マリナの決意
「マリナさん、1つお聞きしてもいいでしょうか?」
「はい。何でしょうか?」
「今でも出来るなら商人をやりたいと心から思いますか?」
「それは…そう…ですね。今でも人に感謝されるのは好きです。ですが娘達を守る為には店を閉じて、店を売るのが一番最善ではないかと思います」
娘達…か。なるほど。マリナさんは今でも出来るなら商人を続けたいと思っている。だがそれは自分のわがままで、この先続けたとしたら、確実にお金は底をつき、娘達に大変な思いをさせてしまう。旦那さんとの約束もあるし、何より娘達の方が店より大事なんだろう。店を売って少しでも生活の足しにして、娘達にできるだけ不自由の無い生活をさせるのが一番ではないだろうかと思っているのか。
「そうですか。では俺から提案があります」
「提案ですか?」
「そうです。いま、マリナさんは店を閉じて売るのか、店は大事な思い出だから店を残したいかと迷っていますね。でもそれは余計にお金が掛かる」
店を開いているという事はもちろん商人ギルドに登録しているだろうし、年会費、税金が掛かってくる。恐らくいまのマリナさんは年会費と税金を払うのも難しいだろう。それだけではなく、食費等もバカにはできないしな。
「はい。夫が必死で貯めたお金で開いたお店ですから。ですが娘達の為なら売るのも仕方ないのかと思います」
マリナさんにとって店は大事だが、それよりも大事なのは娘達だ。親なんだからそりゃ当然だよな。まぁ店の方が大事だと言う輩は少なからずこの世界にもいるとは思うが、マリナさんは前者だ。尚更俺のマリナさんに対する好感度はアップだぜ!だからこそ、俺はマリナさんに3つ目の選択肢を与えるのだ!
「でしたら、その選択肢に俺の提案も追加してください。俺の提案は新しく道具屋を開くです」
「新しく道具屋を?先程も言いましたが、私にはお金がありません」
「えぇ、ですから俺が店を用意します。ここの看板もそのまま使ってくれても構いません。それとマリナさんの家族の食費等も支援します。もちろん仕入れのお金も俺が出します」
「ちょ、ちょっと待ってください!私達に利がありすぎます!それに何故私なのですか!?」
まぁそう思うのは無理もない。なにせ商人は星の数ほどいるんだから。…いや流石にそれは言い過ぎたが、この王都でも百人はいるだろうし、これから商人になりたい者は、それこそ山ほどいるのだから。それなのになぜ私なのですか?当然の疑問だ。
「レナルドさんが紹介するぐらいの商人なので特に疑ってませんでしたが、自分の目で確かめても確信しました。俺はマリナさん、貴方が欲しい」
「わ、わたしを…ほしいっ!?」
俺も真剣だったのでマリナさんの目を見つめて言う。マリナさんは顔を真っ赤にして顔を両手で抑える。あれ?俺が思っていた反応と違うな…。
「な、何を言ってるのですか!?わ、私は夫だけのもので…。それにルークさんは私よりも凄く年下で…」
ん?これは…変な勘違いをしているのかもしれない。まずい…すぐ訂正しなければ。
「いやあのー…確かに欲しいとは言いましたが、良い人材としてですよ?」
「…えっ?あっ…!…そ、その私ったら何を勘違いしてるんでしょうね!そうですよね!人材としてですよね!や、やだ私ったら…!」
凄く慌てている。取り敢えず俺は落ち着くのを待つ。いや…俺の言い方も悪かったが、目を合わせずらくなってしまったなぁ。いや!それだと俺の真剣さが伝わらない!恥ずかしいが目を見よう!と大分マリナさんが落ち着いてきたから声をかける。
「少しは落ち着きましたか?」
「は、はい。すいません。そんな熱い視線で、刺激的な言葉を言われたのは久しぶりだったので…」
いや何を言ってるんだ?この人は。俺も悪いが娘達がいるんだろ?本当に大丈夫か?まぁ商売に対しては本気ってのは理解したが。
「そ、それで何故私を…その…欲しいと思ったんですか?」
なんでそんなに恥ずかしそうなんだ?人材の事だからな?
