ランス辺境伯と妖精の手紙
ドラグ達がアクス男爵と接触した次の日。アクス男爵は少し遅めの起床で朝食を食べ、昨日の事を確認する。
そう。アルクの妖精捕獲の件だ。これが本当ならアルクは依頼した側だが死罪になるのは間違いない。アクス男爵はドラグの言葉は事実だと確信している。
アクス男爵の執務室にコンコンと扉を軽く叩く音が鳴る。
「父上。アルク・ランドルです」
「入れ」
執務室の扉を開けアルクは入ってくる。
「父上。お呼びでしょうか?」
「うむ。お前に確認しておきたい事があってな」
「確認ですか?何をでしょうか?」
アルクは妖精捕獲の依頼が漏れるとは思ってないので何を確認するかアルクには全く見当がつかなかった。
「単刀直入に言う。アルク、お前は妖精捕獲の依頼を誰かに頼んだな?」
その言葉を聞いてアルクの顔はみるみるうちに青ざめる。どうしてバレた?いったい何処から?ラガンはあれから音沙汰が無い。恐らく死んだのだろう。もしこっちに帰ってきていたらアルクに顔を出すはず。とアルクは思っていた。
「ち、父上!どこからそんな噂を聞いたかは分かりませんが、噂を鵜呑みにしてはいけません!」
アルクは必死に妖精捕獲の依頼を隠そうとしているが、それが悪手な事をまだ知らない。
「そうか。お前は妖精捕獲の依頼などしてないと言うのだな?」
「そうです!身に覚えがないのですから!」
「そうか」
そうアクス男爵が呟いて近くの使用人に喋りかける。
「あやつをここに連れてこい」
あやつとはラガンの事だ。だがアルクには分からなかった。
「ち、父上あやつとは一体…?」
「時期に分かる」
そうして数分後にその者はきた。扉をノックして入る。使用人が入りその後に続いて入ってきたのがラガンだ。
「ッ!?」
「なんだ?知り合いか?」
「いえ…知りません」
ラガンが入った瞬間、アルクの顔は驚きの顔をした。その一瞬をアクス男爵は見逃さなかった。自分がバラされたくない秘密を握ってる者が突然、目の前に現れたら顔に出るものだ。明らかにアルクは嘘をついている。
「この男はお前に妖精捕獲の依頼をされたと言っている」
「…いえ。していません」
「…と言っているが?ラガン」
「…間違いなくこいつから妖精の依頼を頼まれた」
「その経緯を話してくれ」
「あぁ。俺は……」
ラガンはドラグ達に話した事をアクス男爵とアルクの前で話す。
「……と言う訳なんだ。頼むから早く殺してくれ…あの音が…」
「なるほど。事情は分かった。…アルク何か言いたいことは?」
「父上!このような男の言う事を信じるのですか!?」
「ではお前は本当に妖精誘拐の事件に関わってないと女神ミール様の名に誓って言えるか?」
この世界で女神ミールの名に誓うという事は珍しくもないのだが、女神の名を借りて誓う、つまり女神の名まで使って約束を破ったり嘘をついたりは女神の名に泥を塗ることなので、女神ミールの名を使う時はみんな必ず約束を破ったり、嘘を付かないようにしているらしい。
破れば女神から罰が下ると言われているが、実際に女神が罰を与えたことは無い。もちろん女神に名前を誓って平気で女神の名に泥を塗る奴もいる。
「め、女神ミール様の名に誓います…」
「ラガンお前はどうだ?」
「俺も女神ミールに誓ってもいい…!もうアレはいやなんだ…!」
「アレ…?まぁいい…残念だよアルク」
アクス男爵はアルクが嘘をついている事は確信している。だが女神の名まで使って嘘を貫き通すみたいだ。アクス男爵はベルを鳴らして使用人を呼ぶ。
「お呼びでしょうか?」
「アルクとラガンを牢に閉じ込めておけ」
「父上!?何故!?」
「お前の胸に手を当てて聞いてみろ」
そしてすぐにアクス男爵の直属の兵士がアルクとラガンを連れて行く。そして執務室に1人なったアクス男爵だけが残る。
「……ふぅ。何処で育て方を間違えたのか」
と執務室の窓から遠い空を眺めて1人耽るのであった。だがアクス男爵にとって本当の苦難はここからであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アルクとラガンを牢に閉じ込めた次の日。アクス男爵が執務室で仕事をしている時であった。執務室の外からドタドタと慌てて走るような音が聞こえてくる。
何かあったのか?と思っているとその足音は次第に大きくなり執務室の前で止まり勢いよく執務室の扉が開く。
「失礼致します!」
「なんだ?騒がしいぞ。扉を開けるならノックぐらいしろ」
「申し訳ありません!ですが至急お伝えしたい事があります!」
「……なんだ?」
「はっ!ランス辺境伯様がこちらに向かっておられるとのこと!そして今日中にはこのカトラスの街に到着されるとのことです!」
