マリナの新しい道具屋
俺達はミルハイム商会の店に着く。イーリスにかなり力強く腕を抱きしめられていたが、どうやら俺の腕は持ち堪えたらしい。
スサノオの肩の幼女はやはり目立つみたいで、チラチラと見られている。ったく見せもんじゃねぇのにチラチラ見やがって。……最近心の中の口調が日本にいた時の俺になってきたんだよなぁ。
定時で帰れると思っていたら上司に残業してくれないか?と言われた時。もちろん断ればいいんだよ?でもそんな勇気は俺にはなく。何故かって?残業してくれないかと言わる時は、決まって上司は「君、一人暮らしだよね?俺の家には妻と2人の子供がいてね。家族サービスをしてあげたいんだよ。頼めるかな?」。
そりゃそんな言葉を言われれば断る勇気なんてなくなりますわぁ!そこで断ったら俺が悪者扱いですからねぇ!ズルいですよねぇ!家族を使うなんて!1人暮らしですけど、あんたの為に働いてる訳じゃないんですわっ!
心の中ではヤンキーの如く、口から出てくる言葉は「あっはい。楽しんでください」。いやここで断れば確実に会社の中では居心地悪くなる。表面では良い人ぶって、心の中では毒突く。自分でも性格悪いとおもってますよっと。
だが日本にいた時の俺みたいになってきたって事は、俺がこの異世界に慣れてきたからかな?まぁでも、日本にいる時よりかはかなり充実してるし、毒突く事なんてあまりない。だって日本にいた時は出会いすら無かったんだぜ?今はどうよ?
「マリナさん着いたよ」
「ルークさん!その…呼び捨てで…」
「あ、あぁ悪い。マリナ、中に入ろうか」
未亡人とはいえ、初めて良い感じになっているのだぞ?もちろんイーリスやセレス達も俺の事は好いてくれているのだが、俺の子供っていう感じだからなぁ。
フリージアさんも妖精だし。いやフリージアさんもかなり可愛いのだが、別に異種族だから結婚は嫌と言ってるわけじゃない。ここまで好意?を持ってグイグイ来られたのは初めてだからドキドキするというか…。
そりゃ金目当てで近寄ってくる女性がグイグイきてもはぁ?ってなるのだが、マリナさんは明らかに俺の事を好意を持ってるからして…。あーもう今はこの話はどうでもいい!
それにしても…うーん…。やはり呼び捨てはまだ馴れない。まぁでも、徐々に馴れていくしかない。また言われそうだし。俺達はミルハイム商会の店に入る。
「いらっしゃいませ!」
ん?前と違う人だ。前と同じ人ならすんなり通してくれると思ったんだが、これは無理そうか?
「ミルハイムさんに会いたいのですが」
「今日は誰とも会う予定はないですが…。会いたいのでしたらご予約をしてからお願いします」
「一応ミルハイムさんに聞いてくれませんか?」
「ミルハイムさんは貴方と違って忙しいんです!お引き取りください!」
なんだこの従業員は。聞いてくるぐらい良いだろう。というか態度が少し腹立つ。この少し若い従業員め、天罰が下ればいいのに。まぁ俺は大人だから腹立つが、これぐらいじゃあ顔や言葉には出さない。そう考えていると奥からミルハイムさんが出てくる。
「どうしたんですか?」
「あっ!ミルハイムさん!この方がミルハイムさんに会いたいとしつこいのです。会うご予約を取られていないならお引き取りくださいと申し上げたのですが」
ミルハイムさんは俺を見る。そしてまた従業員の方に顔を向けて。従業員はなんか勝ち誇った顔をしているのだが…お疲れ様。
「この大馬鹿もんがぁー!あれほどルーク様が来られた際はアポを取ってなくても通すように言ってましたでしょう!」
おぉ!ミルハイムさんが怒るのはレアではないかな?少し意外な一面を見た。見た目からして温厚そうなミルハイムさんを怒らしたのだ。この従業員は違う意味でやり手だな。まぁ天罰が下ったという事で。
「えっ…?えぇ!この方がルーク様ですか!?だって…まだ子供で…」
「いつも言ってますでしょう!人は見た目で判断してはいけないと!」
