王都ファルシオン
ここはランス辺境伯が治める街アスカロン。南から来る獣人の進行を食い止めるために作られた防衛都市だ。もし獣人と戦争になればこの都市が最前線で戦うことになる。そしてそのアスカロンで一際目立つ城、いや要塞といったほうがしっくりくる城の執務室で頭を悩ます者がいる。
「影の精鋭達の連絡が途絶えたか…」
ランス辺境伯は影の精鋭を、妖精を連れた旅人ルークに送りつけた後すぐにアスカロンへ戻った。街を長いこと空けるのは避けたいからだ。影の精鋭からの報告は1日置きに来るはずなのだがある日からパッタリと報告が来なくなった。
「恐らくもうこの世には…」
そう答えるのはランス辺境伯の親衛隊長ゾルド。
「そう考えるべきか」
「1人でも生き残っているなら逃げて安全な場所で連絡してくるはずです」
「そうだな。それに精鋭達が裏切るのは可能性としてはあるが考えづらい」
「ですが殺されたとなれば影を送った者がランス辺境伯様だと漏れている可能性があります」
ゾルドがそう言うと、ランス辺境伯の目が少し鋭くなりゾルドを睨む。
「あやつらが口を割ると?」
「いえ割らないでしょう。ですが何らかの魔法で強制的に吐かせることはできます。その可能性があるかもしれません」
ふぅー…。とランス辺境伯は溜息を吐く。先程まで睨みをきかせて、普通の兵士ならばこの場にいるだけで緊張するような張り付いた空気は霧散し、ランス辺境伯は執務室の椅子にもたれ掛かる。
ゾルドの言う事はほとんど的を得ている。ヴィーナの魔法〈脳記憶転写〉で影の記憶を読み取り、影を送り込んできたのはランス辺境伯だとルーク達には既にバレている。
ゾルドは冷静な判断ができ、頭も切れる男なのでよくランス辺境伯も相談に乗ってもらうことがおおい。
「なるほど。まぁ妖精の旅人について情報を得られなかったのには残念だが致し方あるまいか」
「はい。それより影の精鋭を失った事の方が大きいです。これ以上妖精を連れた旅人を深追いするのはやめたほうがいいかと」
「分かった。そうするとしようか」
「それに妖精を連れた旅人というのは目立つ者です。情報を掴めなかったとしても噂は嫌でも流れてくると思います。」
「そうだな。報告ご苦労」
「はっ。では私はこれで」
ゾルドはそう言うと執務室から出ていく。1人になったランス辺境伯は先程の事を考える。
「妖精を連れた旅人……か」
そう呟いてランス辺境伯はこれから先の事を考えるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「長いな」
ルーク達は王都ファルシオンに着き、長蛇の列に並び入国できるのを待っているところだった。やはり大都市だからか入国審査は厳重でかなり時間が掛かるのだろう。列に並んで既に1時間は経過している。
「仕方ありません。大都市なので違法な薬など持ち込まれると追うのが大変なのです。それに賞金首も国に入れないためには1人1人見ていくしかありませんからね。ですから入国審査は時間が掛かるうえに厳重なのです」
「なるほど。ですがこの列の左側を通る人達は並ばなくていいのですか?」
王都ファルシオンの正門はかなり大きく、長蛇の列の左側はかなりスペースが空いている。馬車を引いた者も並ばずに通る事もある。
「左側は主にギルドに加入してる者達が使うのです。冒険者ギルドや商人ギルドに登録していると左側を通る事が出来るのです。こちらの長蛇の列は主に初めての人やギルドに登録してない者が並ぶのです。私だけなら左側を進んでもいいのですがね。ちなみに貴族ならこの正門の横に少し小さい門があると思いますが、そこが貴族専用の門になります」
「なるほど」
冒険者ギルドや商人ギルドに登録してなければ入国審査が必要なのか。恐らく入国するにもお金がいるのだろう。だからレナルドさんは1人で入らずに一緒に入国審査をするって事か?だがそうなると出て行くときはどうするのか?
