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初めての錬金術


「終わったか」


「そのようです」


「実の息子だと言うのに冷たいやつだ」


「跡継ぎには出来の良い弟のマルクにしたいと思っていたのです。アルクに任せるとランドル家は滅びていました」


「そうか」


「あとは迷いの森ですが、手紙に書いてあった友人とやらを見つけられたらなんとかなりそうなのですが」


「妖精女王に手紙を返したいのだが誰に渡したらいいかも分からん。その友人とやらが仲介人になってほしいのだが…」


ランス辺境伯とアクス男爵が断頭台から降りて話をしていると民達の話し声が聞こえてくる。


「いやーしかし妖精を狙うなんて馬鹿なやつだ」


「そうだな。妖精は幸運の象徴だ。見たら幸運が訪れると言われている。そんな妖精を生け捕り、殺したんだ。罰が下ったんだよ」


「全くだ。そうそう妖精と言えば最近見たって言ってた奴がいたな」


「それ本当か?」


「あぁ。何でも旅人が妖精を連れていたとか」


「それが本当なら俺も見たかったぜ!」


妖精を連れた旅人だと?妖精の集落が山賊に襲われ、妖精からみたら人間の信用は地にも等しい。それなのに妖精を旅に連れてる?不自然だ。山賊に襲われる前から一緒に旅をしていたと言えばそれまでだが話を聞いてみる価値はある。


「すまないそこの者達。妖精を連れた旅人の話を詳しく聞かせてほしい」


「ラ、ランス辺境伯様!妖精を連れた旅人の話ですか?私も詳しくは知らないのですが、私の友人が妖精を連れた旅人を見たと言う話をしてまして。何でも安らぎのゆりかご亭に泊まっているとか」


「なるほど。感謝する」


ランス辺境伯は銀貨1枚を握らせる。


「あ、ありがとうございます!」


安らぎのゆりかご亭か。一度行ってみるか。ランス辺境伯はお供を連れて安らぎのゆりかご亭に足を向けて進み出す。10分もしない内に安らぎのゆりかご亭に辿り着く。そして中に入る。


「邪魔するよ」


「あらいらっしゃい。宿泊かい?」


「おい!この方は…」


「よい。宿泊ではなく少し話が聞きたくてね」 


「話かい?」


「妖精を連れた旅人について知りたいんだが今どこにいるか知っているか?」


「知っていたとしたらどうしたっていうんだい?」


「おいっ!貴様!」


「よさぬかっ!部下が失礼な態度をとってすまぬな。妖精を連れた旅人は妖精女王と知人ではないかとね。私達はどうしても妖精女王との連絡手段が取りたいのだよ」


「そうかい。だけど残念だね。その人達は少し前に王都へ行ったよ」


「それは本当か?」


「ふん。嘘なんかついて殺されたくないからね」


「その旅人の名前は何て言う名前だ?」


「そこまではしらないね」


「……いいだろう。情報感謝する」


ランス辺境伯は銀貨1枚を置いて宿を出る。


「影の精鋭達に追跡させる。決して悟られず尾行しろ。見つかったのならすぐに逃げろと伝えろ」


「了解しました」


「必ず尻尾を掴んでやるぞ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


カトラスの街から出発して旅は襲撃など無く順調に進んでいる。まぁリルやドラグがいるから、頭の良い魔物は警戒して近付いてこないので旅は中々に快適だ。来るとしたらゴブリン等だな。俺は馬車の中で揺られながら錬金術の本(初級)を読んでいる。


「どうですか?その錬金術の本は」


「セレスか。ふむ、なかなか面白いぞ」


「そうなの?」


「あぁ。錬金術は使い続ける事で品質や効率が上がるらしい」 


要は無属性スキルのレベルが上がれば品質や効率が上がるという事だな。


「それと難しい物ほど魔力を使うらしい。品質には粗悪、並、良質、最高の4段階のランクがあるらしく、鑑定した際に品質が分かる。品質が良な物が作れるようになれば、錬金術師としては熟練の域だそうだ」


月花草を鑑定した時に、月花草(並)と鑑定結果が出たが、あれは品質を表していたのか。そう考えると最高の品質を作るには、無属性レベル10は確定だろう。ただポーションって100個単位で錬金したりとかありそうだし、大量にポーションを作り続けたら俺以外にも無属性レベル10になってる人とかいそうだが。