「す、すいません…」
「ルーク様、この度は本当に申し訳ありません!私の監督不行き届きです」
「いえ。気にしていませんよ?」
俺は涼しい顔で言う。さっきは天罰に下れとかおもっていたが。
「そう言ってもらえると助かりますが、この埋め合わせはどこかで…。さっルーク様奥にどうぞ」
俺達は奥に通される。客間に通されてソファーに俺とマリナ一家が座る。守護王達はいつもの様に後ろで立っている。
テーブルにお菓子などが置かれるのを見て、ララが一目散にテーブルの上に座ってお菓子を食べる。エリナちゃんもララに続いて食べているが、リリナは我慢している。かなり食べたそうにしているが。
「今日はララちゃんがいるんですね。皆さんどうぞ食べてください」
ミルハイムさんがニコニコと言う。食べて良いと言われたのでリリナも食べ始める。俺も1つ食べてみる。…ん?前のお菓子はそこまで美味しくなかったが、かなり美味しくなってるな。
「美味しいな」
「えぇ。ルークさんの商会の砂糖を使わせて頂きました。やはりこの砂糖は甘くて美味しいですねぇ!」
だからか。砂糖を変えるだけでこうも違うものか。それほど拠点宝珠から買える砂糖の品質が良いという事だ。ララとエリナちゃんとリリナは夢中で食べている。
「ルーク様、今日来たのはどういった件で来られたのでしょうか?」
「ん?あぁ、今日は道具屋を開く為の店を見に来たんですよ。良いところがあれば買おうかなと」
「それはありがとうございます」
「店主は俺じゃなくて、さっき俺の商会メンバーになったマリナですけどね」
話を振ったのだが、マリナはめちゃくちゃ緊張している。そう言えばミルハイムさんって王都ではかなり有名な人だったっけか。それも商人なら誰でも知ってる人だ。気軽に会ってたから忘れてた。そりゃ緊張もするか。
「マ、マリナの道具屋を営んでおり、その店主をしています、マリナです」
「聞いたことがない道具屋ですね。何処にあるのですか?」
「中央通りから東北の入り組んだ場所にあります」
「ふむ…。立地は最悪ではありませんか?」
「はい」
場所を聞いただけで立地の良し悪しが分かるとかすげぇ。やはり不動産的な事をしているから、人気のない場所もほとんど把握しているのではないのか?だったとしたらマジで凄いぞ!
「なので客が来そうな店を買おうかなと」
「なるほど。理解しました。では少しお待ちください」
ミルハイムさんは席を離れる。いつものを持ってくるのだろう。と少し待つとミルハイムさんが書類を持って戻って来る。
「お待たせしました。立地が良く、道具屋に適した店舗兼住宅を見繕って来ました」
「ありがとうございます」
「では早速ですが、こちらが中央広場から少し南の大通りにある店です。中央通り南エリアは宿屋が多いので、客がよく立ち寄ると思いますよ。ただ店が少し小さめです」
「なるほど」
ふむ。確かにあそこは宿が多くて人もかなり多いイメージだ。宿から出て迷宮に潜る冒険者も、一番近い道具屋という事でかなり立ち寄ってくれそうだ。だが、店が少し小さめなのは少し、いやかなりマイナスかな?商品を置くのはもちろん、その店はそのままマリナの家にもなるのだ。ならもう少し大きくてもいいかなと俺は思う。マリナも真剣に頷いている。
「次に中央通りから北の大通りにあるお店ですね。迷宮から少しばかし遠いですが店はそれなりに大きいです」
うーむ。店は大きいところに関しては良い。だが迷宮、もとい冒険者ギルドから遠いのはいただけない。迷宮から遠いというのは、それだけ冒険者が店に来る足が減るという事。それにこの場所は貴族街に近い。貴族街に近いという事は、貴族に会うかもしれない。貴族に絡まれるとめんどくさいので、冒険者もあまり来たくはないだろう。俺的には保留だな。ちなみにマリナはまた頷いているだけだ。
「ふむ」