「外に出るときはどうするのですか?馬車同士ぶつかりそうになるとおもうのだが」
「ああ。ここは正門、まぁ南門とも言うんですが、外に出るときは南門を使ってはいけないのです。西門と東門からしか出てはいけない決まりになってますね。その理由は、まぁ見ての通り長蛇の列に並ぶ馬車と左側を使う者達の馬車が横に並ぶといっぱいいっぱいですからね。その時に馬車等が出てこられてもどうしようもないですから、そうならない為にこちらは入国専用門になってるのです。ちなみに北門は存在しません。見ての通り北には王城がありますからね」
なるほど。渋滞を無くす為にこちらの門は入国だけにしているのか。まぁ確かにその方が揉め事とか無くなったりするか。しかしよく考えられている。そう考えているとようやく俺達の番がまわってきたようだ。門番がこちらに近づいてくる。
「おやレナルドさんじゃないか!何故こちらに並んでいるんだ?」
「お久しぶりです。今日は連れがいましてね。その者たちの入国料を払う為に一緒に並んでいるのです」
そうレナルドさんが言ったので俺も馬車から顔を出す。
「初めまして。旅人のルークと申します」
「初めまして。君はまだ若いね!その年で旅人とはすごいよ!」
「あ、ありがとうございます」
「レナルドさんに至ってそういう事はないと思うが一応荷馬車を確認させてもらうね」
「はいどうぞ」
そして門番は荷馬車を確認する。そういう事って言うのは薬などの危険物を持ち込んでいないかと言う事だろう。門番は馬車の中を見て確認する。その際にセレス達も挨拶をしている。数分後に門番は戻ってきた。
「問題ないよ。それにしても随分荷物が少ないね」
「えぇ。迷いの森を確認してきただけですから」
「なるほど。確かレナルドさんはあの森の素材を扱っていたね」
「はい。でもその商売はもうできませんがね」
アハハとレナルドさんは苦笑いする。俺がした事とはいえ少し胸が痛い。レナルドさんは親切で信頼できる。なんとかしたいが……。
「そうか。それは残念だ。入国は問題ないからレナルドさんを除く人達は入国料で1人大銅貨2枚だよ」
「では5人分で銀貨1枚」
「はい確かに。ようこそ王都ファルシオンへ!」
門番は笑顔でそう言い放った。馬車はゆっくり門を潜るとそこは
「おぉー!すげぇ!ここが王都ファルシオンか!」
門を抜けるといきなり大通りになっており、その大通りはまっすぐ王城まで続いてる。
その大通りは中央通りと言うらしく中央通りから西や東に小道が続いていたりする。入り口から王城まで歩くと10分…いや20分は掛かりそうだな。それぐらい広いのだ。
入り口付近は住宅が多いが宿屋もちらほらある。セレス達も馬車から顔を出して王都の街並みを見てる。やはり異世界の街並みはいいなぁ!何処からかケルト音楽が流れて来そうな街並みだ。
「先ずは宿を君達に紹介するよ。私のオススメでね」
「ありがとうございます」
それにしてもいろんな種族がいるな。獣人族やエルフ、ドワーフに蜥蜴人族もいる。しかも獣人族は犬人族や猫人族、狼人族や兎人族までいるな。
「あっ!あそこ見てぇ!私と同じエルフがいるわぁ!」
「ウチとようにた獣人族もいるで!」
「流石にわたくしと同じ竜人族はいないですね」
「ボクと同じ種族もいないのです」
カトラスの街にもいたのだが、他の皆もかなり興奮している。種族だが、セレスとリルは一括にすれば一緒だが厳密には違う。古代のエルフと神狼だから一緒にされたら相手方は全力で否定しちゃうだろうな。ドラグも竜人族がいたとしても同じかどうかは怪しい。
プリンはまぁ魔物みたいな種族だ。そもそもスライム人族?なんているのか?いたら俺もビックリする。というかレナルドさんには聞かれてないから安心だが少しビクビクする会話だ。
「しかしほんとにいろんな種族がいますね。こうやって他種族が一緒に生活しているのはいいなぁ」
「はい。ですがこれはまだ表の顔といいますか。見たくない物もあります」
そう言って、レナルドさんは顔を人間と獣人のパーティに目を向ける。
「あの獣人は奴隷です。奴隷は人ではなく物もしくはペットと同じような扱いを受けるのです。言うなれば所有物です。酷い話ですよね。もちろん人の奴隷も物やペットと同じです。同じ人だと言うのに」
「そうですか」