「なにっ!?」
こちらに来るなら手紙等で日時を決めて迎える準備をするのが普通なのだが、緊急の要件でも早馬でこちらに来たりもすることがあるが、何も連絡を寄越さずにこちらに来る?何を考えているのだランス辺境伯は。だが必ず何かあるだろう。
「すぐにこの領主館でランス辺境伯殿の歓待の準備を。食事等は今からは間に合わんだろうからいい。泊まる準備をしておけ」
「はっ!」
次から次へと何なんだいったい!アクス男爵は執務室で1人また頭を抱える。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
カトラスの街に一際豪華な馬車が近づいてくる。その馬車の周りには護衛の馬に乗った騎士が豪華な馬車を守るように並走している。
カトラスの街に入るには門兵に身分証明書を見せなければ街に入ることはできない。なので長蛇ではないが列ができている。
だが貴族はその列を無視して街に入ることができる。正門とは別に貴族専用の小さな門がある。その小さな門の前に豪華な馬車が止まる。そして馬車を護衛している1人の騎馬兵の男が門兵に声をかける。
「私はランス辺境伯様の親衛隊長ゾルドだ。ランス辺境伯様が今すぐアクス男爵殿との面会を望んでおられる。至急取り次いでくれ」
「はっ!アクス男爵様からは連絡が来ています!領主館に案内致します!」
そして豪華な馬車はアクス男爵の住む領主館に進む。領主館の前には既にアクス男爵が立っていた。
豪華な馬車が領主館の前に止まり1人の男が出てくる。
「久しいなアクス男爵。急な訪問ですまぬな。至急話を聞きたくてこちらに参った」
「お久しぶりでございます。ランス辺境伯殿。至急の話とはどういった件でしょうか?」
「ふむ。ここではなんだ。2人で話したい」
「分かりました。すぐに部屋を用意させます」
そう言うと2人は領主館に入り客間へと移動する。
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アクス男爵とランス辺境伯は客間に座り、ランス辺境伯は紅茶を優雅に飲むがアクス男爵は何を言われるかと考え、それどころではない。
「どうした?アクス男爵。この紅茶はかなりいい茶葉を使っている。お主も飲んだらどうだ?」
「……ランス辺境伯殿。そろそろこちらに来た件を教えていただきたいのですが」
「ふむ。それもそうだな。アクス男爵。迷いの森に謎の結界が張られたのは知っているな?」
「はい。聞き及んでおります」
「実はな、迷いの森には妖精達が住んでいる。その集落を山賊が襲ったらしいのだ」
「ッ!?」
何故その事をランス辺境伯は知っているのだ?まさかこれもドラグとかいう執事の仕業か?
「その山賊達のリーダーがラガンという男でな。そのラガンという男はアクス男爵の息子アルク・ランドルに依頼されたらしいのだよ」
「な…何故その事を?」
「あぁ。とある人物から手紙を渡されたのだよ」
「とある人物?」
「そうだ。顔はフードを被っていたので分からん。だがランス辺境伯に手紙を届けて欲しいと頼まれたと言っていた。その差出人が妖精女王だ」
「そ、それは本当ですか!?その手紙は今ここに!?」
「あぁ。あるぞ。ちゃんと妖精の粉も付いている。本物と見て間違いないだろう」
ランス辺境伯は懐から手紙を取り出す。その手紙には妖精特有のキラキラした粉が振りかけられていた。
「確かに本物です…。中を見ても?」
ランス辺境伯はその言葉に頷く。そして恐る恐る手紙を開く。
「…なんと!!」
その手紙にはこう書かれていた。
『初めましてランス辺境伯様。私は妖精の女王フリージアと申します。私が本物の女王なのかは手紙の粉を鑑定してもらえば分かると思います。いきなり手紙を渡され困惑されてると思いますが、迷いの森の結界の件についてお話しさせていただきます。先日、私達妖精の集落に山賊が襲撃してきました。私達の友人の力を借り、少なからず犠牲を出してなんとか撃退に成功しました。そしてその山賊のリーダーを捕え、尋問したところ、裏にはアクス男爵の息子アルク・ランドルがいる事が分かりました。こういう事はしたくなかったのですが、こうしなければ私達妖精の住処は無くなってしまいます。なので迷いの森全域に強力な結界を張りました。先に言いますがこの結界を解くつもりはありません。なので悪しからず。最後にラガンという男は私の友人に、アクス男爵に届けて貰うようお願いしました。ラガンの処分はアクス男爵に任せると。こちらも住処を脅かされない処置なのでどうぞご理解頂けるとありがたいです。妖精女王フリージア』
アクス男爵はゆっくり手紙を閉じて溜息を吐く。
「あのバカ息子がっ……!」
ドンッ…!
