますし」
「マリナ。仕入れは前の店と同じ物でいい」
「それはどうしてですか?スペースはかなりありますが」
「少しずつ商品を増やしていきたい。前と同じ物を仕入れるのだが、量はそれなりに仕入れてくれ。迷宮に近いから客も来るだろうし。ただ下級ポーションと下級魔力ポーションは仕入れなくていい。それは俺が用意する」
本来であれば毒消しの薬や麻痺消しの薬とか仕入れるのだが、今はいい。少しずつ商品を増やしていきたいという事は、毒消しの薬とかも後々作るって事だな。ポーションや魔力ポーションも俺が作るから、マリナが仕入れるのは今のところ松明や魔除けの結界だけでいいって事だ。
「ポーションはルークさんが用意するのですか…分かりました。仕入れは前と同じ商品を仕入れ、ポーション系は仕入れません」
「それでいい。あとマリナの店にも新商品は置くからな」
俺が爆弾を落とすと商人のみんなが食い付く。凄い食いつきだな。まぁでも商人なら誰もが気になると思うし、無理はないか。
「それはどういう物ですか!?」
「気になりますね!」
「教えてはいただけないでしょうか!?」
「まだ内緒だ。楽しみにしておいてくれ」
みんなはガッカリする。
「まぁそう落ち込まないでくれ。そう遠くない日には売り出されるんだからな」
「ふふっ。やはりルークさんといると退屈はしないですね!」
ミルハイムさんとマリナも頷く。そんな話をしながら食事は終始楽しく終わった。
「では皆さん今日はありがとうございました」
「ミルハイムさん、また一緒に食事をしましょう」
「はい!その時は是非」
「ドラグ、店まで送ってやってくれ」
「畏まりました」
「ドラグさん、ありがとうございます」
ミルハイムさんはドラグを連れて店に帰っていく。まぁミルハイムさんはこれからもお世話になるし、また近いうちに会う事になるだろう。
「では私も店に戻りますね」
「あぁ、レナルドもまた一緒に食事しよう」
「はい。お願いします」
レナルドも店に帰っていく。まぁレナルドの店はすぐそこだからお供はいらないだろう。それにヴィーナの配下がそれとなく見守っているし。
「では私達は前の店にある看板や家具、陳列棚を持ってこないと行けませんので、それを運んでくれる人達を…」
「あー少し待ってくれ。その事だがな、業者は呼ばなくていい」
この王都にも家などを作ったり壊したり、引越しの手伝いをしたりする事を専門にした商会がある。だがそんな商会を頼らなくてもあてはある。俺はヴィーナに念話をして、ボックススライム持ちの配下を俺の元まで来るようにと指示してある。おっ?ちょうど来たようだ。配下がマリナの道具屋の店に入ってくる。
「お呼びでしょうか?ルーク様」
「あぁ。ここは新しいマリナの道具屋なのだが、前の道具屋の引っ越しを手伝ってほしい」
「畏まりました」
「悪いな。こんな事に呼び出して」
「いえ、命令とあれば」
慕ってくれるのは有難いのだが簡単に言えばパシリだ。申し訳ない。
「という事でマリナ。この方が手伝ってくれます」
「は、はい!ありがとうございます!なんてお呼びすればいいでしょうか?」
「好きなようにお呼びください」
「じゃあ偵察部隊の部下Aだからテイエイ君で!」
「テイエイさんですね!よろしくお願いします!」
「はっ!」
「でも1人で大丈夫なのでしょうか?」
「ご安心ください。私のマントの中にこの子もいるので」
マントを開くとボックススライムが出てくる。プリンの配下のスライムは俺達の言語を理解してるから頭がいい。当たり前だが、魔物で出てくるスライムは俺達の言葉はもちろん、プリンの言葉も理解できていないみたいだ。
「きゃ!?スライム!」
「ママどうしたの!…ってスライムよ!」
「スライムー!」
「まぁ落ち着いてくれ。魔物だが、俺の配下なので何もせんぞ?」
「あっプアルなのです!何してるのです?お仕事?そっかー!偉いのです!」
プリンは自分の配下と喋れるみたいだ。どうやって喋っているのだろうか。だが1つ言える事はプリンがプアルを両手に持ち、それに話しかけている姿は可愛い!それよりも
「プリン、自分の配下に名前を付けてるのか?」
「そうなのですよ?」
「全てのスライムに?」
「はいなのです!」
どうやらプリンは全ての部下のスライムに名前を付けてて、その違いも分かるようだ。そして全ての配下の名前を憶えているようだ。凄いな。俺には全て一緒に見える。
「そ、そうか。取り敢えずマリナ達、このスライムはボックススライムといって、アイテムバックと同じ効果があるスライムだ。重たい家具などもこの子に任せてくれればいい」
「まぁ!それは凄いですね!頼りにしてますよ?」
ボックススライムのプアル?は頷く。本当にちゃんと言葉を理解しているのか!賢すぎだろ!
「俺も少し用事というか、行きたい所がある。なのでまた来るよ」
「えー…。スサノオ行くの?」
エリナちゃんがすごい寂しそうだ。かなり懐いてたから離れるのは嫌なのだろう。
「スサノオは護衛についてやってくれ?」
「…ふむ。…分かった」
スサノオも嫌そうではないから少し安心した。スサノオもエリナちゃんの顔が悲しむのは見たくないのか?なんにしてもエリナちゃんは笑顔になったからいいか。
「じゃ俺は行くよ。プリン、イーリス行くぞ?スサノオ、テイエイ、少し任せるぞ」
「はい!」
「はいなのです!」
「…承知」
「畏まりました」
まぁ行きたい所はただトワイライト王国に戻りたいだけなんだけど。まだトワイライト王国の存在はマリナには伝えないでおく。俺とイーリスとプリンは一旦トワイライト王国に戻るのであった。
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