「胸糞が悪い話やな」
「全くです。それに王都にも貧困街はあるのです。そこでは明日食べる物さえない状況です」
貧困街。簡単に言えばスラム街だ。やはり王都にもあるのか。当たり前だが貴族街もあるのだろう。これが今の王都の現状か。
「対策はしてないのですか?」
「一応孤児院はいくつかありますが、やはり全ての飢えてる人を助けるのは無理なのです。王は孤児院に援助金は渡していますがそれだけです」
「そうですか」
「あぁ。着きましたよ。ここです」
そんな話をしているとレナルドさんがオススメする宿屋に着いた。王都の正門から馬車で5分もしてない、案外近かったな。宿屋はまだ中に入っていないのに中から騒音がする。外にいても聞こえる
「中は少し煩いし、客も少し柄は悪いですが、皆いい人なんですよ」
そう言いながら、レナルドさんが宿屋に入っていくので俺たちもその後に続く。宿屋の中はそれなりに広く40〜50人は座れる広さだ。
まだ夜ではないというのにテーブルには既に半分が埋まっている。うーん…宿屋と言うよりは居酒屋みたいだ。とそんな事を考えていると1人の女性が近付いてくる。なかなかの美人というか筋肉質で女戦士の言葉が似合う女性だ。
「いらっしゃい!ようこそ宿屋〈戦士の集い場〉へ!…ってレナルドじゃねぇか!迷いの森を見に行くって言ってたけどどうだった?」
「やはり駄目だったよ」
「そうか…。そりゃ残念だ。まぁ本当に仕事がないなら食いっぱぐれないようウチであんたを見てやるよ。あんたには世話になったからね」
「はは。それは有り難いがこういう場所で働くのはなれないな」
「はん!そんなもん気にするんじゃないよ!それよりそこにいる人達はあんたの連れかい?」
「あぁそうなんだよ。世話になってね。王都でオススメの宿屋を紹介するという事でここにききたのさ」
「そうかい。そりゃありがたいね!あたいはジーナ!この宿屋〈戦士の集い場〉を仕切ってるもんさ。まぁ見ての通り酒場も兼用しているんだがね」
店主のジーナが挨拶してくる。豪快な人だ。
「これはご丁寧に。俺はルークと言います。いまは旅人ですね。後ろの者達は旅仲間です」
「セレスと言います」
「リルやで!」
「ドラグと申します」
「プ、プリンなのです」
ちなみにララはお休み中だ。
「へぇー…。あんた達強いね」
「分かるのですか?」
「まぁあたいも冒険者だったからね。今は引退しちまってこの宿屋を経営してるんだがね」
「ジーナさんは凄腕の冒険者だったんですよ」
「なるほど。それで」
「はん。凄腕なんて思っちゃいないよ。あたいより強い奴なんて5万といるからね」
ジーナがそう言うとテーブルで飲んでいる客から野次が飛ぶ。
「ジーナさんより強い奴なんてそうそう見ないですよ!」
「そうですよ!」
「わかっちゃいないねー。強い奴なんてもんは以外に近くにいるもんだよ。例えばあたいの目の前とか?」
そうジーナが言うと一瞬静まり返りその後すぐにあちこちから笑い声があがった。
「はっはっは!ジーナさん冗談はよしてくださいよ!こんな坊主や女がですか?」
「ありえないですよ!」
「あんた達いつも言うけど人は見た目で判断するもんじゃないよ!…ったく悪いね」
「いえ。傍から見たらそう見えるのは仕方ありませんから。それにそういう言葉は慣れてますから」
「ふーんそうかい。だけどあんた、あたいより強い事は否定しないんだね?」
俺の耳元で囁く。
「ジーナさんは間違った事を言ってないと思いますから」
まぁ俺は強くないが、セレス達は確実にジーナさんより強いと思う。とジーナさんは数秒俺の顔を凝視しニヤリと笑い
「あっはっは!あんた気に入ったよ!レナルド!あんたこんな面白い子何処で見つけて来たか後できくからね!」
「ふふ。わかったよ」
「…であんた達は泊まるのかい?」
「あぁ。とりあえず1週間分でお願いします」
「あいよ。部屋はどうするんだい?」
「男は3人分のベットがある部屋で。女は2人分のベットがある部屋で」
当然そりゃ男と女は分ける訳で…いやセレスさんとリルさんそんなに睨まないでください。
「男はベット3つがある部屋で女はベットが2つの部屋ね…。食事はどうすんだい?3食付くなら1日大銅貨1枚だよ」
「では1週間分で3食つけてください」
