巨大オアシス
イーリスと娯楽の話について遅くまで話し合った次の日。俺は迷宮攻略の為に魚車の中にいた。迷宮攻略の為とは言うが、ほとんど俺は何もしていない。敵の襲撃はスサノオかドラグ、たまにルーシーが片付けている。俺は零れた敵をちまちま倒しているだけだ。
いまは35階層だ。1階層進むのに2~3日掛かるため、次の階層まではあと1日ぐらいってとこか。襲撃がない時は執務をこなしているのだが、流石に退屈だ。そんな事を思いながら執務をこなしているとスサノオが珍しく魚車の中に入ってくる。
「…主よ。…前方にオアシスが見える」
「オアシス?どうせいつもと同じで休憩ポイントみたいなのだろ?」
今までもオアシスはあったが、小さくいつも誰もいない。水の補給や野営する為に設けられているのだろうと俺は思っている。
「…主よ、前方に見えるオアシスはいつものと様子が違う。…大きさも、それに人の気配が多数ある」
「なに!?それは本当か!」
俺はそう言いながら魚車から飛び出していた。俺は少し小高い丘を登って前方を見る。そこにはいつものオアシスとは明らかに大きさが違うオアシスがあった。それに何組かのパーティがいるのかテントがちらほら建っている。
いままで砂漠を攻略していたが冒険者どころか人一人すら見なかった。まぁこんな広大な迷宮に人と会う方が難しい。それに30階層以上となれば冒険者でもそれなりに腕が立つ者達だ。間違いなくAランク冒険者以上だ。BやCランクと比べてかなり数は少ないだろう。
それがあのオアシスには何組かのパーティがいる。あのオアシスに何かあるのか?まぁ危険は無いと思うが少し寄ってみるか。危険があったとしても他のパーティもいるし、何より退屈だったしな。
俺達は魚車で大きなオアシスに近付く。魚車は目立つから歩いて行こうと思ったが、またレイアに魚車を創ってもらうのも面倒だしこのまま行く事にする。案の定オアシスに近付くにつれ、他の冒険者が何事かとテントからちらほら出てくる。
遠巻きに見てくるだけで近づいて来る冒険者はいない様だな。さて、今日はここで一泊するか。冒険者のテントとは少し離れた場所でレイアに魚車を止めてもらう。本当は急ぎたいのだがまぁ1日ぐらいゆっくりしてもいいだろう。
それじゃ、オアシスを少し探索してみますか。俺はドラグ連れて外に出る。
「しかし、結構大きなオアシスだな」
「そのようですね。ですが、今まで見てきた小さなオアシスとどう違うのでしょうか?」
「確かに、大きさが違うだけで他は大した違いが無いように見えるな」
俺とドラグは小さなオアシスとの違いを考察しながら歩いていると、向こうから1人の冒険者が近づいて来る。遠めでも分かるが、片手剣と盾を背中に背負っている。顔は目に傷があるが、失明はしていない様だ。体は細マッチョかな。髪は短いな。全体的に言うと爽やかという言葉が似あう青年かな?
その青年はまっすぐ俺達の方へ歩いてくる。そして
「やぁ、こんにちは。君達は冒険者なのかい?」
「えぇ、そうです」
「そうなのか。てっきり何処かの貴族様がこんな所まで来たのかと思ってしまったよ」
まぁ、確かにドラグの格好は執事の様な姿をしているからなぁ。だが、この男は初めから俺達を冒険者だと確信があって話しかけて来たのだろう。つまり貴族がどうしてこんなところにいるのか気になって話しかけたのではなく、最初から俺達に近付きたくて話しかけて来たのだ。
でなければ、最初の「君達は冒険者なのかい?」という話しかけ方はしない。もし俺が貴族なら、あなた方は何処かの貴族様でしょうか?みたいな言葉遣いになるだろう。知らないとはいえ、貴族にタメ口は無礼だからな。この者少し怪しいが、自己紹介でもして相手の名前を知っておこう。
「貴族ではないから安心してください。俺は冒険者パーティ、王の盾のリーダーをやっているルークです。ランクはAです」
「わたくしは冒険者パーティ、王の盾のドラグでございます。ルーク様の家系に代々使えさせていただいている執事です」
「へぇーそうなのか!まさかいま話題の王の盾の方々だったのか!」
「いま話題の?どういう事ですか?」
俺達はいま話題になっているのか。それは全く知らなかったな。何かしたっけか?