いや、ある程度難しい錬金をしないとレベルが上がらないのか?大量の簡単なポーションだけを作ってレベルが上がるなら、過去に無属性レベル10になった者がいてもおかしくない。正直どういう仕組みでレベルが上がるか分からないが、ある程度難しい錬金をしないと上がらないと俺は思っている。


「ということは、ご主人様が作られる物は全て最高級の品質になるのではないでしょうか?女神様から与えられた無属性でレベル10ですし」


「すごいなのです!」


「まぁ作ってみないとまだわからんな」


「ご主人様!早く作ってぇーな!気になるわ!」


「まぁまてリル。そう慌てるな。錬金術初級では基本の事と簡単なレシピしか書かれてないな。下級ポーションと下級魔力ポーションか。下級ポーションの材料は薬草と綺麗な水。下級魔力ポーションの材料は魔力茸と綺麗な水だ」


ちなみに品質は無属性のレベルが高い程品質が良くなるのだが、使う素材が粗悪品でも品質が下がる。粗悪の水と粗悪の薬草で作ったポーションが最高のポーションになるわけ無いからな。


そんな話していると、話を聞いていたレナルドさんが話に入ってくる。


「薬草はどこにでも生えてますよ。この近くでも採れるとおもいます。魔力茸は森の木の近くによく生えてます。魔素がある場所の近くの木によく生えますからね。薬草や魔力茸なら私も今持ってます。私も少しだけ錬金術が使えるので、何かあった時の為に持っているだけですが、ほとんどの商人は下級ポーションぐらいなら作れます。何せ材料がそこらで採れるので万が一の為に覚えておく商人が多いんですよ」


そうなのか。まぁ品質が普通でもポーションを作れるなら怪我した時に役立つからな。後はヒーラーがいない時とかだ。


「なるほど。もしよければ材料を買ってもいいですか?勿論できたポーションは差し上げます」


「お金なんていりません。そこら辺でいくらでも採取できますからね」


「ありがとうございます」


レナルドから薬草と魔力茸を受け取る。薬草と魔力茸はどちらも品質は並だ。


「セレス、木魔法で大きくなくてもいいから2つ寸胴鍋を作ってくれ」


ポーションを作るというのは薬師に似ているが、薬師は魔力を使わずにポーションを1から作るのに対して、錬金術は魔力を消費して一気にポーションを作るのだ。断然錬金術の方がポーションを作るのが早い。なので薬師は需要がない…かと言えばそうではない。


錬金術師になろうという人はかなり少ないので、錬金術師は貴重な存在なのである。そういった理由で田舎の村にはまず錬金術師はいない。なので薬師がいる事が多い。


それにポーションはいくらあっても困らない。特に王都は迷宮都市と言われる場所。ポーションが湯水の如く無くなっていく。そういう場合は田舎の村に、大量に作らせて買い取る。


村は大事な資金源、王都はポーションを切らせない為の試行錯誤をしている。ポーションのほとんどが薬師で作られている。錬金術師はポーション以外にも作る物があるからだ。


「プリン、水魔法で寸胴に水を入れてくれ」


水魔法の水は綺麗だと思うから大丈夫だろう。というか道中でも普通にプリンが出した水を飲んでいた。水10級まで使えるからなのか、かなり美味しい。一応鑑定してみると水の横に(最)と表記されていた。


「水はどれぐらい入れるのですか?」


「半分以上入れてくれ」


「わかったなのです!」


どういう原理か薬草1束、魔力茸1個に対してどれだけ水を入れようが結局ポーションが出来るのは3つ分までらしい。


そして錬成した後の余分な水は無くなるのだ。魔力茸2個ならポーション6つ分まで出来るらしい。ポーションの入れ物は陶器で出来ており、見た目は小瓶だ。


レナルドさんがもし作った時の為に空のポーションの瓶を持っていた。薬草は雫みたいな形の葉が2枚付いてる草だ。その2枚の葉で1束になる。


「さて。こっちの寸胴には薬草を。こっちは魔力茸を入れて後は錬成か」


「ご主人様!早く見たいわ!」


「分かったよ。いくぞ?〈錬成〉!」


【言語変換】のスキルのおかげで錬成と日本語で言っても発動するのはありがたいな。


錬成と唱えたら薬草と魔力茸が溶けて水と一体化して薬草はキラキラした緑の液体に。魔力茸の方はキラキラした紫の液体に。


「ふむ。〈鑑定〉」


・名 前:下級ポーション(最)

