選ばれたメイド達と選ばれなかったメイド達
side:マナリア・ルフラン
私は10人のメイド達を連れて客間をノックする。
「どうぞ」
ドラグ様の声が返ってくるので、私は客間のドアを開けて、メイド達と中に入る。その客間では、ドラグ様達がソファーに座り、白い紙と羽ペンを用意して座っている。
「ドラグ様、私もこの場にいても良いでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ」
「ありがとうございます」
ただドラグ様達が座っているだけで、この客間は重々しい雰囲気で、張り詰めた空気の様に呼吸がしにくい。きっとそれは気のせいなのだろうが、言い換えれば座っているだけで空気を変えてしまう程、ドラグ様達が真剣だという事だ。その真剣さが、私は勿論メイド達にも伝わっているのだろう。
「ではまず、メイド達は横一列に並んでください。…そうです。ではわたくし、ルビー、シーナの順番に質問しますので、一番右のメイドから、一番左のメイドまで、順番で答えてください」
「「「はいっ!」」」
「それでは質問ですが…」
ドラグ様、ルビー様、シーナ様の順で質問していく。最後のメイドが、シーナ様の質問を答え終われば、次の10人のメイドを私が連れてくる。
メイド達はもっとアピールしたいと思いますが、ドラグ様達はこれだけで色々と分かると言ってましたからね。私にはさっぱり分からないのですが…。それにメイド全て同じ質問で忖度は一切ない。
そんな感じで、全てのメイドに質問を終える。今は、客間には私とドラグ様達しかいない。そういえば、紙に何か書いてましたね。私はその事を聞いてみる。
「ドラグ様、紙に何かを書いてましたが、何を書いてたのでしょうか?」
「これですか。これはメイド達の名前と評価を書いてました。メイドの名前の横に〇が付いてるなら、採用しても良いかなと思っています」
「見てもよろしいでしょうか?」
「えぇ、構いませんよ。どのみち後で見せるつもりでしたので」
ドラグ様、ルビー様、シーナ様から紙を受け取り見比べてみる。すると驚くべき事が分かった。
「こ、これは…!?相談してないのですよね?」
「えぇ、わたくし達は一切相談していまんよ」
これは…凄い結果ですね。ドラグ様は12人のメイドに〇が付いています。ルビー様は14人に、シーナ様は15人に〇が付いています。
ですが、この結果の何が凄いかというと、ドラグ様が〇を付けた12人のメイドに、ルビー様とシーナ様も〇を付けている事が驚きです。もちろん、私がメイド達を連れて来る時に相談した可能性もありますが、それならば10人ぴったりに抑えるはず。わざわざ12人にする意味が分かりません。
それに12人には同じ〇が付いてますが、ルビー様は14人、シーナ様は15人に〇が付いています。このルビー様が選んだ12人以外の2人と、シーナ様が選んだ12人以外の3人はどれもバラバラです。
つまり、12人には同じ〇が付いていますが、ルビー様とシーナ様が選んだ他のメイド達は恐らく、ルビー様とシーナ様が個人的に気に入った、もしくは気が合いそうだからみたいな理由かもしれませんね。
「大方予想通りですね。流石はルビーとシーナです」
「「ありがとうございます!」」
大方予想通り?ルビー様とシーナ様が、ドラグ様が選んだメイド達を選ぶと予想していたのですか!?そんな事ありえるのでしょうか?