「そうですね。1つは商売に対して本気だと分かりました。感謝されるのが好きですし、迷宮から遠いですが、来てくれたお客に対してポーションを安くする点も良いです。それに先程も言いましたが、レナルドさんの紹介ですからね」
「そう言って評価されると嬉しいですね。ルークさんはレナルドさんとはどんな関係なのですか?」
「レナルドさんとはそうですね…。信頼しあえる商売仲間という事ですかね?俺の商会の傘下にレナルドさんがいるという事になってます」
「なるほど。そういう事なのですか」
「はい。俺は道具屋を開きたいのですが、その店主を任せる人を探していたのです」
「それが私ですか?」
「はい。というかマリナさんしかいないと考えています」
「わ、私しかいない…」
また照れてるなぁー。いや可愛いんだけど少し心配だよ。まぁマリナさんしかいないというのは本当なんだが。
「もちろん引き受けてくれるなら、俺の商会の傘下にマリナさんも入ってもらいますが、商人ギルドの年会費や税金等も俺が責任を持って払います」
「新しい店を用意して、仕入れのお金も出してくれて、食事の支援に年会費や税金まで。私だけが得をしてるような気がします。やはりここまで優しくして、最後は私の体目的ですか!?」
「いや違いますから!それに得をしているのは何もマリナさんだけではないですよ」
いきなり何を言い出すんだこの人は!いやまぁ確かにそこまでされると、何か裏でもあるのかと勘ぐってしまうのだろうが断じて無いぞ!全く。変な誤解を生むからやめてくれよ。後ろのイーリスの視線が痛いんだが…。
「どういう事ですか?」
「俺は道具屋を開きたいが、経営する知識がないんです。だから貴方が代わりに売る。でも代わりとなる者は裏切らない者がいいです。だからマリナさんがいいんです。マリナさんは信用できそうなので。もし裏切られたとしたら俺の見る目が無かったという事です」
「裏切るなんてそんな…」
「それにこう見えて俺もかなり忙しいんですよ。ずっと道具屋に居ることが出来ないのです。なので得をしているのはマリナさんだけではないです」
これは本当。というかせっかく異世界に来たのだから自分のやりたい事をしたい。俺にとって商売は目的を達成する為の1つの手段だ。女神様の依頼の事もあるし、なによりこの世界をもっと冒険したい。ずっと商人なんて真っ平ごめんだからな。
「…分かりました。それでも少し…いえ、かなり得をしている気がしますが、娘を守る為なら早く決断しなければなりません。今から娘達と話してきてもいいですか?」
「はい。そのお話ですが、俺も同席してもいいでしょうか?」
「はい。構いません。もしルークさんの提案を受け入れるなら、ルークさんがいた方がいいと思いますし」
「ありがとうございます」
「では、娘達は奥にいるので私についてきてください」
「分かりました。イーリスとスサノオ、ドラグはここで待っててくれ」
イーリス、スサノオ、ドラグは頷く。マリナさんと俺は店の奥に行く。店の奥に行くと、みんなの話し声や笑い声が聞こえる。ララやプリン達はうまくやっているようだ。マリナさんと俺はその部屋に入る。
「あっママ!お話もう終わったの?」
「えぇ、でもちょっとリリナ達に大切な話があってね」
「プリン、悪いがララを連れてイーリス達の所に戻っていてくれるか?」
「分かったなのです!」
元気よく返事したプリンはララを連れて部屋を出る。部屋に残ったのは俺とマリナさんとリリナ、それとリリナより小さい3歳?ぐらいの可愛い女の子。髪型はマリナさんと似てショートボブだ。
「ルークさん。この子はエリナです」
「エリナちゃんよろしくね?」
俺がそう言うが、マリナさんの足の後ろに隠れて、頭だけひょこっと出して見てくる。人見知りなんだろうが可愛い!抱っこしてやりたいが、今は大切な話があるので今度にしよ。
「それよりママ。大切な話って何?」
「リリナ、エリナ。…いきなりだけど、私はこの店を売ろうと思うの。大切な店だけどあなた達の方が大事だから」
「えっ…?どういう事?」
「…ごめんね。ママもうお金が無くて店を売ろうと思ってるの。でもママは迷っていてね。どうしたらいいか聞こうと思って。…優柔不断なママでごめんね」
エリナはあまり理解出来てないだろうがリリナはどう思っているんだろうな?そう考えているとリリナは涙目になり
「そ、そんなのダメに決まってるじゃない!」
「えっ?」
大きな声で叫びながら、売るのを否定するリリナ。その目から涙がこぼれ落ちている。
「リリナは知ってるんだよ?ママが商売が大好きなこと!私達のいない所ではママ辛い顔してた…。でも商売してる時は笑顔だった!このお店はママとパパの大事なお店だから大事なのは分かってる。でも、店を売ったらママはもう商売出来ないよ!そしたらもっと辛い顔をするのが増えるよ!そんなのリリナは嫌だよ!」