・レア度:D

・備 考:軽い傷ならばすぐに効力はあるが、大きい傷は癒やすのに時間が掛かる。最高の品質だと腐らない。


・名 前:下級魔力ポーション(最)

・レア度:D

・備 考:飲む事で体内から魔力生成がされる。効力はそこまで大きくない。最高の品質だと腐らない。


「ちゃんと出来てるようだ。品質も最高だ」


「やりましたねご主人様!」


「錬金術の世界に一歩足を踏み入れたって事かな」


これぞ異世界って感じだ。しかし呆気ないものだ。俺は錬成と唱えて魔力を送るだけで出来てしまう。流石は魔法の世界。これは錬金術ではなく、錬金魔法だな。まぁでもやはり魔法を使えるという事は気分が高揚してしまう。


いつかはエリクサーとかも作れるのか?そもそもエリクサーがあるかどうか分からないが。


前もってレナルドさんから貰っておいた空のポーション瓶に下級ポーションと下級魔力ポーションを3つずつを入れていく。


「おぉ。本当に3つ分だな。まぁこれはレナルドさんにあげるけど要領は大体分かったな」


俺は完成したポーションをレナルドさんに持っていく。本当はもっと作りたいんだけど落ち着いたら本格的に作りたいな。


「レナルドさん、材料ありがとうございます。完成したポーションを貰ってください」


「ん?出来たのですか?ありがとう。どれどれ…ん?このポーションやけにキラキラしてますね」


「そうなんですか?初めて見たので全てこんなもんかと。品質は最高級ですね」


「さ、最高級ですと!?」


「そうですが何かおかしいですか?」


「お、おかしいも何も最高のポーションなんて作れる人など今まで見たことないですよ!熟練の錬金術師でも品質は良質止まりですよ!一体どうやって…」


そうか。無属性でもレベル10に達した者はいないんだっけか。まぁ言っちゃったものは仕方ない。ありのままを教えるか。それにしてもすごく興奮してるな。レナルドさん


「いや普通に錬成しただけですが」


「このポーションを売るだけで生計がたてれますよ!」


「ポーションの値段はいくらぐらいなのですか?」


「品質が並の下級ポーションは銅貨3枚。良質は銅貨5枚。最高は大銅貨1枚です。下級魔力ポーションは回復ポーションと違い少し高いのです。品質が並の下級魔力ポーションは銅貨5枚。良質の下級魔力ポーションは大銅貨1枚。最高の下級魔力ポーションは大銅貨2枚です。ちなみに、最高級はたまに迷宮の宝箱で出るのですけど、最高級を作り出せる錬金術師は今までで見たことがないです。それと品質が粗悪のポーションは全く売れません。売りに出すには品質は並以上になります」


どうやら回復ポーションと魔力ポーションは値段が違うらしい。すぐ道に生えてる薬草と森の中で採れる茸では採取する労力違うらしい。それに薬草は嵩張らないが茸は嵩張る為、薬草みたいに大量に採ってくる冒険者はあまりいないみたいなので魔力ポーションが少し高いらしい。それと粗悪品のポーションは売れないのか。


「バレると面倒事になりますね」


「間違いなく面倒になりますね」


貴族等はお抱えに欲しがるだろう。また隠さないといけないことが増えてしまった。ますます慎重に動かなければならない。


「とりあえずそのポーションはあげます」


「材料以上の価値があるのですが有り難く貰っておきます」


最高級が作れることは黙っておかなければならないのだが上手く行けば商売にも使えるか?ポーションを売るのもありだ。と先の事を考えていると


「ルークさん。そろそろ日が落ちるのでここら辺で野営しましょう」


「分かりました」


俺達はこの近くで野営できそうな場所を探す。錬金術の本や実際に錬成をしていたので時間が経つのが早かった。まぁ時間が早く経つのはいい事なんだが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺はいつも通り野営のテントを2つだす。