「そして最後に中央通りから西の大通りにあるお店ですね。迷宮からは一番近く、店の大きさは普通ですかね?最初に紹介したお店より大きく、2つ目に紹介した店よりは小さい。いま、立地が良いお店となると、この辺りが最有力候補ではないでしょうか?」
ふむ。なるほど。最後のお店は良さそうだ。まぁ店はそこそこ大きいし、迷宮から近いってのもあるのだが、何よりレナルドさんのお店と近いんだよ。なかなか良いと思う。それにこの場所はそれなりに人が通ると思うし。一番の有力候補だ。
「マリナから見てどのお店が良いと思う?」
「私が選んでも良いのでしょうか?」
「あぁ。マリナのお店になるからな」
「…ありがとうございます。私はやはり最後のお店が良いと思います。道具屋なのでやはり迷宮が近いお店が良いと思います」
「なるほど」
マリナも俺と同じ最後の店を選んだか。流石はマリナだ。俺と息ピッタリではないか。相性抜群か?まぁ一番有難いのは悩まなくて済むことだな。
「ミルハイムさん、最後に紹介された店の中を見てきても良いでしょうか?」
「私も見たいです」
「はい!それはもう大丈夫ですよ!私も一緒にご同行しても宜しいでしょうか?」
「それはこちらとしてもありがたいです」
「では早速行きましょうか」
ミルハイムさんと俺達は店を出て、もしかしたら買うかもしれないお店の内装等を見に行く。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちが選んだお店候補の家は、ミルハイム商会からそこまで離れていない。歩いて10分ぐらいで家に着く。
「着きましたよ。ここが私のお店で紹介させていただいた空き家です。ささっ、中にどうぞ」
俺達は中に入る。ほぅ、中はそこそこ広い。マリナの道具屋よりは断然広い。いや、マリナの店が狭すぎるのだ。よくあんな場所で商売してたなと言いたい。マリナの道具屋にある、商品を置く陳列棚をこちらに持ってきても全て入るだろう。というか、全ておいてもスペースはまだあまるだろう。
「すごい広いですね!」
「そうですか?お店を開くにはこれぐらいの広さは普通だと思いますよ?」
ミルハイムさんがこれで普通と言うのだ。マリナの道具屋は普通ではないって事がよくわかる。なので陳列棚を置けても商品自体は少ししか置けない。なので仕入れる商品も考えなくてはいけない。普通の道具屋なら毒消しの薬や麻痺消しの薬なども置かれているらしいのだが、マリナの道具屋は下級ポーションと下級魔力ポーション、松明に魔除けの結界等しか売られてなかったからな。いやまじで、よく今まで頑張ったなと俺は思う。
「こちらには倉庫もあります」
店の奥には2つの扉があり、入り口から見て右側の扉が倉庫になっている。確かレナルドさんの店もこんな感じの構造だったよなぁー。あぁ、もう分っていると思うが、マリナの店には倉庫すらなかった。言ってて悲しくなるよ…。
そして入り口から左の奥の扉は、生活ルームがある。食事を作ったり、みんなで食事を食べるスペースだ。ここはそれなりに広い。その更に奥にもう2つ扉があり、1つはトイレになっている。もう1つは店の裏、外に出る扉だ。そこでは水浴びや、洗濯物をする場所で、周りは少し高い塀で囲まれているので、見られる事は無い。
ちなみにトイレは便器ではなく丸い椅子っぽい、木で作られた便器だ。丸い椅子の真ん中はくり抜かれている。便器の下は金属の配管?みたいになっているらしく、王都の地下に全て流れ着く仕組みになっている。そこには大量のスライムがいて、人間の排泄物を食べてくれているのだが、放って置くと増えすぎるので、定期的にスライムを駆除するらしい。
そんなことよりこの店に寝る所がない。と考えていたら
「こちらに2階もあります」
2階があったのか!2階には木で作られた階段から上るらしく、ご丁寧に手摺まである。どうやら2階が寝室になっていたようだ。2階には、2つ部屋があり、どちらも同じ大きさの部屋だ。ふむ。なかなかいいんじゃないのか?