「あれ?耳にしていないのかい?迷宮到達階層だけで冒険者ランクをすごい勢いで上げているっていう噂の凄腕冒険者パーティ、王の剣と盾。君達がそうなんだろ?」
何かしまくりだったな。本来は地道にクエストをこなしてランクを上げるのだったな。毎回迷宮を攻略してランクを上げていたから完全に忘れていたな。そりゃ噂にもなるか。
「まぁ、そうですね」
「やっぱりか!あぁ、僕は冒険者パーティ、雷鳴の剣のリーダーをやっているライナスだ。冒険者ランクはSランクだよ」
へぇー…この者Sランク冒険者なのか。見た目はSランクには見えないがなぁ。魔力感知でこのライナスの魔力を調べてみるが、そこまで魔力は多くない。多くないという事はそこまで強くないという事だ。見た感じ魔力を抑えてもいないし。
ちなみに神眼を使えば相手の力量がもっと正確に分かるのだが、相手の秘密を覗いている感じがするので普通の人間とかには使わないようにしている。それに、少し前に守護王達に指摘された。神眼を使っている時は右目が青に変わっているのだとか。
何でそんな大事な事を言わなかったんだと言ったら、気づいていると思っていたのだとか。確かに神眼を使う時は魔物か悪党にしか使わないし、鏡の前で使った事がなかったなぁ。それは俺が悪いな。
それはそうと、このライナス自体はそこまで強くは無いと思うのだが、気になっているのはライナスの持っている武器だ。魔力を帯びているな。少し鑑定を。
相手の秘密を覗いてるみたいだから神眼は使わないけど、武器ぐらい覗いてもいいだろ。勝手に納得する。
・名 前:雷鳴剣
・レア度:A
・備 考:魔力を通すと雷を纏う剣。名のある鍛冶師が作った名剣に雷が落ち、その名剣に使われている魔石に雷の魔力が宿った魔法剣。
結構レア度が高い魔法剣だな。この武器なら弱い者が扱ってもそれなりの実力になるだろうな。まぁそれは良いとして、せっかく話しかけて来たのだから情報収集だな。
「Sランク冒険者でしたか。35階層にいるのでてっきりAランク冒険者かと思いました」
「あぁーそういうことか。ここはSランク冒険者や、たまにSSランク冒険者なんかもきたりするよ」
「そうなんですか?このオアシスには何かあるのですか?」
この砂漠エリアはAランク適正だ。Sランクならまだしも、SSランクのパーティが何をしにここに来るか気になるな。
「それはお金集めさ」
「お金集め?このオアシスに何かあるのですか?珍しい魚とか?」
「本当はこれ以上教えたくないのだけど、まぁいいか。教えてあげるよ」
いまの俺は心象が悪かったな。情報も金になるし武器にもなる。それをタダで教えろとせがんでもなんだこいつとなるだけだ。反省だな。
「そう言っていただけるとありがたいですが、どうしてでしょうか」
「いま話題の王の盾のリーダーと知り合えたんだ。それはお金以上の価値があると僕は思っているよ」
「それは…ありがとうございます。俺も高ランクの冒険者の知り合いがいないのでありがたいです」
「何を言っているんだ?君達はこれからSランク冒険者になりに行くところだったんだろ?それより敬語はよしてくれよ」
まぁ俺達がここにいればまた迷宮到達階層でランクを上げる事は何となく分かるか。
「あーわかった、そうするよ」
「ありがとう。それでさっき言った金集めっているのは、ここに出てくるレアな魔物の事だよ」
「レアな魔物?」
希少種みたいな事か?ホーンラビットという魔物がいるが、たまにゴールデンラビットという希少種がいるのだとか。普通のホーンラビットより強力な個体だが、素材は高級でお金になるらしい。
「あぁ、レアといっても希少種みたいな魔物じゃない。倒しても時間を置けばまた現れるからな」
「そうなのか。どんな魔物なんだ?」
「魔物の名前はアクアゴーレム。30階層から39階層で唯一このオアシス出てくる魔物だ」
そんな魔物がいるのか。確かに唯一この場所だけならレアな魔物か。
「だからこのオアシスに色んなパーティが集まっているのか」
「そういう事だ」
「その魔物はいつ現れるんだ?」
「そうだな…さっき倒したばっかりだから次は夜に現れるかな?」
夜か…まだ結構な時間があるな。今日はここでゆっくりするって決めたしまぁ問題ないのだが。
「教えてくれてありがとう。じゃあ俺は夜までゆっくりするよ」
「そうか。じゃ、また夜にだな。まぁアクアゴーレムが現れたら外が戦闘で騒がしくなるから気付くだろう」
そう言いながら踵を返し歩いて行く。
「あぁそうだ、最初挨拶をしたとき貴族と思ったと言っていたが、冒険者と確信していたのだろう?どうしてわかった?」
「それは噂だよ。王の盾のメンバーには執事の格好をした者や子供もいるときいた。まぁこの場所に万が一貴族と執事が来たとしても、そこのドラグさんみたいに汗一つ掻かず涼しい顔はできないだろうさ」
そう言い終わると右手をあげながら去っていく。なるほど、確かに執事の格好をした冒険者なんてドラグぐらいだと思う。それに執事のわりにドラグはこの暑さにどこ吹く風だ。黒の服って熱が籠るからなぁ。そんな服を着てるのに汗一つ掻かないのは不自然だな。
ライナスの事を少し怪しいと思っていたが俺の思い過ごしだったか。まぁまた話す時は気兼ねなく話をするか。さて夜までゆっくりしよう。
読んでいただきありがとうございますm(_ _)m