「レナルドさんも使ってください」


「それはありがたいのですがいいのですか?」


「はい。ベットは1つ余っていますから」


「では有り難く使わせてもらいます。あぁそうだ、魔除けの結界は張らなくていいのですか?」


「えぇ。このテントは魔除けの結界を使わなくても魔物は寄ってこないので大丈夫です」


「それは便利ですね。一体どういう仕組みになっているのでしょうか?」


「それは秘密です」


「そうですか。無理に聞いてしまって申し訳ないです」


「いえ。実際どういう仕組みかは俺もあまりわからないんですよ」


そんな話をレナルドさんとしていると


「みんなー!夕食ができたわよぉー!」


「今日はボクもお手伝いしたのです!」


「ご飯できたん?ウチも食べるー!」


「リル少しは落ち着きなさい」


「ララも食べるー!」


「セレス、プリンありがとうな。レナルドさんも一緒にどうですか?」


「いいのですか?」


「ええ。食事は皆で食べた方が美味しいですから」


「はは。そうですね。ではお言葉に甘えまして」


そして俺達は夕食を食べ始める。やはり皆で食べる食事は美味しい。


「野営で温かい食事ができるのはやはり良いものですね。普通の冒険者や商人なら干し肉と水、後はその日に狩りをした獲物ぐらいしか食べれないですからね」


「商人もなんですか?」


「えぇ。まぁ大商人にもなればアイテムバッグを持っているのですが、流石にテントなんて入らないですからね。ルークさんのアイテムボックスはかなり凄い代物ですよ」


へぇ。この世界にアイテムバッグというものがあるのか。プリンというアイテムボックスの上位互換がいるし凄いと言われても実感が無い。


「親が遺してくれた物なのであまり実感は湧きませんが」


適当な話をでっち上げてはぐらかす。夕食も終始楽しく進み夕食を終え就寝の時間になる。


「あれ?ベットが3つしかありませんよ?ドラグさんにルークさん、プリン君だと余らないと思うのですが」


「プリンは俺のベットでいつも寝てますから」


「なるほど。それでも言わせてもらいます。ルークさん、プリン君ありがとう。野営なのに警戒もせずに寝れるなんて思ってもいなかったですよ」


「き、気にしてないのです!ボクもルーク様と寝れてその…嬉しいのです!」


はぁー!ほんとプリンは可愛い事を言ってくれるな!撫で撫で決定だな!