「なかなか良い家兼店じゃないのか?」
店はどんな間取りが良いかとか俺には分からんから強く勧める事が出来ないが。
「はい!ですが、すごく高そうです」
「ママーここが私達のお店になるの?」
「ここがいいー!」
リリナとエリナは寝室を見て凄くはしゃいでいたからなぁ。リリナとエリナは恐らく同じ部屋だが、自分の部屋になるのだ。はしゃぐのも無理はない。
「まだ分からないわ。あまりルークさんにも迷惑かけれませんし」
「まぁそこは気にしなくてもいい。ミルハイムさん、この家はいくらですか?」
「はい。この家を借りるのであれば一月金貨15枚。買うのであれば金貨750枚です。ただ、先程私の部下が失礼な事をしてしまいましたので、金貨700枚でどうでしょうか?」
俺はまたチラチラとマリナを見ているが、顔が真っ青を通り越して白い顔をしている。まぁ普通の家ならここまではしないが、立地なども良くすぐ店を始められそうな家だからこれだけ高騰しているのだろう。店を持ちたい商人達からすれば理想の立地だろう。
ミルハイムさんも商人だし、それを分かっているからこそ、ここまで高くしているのだろう。その上で売れると確信している。普通に住むだけなら金貨400枚ぐらいで買えるだろうな。だが!
「分かった。ここにしよう。イーリス木魔法で四角い箱の入れ物を作ってくれ」
「分かりました」
イーリスは使いたい魔法があれば、その色に対応した尻尾を出さないと魔法を使えない。なので今は黄色(黄色はいつも出してる)と深緑の尻尾が出ている。
麻袋とか持ってきてないので、この木箱に金貨700枚を入れる。その光景を見てたマリナさんが、また驚いて口が空いている。普通は金貨700枚なんて持っていないだろうし、700枚ポンと出さないと思うわな。というかあの顔は借りると思っていたのだろう。
「私は麻袋を持ってますので、金貨700枚ここで数えながら麻袋に詰めていきます。ルーク様はこちらの書類に名前を書いて貰えますか?」
「分かりました」
俺は書類に名前を書く。ざっと読んだところ、この所有地の証明書みたいなもんか。これはマリナが持つより俺が持っていた方がいいだろう。この証明書を誰かに取られると、何かトラブルがあった時に、ここの所有者と納得してもらえないし。
「書けましたよ?」
「ありがとうございます。ではそちらの書類を大事に保管していてください。ここの土地が誰の物なのか証明できる紙ですので」
「分かりました。マリナ、この書類は俺が保管しとくぞ?」
俺はそう聞いたが、まだ固まっている。
「マリナー?」
「は、はい!お願いします!」
ようやく動き出した。大丈夫か?マリナには少し刺激が強かったが、これから金貨700枚なんてすぐに貯まるかもしれないのにな。金貨700枚を数えるのは少し時間が掛かったが、ようやく数え終わる。
「金貨700枚丁度ありました!ありがとうございます」
「こちらこそ助かりました」
ミルハイムさんは金貨を詰めた麻袋をアイテムバックに入れる。流石は大商人、アイテムバックぐらいは持ってるか。
「ルーク様、他に何かご用はお有りですか?」
「俺は他には無いですね。そう言えばそろそろお昼ですよね?一緒にどうですか?」
「それはありがたいです!是非お言葉に甘えて」
「マリナ達も一緒に食べようか」
「いいのですか?」
「当たり前だろ?ミルハイムさん、この家はもう使っていいんですよね?」
「はい。もうルーク様の所有物になりましたので」
「じゃあ昼にするか」
俺達は昼の準備をする。この店の食事するスペースもそれなりに広いから、みんな座れるのだ。足りない椅子などはイーリスの木魔法で作ってもらう。
まだ少しだけオークの肉が残っているのでそれを使う事にする。明日になれば解体も済んでるから、また食材が手に入るし、多めに使うか。料理するのは俺ではなくイーリスやドラグなんだが。家の中だが焼いてすぐ出来るバーベキューにするか。
あとレナルドさんも呼ぼ。俺はレナルドさんに念話したらすぐ来るとの事だ。さぁ楽しい食事になりそうだな!
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