「あぁ…。リリナ!」
マリナさんは泣きながらリリナを抱きしめる。子供は見てないようで意外と良く見ているものだ。このマリナの道具屋を見つける時に、リリナに道案内をしてもらった。その時のリリナは目を輝かせていたな。あの目は自分の店だから嬉しいのではなく、マリナさんの手伝いを出来るという目だったのだと今理解した。
リリナは子供だが、今のマリナの道具屋の経営が危ない事を何となくだが分かっていたのかもしれないな。
「パパの事はリリナも悲しいけど、ママが商売出来なくなるのはもっと嫌だよ!リリナも商売のお手伝いをいっぱいするから商売はやめないで!ママにはずっと笑顔がいてほしいよぉ……うぇーん!!」
「ママ?だいじょうぶ?」
「そうね。ママが間違ってたわ。大丈夫よ」
マリナさんは泣きながら2人を抱きしめる。リリナは店を売る事ではなく、マリナさんが商売を出来なくなるのが嫌らしい。
マリナさんはお金の問題に、店を売ったとして、その先のはどうするのか。いろんな問題を抱えていたと思う。言い換えれば不安だらけという事だ。そんな不安だらけであれば、子供の前で本当に心の底から笑えるのか?恐らくリリナは、マリナさんが本当に心の底から笑っていないのを理解は出来なくても、感じてはいたのかもしれない。
「ごめんね。リリナ、エリナ」
「ママ…商売やめない?」
「えぇ、でも今のお店では続けられないの」
マリナがそう言うとリリナは顔を下にして俯く。
「でも1つだけ商売を続けられる方法があるわ」
「それはなに!?私なんでもやるよ?」
ガバッ!と顔を上げたその顔は真剣そのものだ。それぐらいリリナはマリナさんに商売をやめてほしくないという事だ。
「ありがとうリリナ。それはね、ここにいるルークさんが用意したお店を使わせてもらう事で商売出来るわ」
「…本当!?」
リリナは俺の方にぐりんっと顔を向ける。食いつきが半端ない!だが、いまから少し酷な事を言う。今のマリナの道具屋の状況をもう少し知ってもらう。出来るだけリリナにも分かりやすい言い方で。
「あぁ、だけどねリリナちゃん。このお店では客が来ないから商売は出来ないんだ。だからもっと客が来る、新しい店を用意する。ここのお店とはお別れだけどそれでもいいのかい?」
「ここはママとパパが大事にしてたお店だから離れるのは辛いけど…ママの悲しい顔を見るのはもっと辛い。ママ…私は幸せだよ?ママの子供で辛い思いした事ないよ?だからママも幸せになってほしい。もし新しいお店でママが笑顔になるなら私はそれでも良いよ?」
「ママ?元気出して?」
「あぁ……そうね…。ママも幸せにならないとね」
マリナさんは泣きながら更に強く2人を抱きしめる。リリナは子供だと思っていたが強い子だ。見てるこっちも泣けてくるよ。当然子供達には、俺が提示した条件等は言わず、ただ商売出来るという事だけを伝えた。今この場に俺は必要ないな。俺はそっと部屋から出てイーリス達の所に戻る。
俺はイーリス達の所に戻り
「お話し終わったのです?」
「おわったー?」
「あぁ、終わったよ。ただ今はそっとして、みんながここに戻ってくるまで待っておこう」
マリナさんの家族が愛を確かめ合ってるのだ。3人以外はあの場にいるべきじゃないからな。そして待つこと10分ぐらい?したところでマリナさんと娘達が戻って来る。
「大変お待たせしてすいませんでした」
「別にいいですよ。家族愛を確かめるのは良い事ですからね」
「ありがとうございます。…それで先程の件ですが、受けさせて貰います」
「本当ですか!?」
「はい!私達、家族共々よろしくお願いします!」
「ルークさん、よろしくお願いします!」
「よろしく?」
エリナは3歳だから言葉がまだ少しだがたどたどしい。だが可愛い。答えを出すのは早いと思っていたが、まさか今ここで出すとは思っていなかったのでかなり驚いた。無いとは思うが万が一の事がある、もし断られたらどうしようって思ってたけど良かった!
「あぁ!こちらこそよろしくお願いします!」
可愛いお母さん店主をゲットしたよ!俺は嬉しくてテンションが上がり、思わずマリナさんの両手を掴んでしまう。
「あ、あのルークさん、子供達が見てますので…」
「ルークさん、お母さんを狙ってるんですかー?」
「いや断じて違うからな!変な誤解を生むからそういう事を言わないの!」
マリナさんは恥ずかしがってるし、リリナは茶化すし、エリナはなんの話か理解出来てないから顔を横に傾けて可愛いし。まぁでも。本当に引き受けてくれて良かったよ。
さてマリナさんのお金も底をつきそうとか言ってたから、早いとこ店を見つけないとな!だがその前に商人ギルドに連れて行かなければ。
俺はこの後の予定をマリナさんと一緒に話すのであった。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m