「レナルド様、何かあれば気軽にわたくしに言ってくださいませ」


「私にそんな話し方はいいのですがドラグさんもありがとうございます」


「いえ、これでもわたくしは執事ですので」


「レナルドさん、俺はもう少しやる事があるので先に寝ていてください。プリンも先に寝ていいからな。ドラグ後は頼んだよ」


「わかりました」


「わかったなのです」


「畏まりました」


そして俺は自分のテントから出る。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


俺はテントから出て女性用のテントに向かう。


「セレス、リル入るぞ」


「どうぞー!」


セレスの声が聞こえたので入る。


「どないしたんですか?ご主人様?」


「リルも気付いているだろ?セレス、一応風魔法で音を遮断してくれ」


「分かったわ」


テントの周りに薄い風の結界ができる。ほんと便利な魔法だよなぁ。


「これでいいわよ」


「俺がここに来たのは、2人なら既に分かっていると思うが俺達は尾行されている」


「あんなバレバレな尾行されたら警戒してなくても見つけてまうで」


「そうねぇ。ヴィーナを見習ってほしいわね」


いや俺は全然分からなかったが。尾行もヴィーナに教えてもらったし…。やはりレベル差がありすぎるのを痛感する。というか影の中からでも尾行って気付くのか。


「ヴィーナ出てきてもいいぞ」


「久しぶりの外でありんす」


「すまんな。影に閉じ込めて」


「気にしてないでありんすぇ。むしろいつも一緒で嬉しいでありんす。お前様と1つになっていると考えると…!」


「そ、そうか」


ここは話を流そうと思っていたら…


「あんたご主人様に変な事してないやろな!」


「するわけあらへん!失礼でありんすぇ!」


「まぁまぁ2人とも落ち着きなさい」


「そうだぞ落ち着け。それよりヴィーナ。尾行している者達がいるといったな。何人いるかわかるか?」


「数は5人でありんす。カトラスの街の方面から来たので、恐らくアクス男爵かランス辺境伯の者かと」


「なるほど。無力化して情報を抜き取る事はできるか?」


「容易いでありんすぇ」


「なら頼む。その後は殺してもいい」


「了解でありんす」


そう言うとヴィーナは影に消えた。しかし尾行している者は一体何者だ?何故尾行するかも気になる。


まぁ明日の朝にはヴィーナが戻っているだろう。その時にきけばいいか。


「じゃあ俺はそろそろ寝るよ」


「あらぁ?1人で寂しくないかしら?こっちで寝てもいいのよ?ベットも1つ余っているし」


「それはいい考えやな!どうですか?ご主人様?」


「有り難いがやめておくよ」


「そんな事言わずに!」


「いやまぁ…別に寝てもいいんだがプリンと一緒に寝る約束してるんだよ。俺をこっちに誘ったらプリンに嫌われるぞ?」


「そ、それはまずいわねぇ。プリンちゃんに嫌われるのは避けたいわぁ」


「プリンに悲しい顔は絶対にさせちゃいけない気がするからなぁ」


セレスやリルにとっては、プリンは可愛くて大事な妹なんだろう。流石に嫌われるのは避けたいらしい。


「そういう事。皆で寝る事なんてこれから出てくると思うぞ?いまはレナルドさんがいるから男と女は分けているが」


「そういう事なら今は我慢するしかないわねぇ」


「一緒に寝れなくてすまんな。また明日な」


「おやすみご主人様!」


俺はテントを出て男性用テントに向かう。テントに入りベットへ向かう。


「流石にプリンも寝てるか」


プリンが寝ている布団へ俺も入る。


「…ルーク様?」


「プリン?まだ起きてたのか?」


「ご、ごめんなさいなのです。ルーク様と寝たかったから…」


「いや謝らなくていいぞ?少し遅くなって悪いな。さぁ一緒に寝ようか」


「はいなのです!」


俺はプリンを腕枕しながら頭を撫でる。彼女がいたらこういう事をするのだろうか?むしろ腕枕とかは彼女にする事ではないのか?プリンは可愛いが子供みたいなもんだから大丈夫か?最近プリンが可愛くて仕方ない。イーリスに知られたら何を言われるか…。まぁ考えないようにするか。と俺はどうでもいい事を考えながら眠りについた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ここはルーク達のテントからそこそこ離れた森の中。そこに黒装束を着た5人の姿がある。


「ここなら大丈夫だろう。できるだけ灯りは最小限にしろ」


「奴らは街道を進んでますからね。まさか街道の脇にある森の中から監視されてるなんて思ってもいないだろうな」


「だが油断はするな。俺達は暗殺部隊とは違い偵察に特化してる部隊だ。ある程度戦えても戦いのプロではない。戦闘になれば負ける可能性の方が高い。見つかったらすぐに逃げるぞ」


「隊長は心配しすぎじゃないですか?流石にこの距離で見つかっても逃げ切れますよ」


「そう言ってると足元をすくわれるぞ」


「わかってますよ。さて。そろそろ俺が見る番だな。〈遠見〉」


「どうだ?奴らの様子は」


「呑気なもんですよ。だけど気になるのはあのテントだな。一体どこから出したんだ?」


「どこから出したかは気になるが、俺達の最優先は偵察だ。妖精も確認できた。ランス辺境伯様が言っていた妖精を連れた旅人はあいつに間違いないだろう。だがまだ何も分からない」