アクス男爵は机を自分の拳で殴る。その衝撃でティーカップが倒れ紅茶が溢れる。そして数秒沈黙が続き
「取り乱してしまい申し訳ありません」
「無理もない」
「迷いの森はランス辺境伯の領地。私のバカ息子が原因で迷いの森の貴重な薬草等が取れなくなった。それに駆け出しの冒険者にも人気。損失はかなり大きいです」
「私はアクス男爵の頑張りは知っているが息子がこうだとな…。お前も苦労する。ところでこの手紙に出てくる友人とやらにラガンという男を任せるとあるが」
「はい。既にラガンはこちらで預かっています」
「なるほど。その友人とやらはどういう奴なのだ?」
ここでアクス男爵は以前話したドラグという執事の話を思い出す。ドラグ達と話した内容は話していいが顔の事は伏せておけと言われている。もしかしてこの状況を分かって顔を忘れてくれといったのか?何にせよ教える訳にはいかない。
「顔は……フードを着ていて見えなかったです」
「そうか。では話だけでも聞かせてくれ」
「分かりました。あの日……」
アクス男爵はあの日の事を話し出す。そして話し終えると
「なるほど。そういう事があったのか」
「はい」
「それで、アルクとラガンなのだが…」
「覚悟はできています」
「そうか。では早急に取り掛かるか」
あのドラグという男が言っていた。ドラグのご主人様とやらはアルクやラガンをかなり恨んでいて必ず殺すと言っていた。だが殺すのは私達ではないと。なるほど。こういう事だったのか。あの男はどこまで先を見据えて話していたのだ?とアクス男爵は恐怖していた。
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「ルーク様、アクス男爵とランス辺境伯が接触したでありんす」
「そうか。後は待つだけだな。ところでヴィーナ、アルクから情報を抜き取れたか?」
俺はアクス男爵に接触するついでに、アルクから情報を抜き取ってほしいとヴィーナに頼んだ。どうしても気になるというか、引っかかる事があったんだ。
それは何故破幻のマントを11着も用意出来たのか。しかも全てLv5のだ。耐性のスキルは毒ですらレアなスキルだ。それだけ持っているの者が少ないスキル。
そんな耐性スキルを装備や装飾品で付加出来るなら恐らくだがかなり高価だとは想像に難くない。しかもLv5だ。
軽く金貨100以上はするだろう。そんな代物を11着を貴族の子供が用意出来るのか?買うとなればそれこそ貴族の子供にそこまでの金貨を用意出来るのか?
まぁ恐らくは無理だ。そう判断してアルクの裏にはまだ誰かいると思ってヴィーナに調べさせたのだが。
「アルクの記憶を見たでありんす。アルクの裏には誰かがいるのは間違いないでありんす。ただ、誰かと接触している部分だけ記憶が消されていなんす」
消されていたのか。恐らくだが、その黒幕の存在だけを魔法で消したのか。これ以上その黒幕とやらを詮索しても無駄だな。
「ありがとうヴィーナ。まぁ当初の目的のアルクとラガンはもう終わりだろう。運が良ければ明日見れるかもな」
「ボクもやっとあの男を外に出せてスッキリなのです!」
「ありがとうなプリン。今日は1日みんなでゆっくりするか」
みんなで部屋に集まり雑談を楽しむことにした。明日が楽しみだ。
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