「あいよ。じゃあ1人大銅貨3枚で1週間分だから…」
「金貨1枚と大銅貨5枚だね」
「あんた計算が早いね!助かるよ!」
まぁこのぐらいの計算だったら日本人なら小学生でもできる。
ちなみに1週間分と言ったが、この世界の1週間は7日で1ヶ月は30日しかないらしい。曜日は月曜が闇の日、火曜が火の日、水曜が水の日、木曜が木の日、金曜が風の日、土曜が土の日、日曜が光の日とこの世界の魔法の八大元素に因んでつけられている。まぁ無属性はないんだが…。
「ではその分は私が払おう」
「いいのですか?」
「あぁ。助かったのはこちらだしそれに道中の食事まで世話になったからね」
「ありがとうございます」
「では私は店というか家に戻るよ。私の店はこの王都の中央広場から西に少し歩いたところの通りにあるよ。また何かあれば何でも言ってくれ」
そんな言葉を言い残してレナルドは出て行く。中央通りは真ん中に大きな広場がありそこに噴水があるらしい。
その噴水から南の中央通りが中央通り南と言われている。西なら中央通り西、東なら中央通り東になる。レナルドさんが言ってたのは中央通り西の通りにある素材屋とのことだ。近い内に顔を出してみるか。
「じゃあ部屋に案内するけどあたいは見ての通り忙しいからね。少し待っててくれ」
「構いませんよ」
そうしてジーナは忙しそうに厨房に入っていく。働いている2人のウェイトレスは居るみたいだが、2人でも忙しそうだ。しかもまだ半分座れる椅子があるから満員だとかなり忙しそうだろうなぁと考えていると1人の少女が近付いてくる。小学生高学年か中学生の歳ぐらいか?
「は、初めまして…。ソーナと言います。母に言われて部屋を案内します」
「ありがとう。俺はルークって言うんだ。部屋に案内してくれるか?」
「は、はい」
そう言うとソーナは歩き出して店の脇にある階段まで行き登っていく。俺達はそれについていく。俺は疑問に思った事を聞いてみる。
「すごく忙しそうだけどジーナさんは大丈夫?」
「は、はい!確かに忙しいですけど母は毎日楽しそうです」
「そうなのか。何故冒険者をやめたの?」
するとソーナは言いづらそうにする。
「悪い事を聞いたかな?言いづらかったら言わなくていいよ?」
「大丈夫です。母は昔凄腕の冒険者でした。母にはいつも組むパーティーメンバーがいたのです。それが父です。父も凄腕の冒険者だったのですが、とある依頼で命を落としてしまい母は冒険者を引退したのです」
「そう、か。辛いことを聞いてしまったね」
やってしまった。少しデリカシーか無かったかと反省する。
「い、いえ。父が命を落とした時私はまだ産まれていませんでした。正直産まれたときから私は母しか知らないので、辛いと感じたことはありません。父が亡くなって数カ月後に妊娠が分かったらしく、母はいつも私に父が残した最後の置き土産だと言い大切に育ててくれました。でも生きていくにはお金が掛かります。母は昔から冒険者をやめたら宿屋を経営すると言っていました。忙しくはなりましたが、私の為に働きそして母のやりたい事をやっているので私も応援したいと思ってお手伝いをしています」
「そっか。優しくていいお母さんだね」
「はい!あっルークさん部屋はここになります。できるだけ男性と女性部屋は近い方がいいかなと近くにしてます」
「ありがとう。これはここまで案内してくれたお礼だよ」
俺は銀貨を握らせる。本当は金貨にしようかと思ったがこんな小さい子に金貨はビックリして困惑するんじゃないかと思い銀貨にした。
「あ、ありがとうございます!」
そして俺はソーナの頭を撫でる。
「あっ…」
「お母さんのお手伝い頑張ってね」
「はい!」
そう言うとソーナは走って下に行く。
「これであの子もルーク様の虜ね」
「何言ってんだ?あの子はまだ子供だぞ?」
「ご主人様は何もわかってないなぁー」
何故か周りから呆れられる。俺が何をしたって言うんだ…。
「と、とりあえず部屋に荷物をおいて男部屋に集まってくれ。今後の行動について話し合おう」
その言葉にみんな頷いて行動に移る。さてここからどうするか話し合うか。俺達は部屋に荷物を置き男部屋に集まるのであった。
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