「そうですね。妖精を連れた旅人しかまだ分かっていませんね。もう少しあの旅人が何者か探りたいですね」


「妖精を連れた旅人としか分かりませんでしたとか偵察部隊の精鋭として恥だからな」


「偵察部隊の名に恥じぬよう何としてもあいつの正体を暴くぞ」


5人で気合を入れ直した時、女性の声が何処からか響いた。


「暴く必要なんてないでありんす。何故なら主達はここで死ぬ運命でありんすから」


5人の黒装束は一斉に立ち上がり、5人全員背を預けて辺りを警戒する。


「馬鹿な…一体どうやって俺達に気付いた…」


「あんな見え見えな偵察、気付かない方がおかしんす」


「隊長ここは5人一斉に違う方向へ逃げる方が…」


「馬鹿を言うな。敵は何人いるか分からんのだぞ」


「安心してくんなんし。わっち1人でありんす」


「それを信じると?」


「信じないでありんすね。でしたらわっちの姿を見せんしょう」


森の奥からコツコツと足音がし、やがて声の正体が姿を現す。戦場には向かないぽっくり下駄を履き、その女性はミニスカートの着物ドレスを着込んでおり、その上からでも分かるぐらいスタイルが良く、妖艶で大人のフェロモンを放っており、街中で歩けば目が釘付けになるだろう美女だ。現に誰かは分からないが生唾を飲み込む音が聞こえた。


「な、何故姿を見せた…」


「こうすれば信じてもらえると思いんした」


「森の中に仲間を待たせてるんじゃないのか?」


「そんな小細工なんてしなんす。わっち1人でもどうにかなるからきたでありんす。それに…」


と、口角を三日月に曲げて笑っている。その姿に偵察者達は背筋がゾクッとし、心臓を鷲掴みされているような恐怖を感じた。


「な、舐めやがって…。だが我々が掴んだ情報は何が何でも主に届ける。お前達!俺がこの女を引き止めてる間にバラバラになって逃げろ!この女の事を信用した訳ではないがもし本当なら勝機はある!いけっ!」


その言葉と同時に隊長の部下がバラバラに逃げようとするが、一歩進んだ所で部下達が止まる。


「何をしている!早く逃げろ!」


「だから言ったでありんしょう?お前達はここで死ぬと」


その言葉を言い放った瞬間、部下達の頭が全て地に落ちる。


「な、なにぃ……!?」


一体何が起こった!?部下達は何故首から上がないのだ!?そんな事をするのは今ここにそこの女しかいない。そう思い女の方へ目を向けるといつの間にか手に握られている短剣に血がついて、その血が地面へと滴っている。間違いない。部下達を殺ったのはこの女だ。だがいつの間に…?


「その顔はいつ殺したか…でありんすかぇ?」


「ッ…!」


「魔法と思ってるかもしれないでありんすが、わっちはただ近付いて首を跳ねただけでありんす」


「……」


「その目は信じてないでありんしょう?別にどっちでもいいでありんすが、実力の差がありすぎると理解出来ないでありんすぇ。わっちが1人で来た理由もこれでありんす」


くそ!こいつの言ってる事が本当なら勝ち目はないか。何かいい手段は…。


「あなたを助けてあげんしょう」


「な、なに?」


「ただし何故監視をしていたのか、誰の命令なのか、目的は何なのか、その全てを話してくれたら命だけは助けんしょう」


命が助かるのならば助かりたいが、もし全て言ってしまえばランス辺境伯様に危険が及ぶ。くっ…打つ手なしか。仕方ない。アレをするか。


「その情報は教えられない。だから私はこうする!」


偵察部隊の隊長は自分の短剣を自分の首に突き刺そうとする。首と一緒に喉を潰してしまえば喋ることもできない。だが短剣の切っ先が首に触れる寸前で短剣が止まる。何故だ!?何故動かない!必死に動かそうとするが全く両腕が言うことを聞かない。そう思っていると。


ボトッ……


その音で理解した。自分の両腕が切り落とされていたのだ。だから両腕は動かなかった。そして戦慄する。痛みさえ感じなかった切れ味。目の前の女はそれほどの強者。ランス辺境伯様…私達はとんでもない化け物を敵に回したかもしれません。


(ぬし)が情報をくれないと分かっていたんす。だからわっちも手段を選ばないでありんすぇ。脳記憶転写ブレインメモリー・コピー。……なるほど。そういう事でありんすか」


「な、なにをしたっ!?」


「主の脳にある記憶から情報を全て頂いただけでありんす」


「なんだと!?」


「ランス辺境伯の手の者だったでありんすか」


「ッ!?」


「主はもういらないでありんす。安らかに眠ってくんなんし」


「くっ……そ」


用済みになった隊長は目の前の女に首を跳ねられる。


「…あっけないでありんすぇ。これがランス辺境伯の偵察部隊の精鋭?面白い冗談でありんす。さぁお前様の影に帰りんしょう」


そしてその女、ヴィーナはその場から影に消えるのであった。


読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

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