「あ、あの、ドラグ様はルビー様とシーナ様が同じメイドを選択すると分かっていたのでしょうか?」
「いえ、分かりませんよ。ただ同じ考えであれば、同じメイドを選ぶというのは予想できていましたよ」
「同じ考えですか…」
私には全く理解が出来ません。
「えぇ、そうです。質問は私達3人が考えました。マナリア様、執事やメイドにとって一番大切な事は何だと思いますか?」
「それは主人様に、全身全霊を持ってお仕えする事ではないでしょうか?」
「そうです。執事やメイドにとってお金や地位、仕事の出来など二の次です。一番大切なのはご主人様の事を信頼し、全身全霊を持ってお仕えする。その者がどれだけ仕事で失敗をしようが、ご主人様の為に、本気で頑張っているのなら失敗など些細な事なのです。少なくともわたくし達のご主人様はそう思われるでしょう」
「私もその考えです。ドラグ様達の主、ルーク様は良い主人様ですね」
たまにですが、貴族様に変な趣味を持った方がいるので、メイド達の事が心配になったりするのです。ですがルーク様に雇われるなら安心できますね。
「はい。心の底からそう思います。そして私達3人が考えた質問ですが、先ほど言った、ご主人様の為に全身全霊を持って尽くす事が出来る者か、そうでない者かが判りやすい質問になっています。それに、嘘を言ってないかなど、相手の目や癖などを細かく見ていました。恐らくルビーやシーナもそういったところを注意深く見ていた事でしょう」
確かに嘘などを見抜いたりするには相手の目など見たりしますが、そこまで正確には分かりません。ですが、この御三方は嘘などを見抜いて、同じ12人のメイドを選んでいるのですから、凄いというほかありません。
「メイド達を選ぶ際、近くで見させていただいて勉強になりました。ありがとうございます」
「いえ、構いませんよ。マナリア様、私とルビー、シーナが○を付けた12名をここに呼んでもらえますでしょうか」
「畏まりました」
私はドラグ様の紙を持って、メイド達が待機している大部屋に戻る。メイド達は10名雇うといってましたが、どうするのでしょうか?まぁそんなこと、私が考えても答えは出ませんね。私はすぐに考えをやめる。
大部屋に着き中に入る。大部屋の中ではメイド達同士が話しているのだが、私が中に入ると一斉にメイド達がこちらに顔を向ける。
「まだ雇われるか決まったわけではありませんが、かなり絞られました。いまから名前を呼ぶメイド達は、もう一度ドラグ様達の元へ私と一緒に来てください」
マナリアが言うと、メイド達は真剣な表情でマナリアを見つめる。緊張しているのか、顔が強張っている者もいる。
「では名前を呼びます。まずはリシア。次に……」
私は紙に書かれている、〇が付いたメイド達の名前を呼んでいく。呼ばれた者は花が咲き誇ったかの様な笑顔を見せる。中にはどうして私が!?といった反応のメイドもいます。その者は、メイドとしては経験がまだ浅いですが、その者にドラグ様達は可能性を見出したのでしょう。
「……以上です。今呼ばれた者達は私と一緒にドラグ様の元へ来てください」
さすがドラグ様達ですね。今回の主人様は冒険者だとメイド達に伝えた時、ほとんどのメイド達は騒ぎ、難色を示していました。怪しいと言っている者もいました。ですが、今呼ばれた者達は誰1人、騒いではいなかった者です。やはりドラグ様達は人を見る目がありますね。
「ちょ、ちょっとまってください!」
声を荒げたメイドが1人いる。彼女の名はミルフィーナ。彼女はこのメイドキッサのメイド達の中では一番仕事が完璧なメイドです。なのでプライドが高い。彼女が選ばれなかったら、何か言ってくるだろうと思っていましたが、案の定言ってきましたね。
「なんですか?ミルフィーナ」
「なぜ私は選ばれていないのですか?私は、今呼ばれたメイド達よりも仕事は完璧にこなせます!それによく仕事で失敗をするメイドの名も呼ばれています!」
「最初にも言いましたが、仕事の出来はもちろん、性格も見ると言ってましたよね?ドラグ様達はどちらかというと、後者の方を重視して選んでいたようですが。それに人柄もよく観察していましたしね」
今呼ばれた者達は、いつも真面目で私が知っている限りサボったなんて話は聞きませんからね。確かに名前を呼ばれた者の中には、ミスばかりしてしまう者もいます。ですがその者は、私の知っている限り諦めた事がありません。私の知らないところではどうか分かりませんが、落ち込んでいる姿を見せた事は一度もありません。それだけでも雇う価値はありますし、私が雇う側なら、私も雇いたいと思います。
「私の性格が悪いと言うのですか?」
「悪いとは言ってません。ミルフィーナ、あなたはこの先、どんなメイドになりたいですか?」
「それは…この王都で一番のメイドになりたいです!」
「それです」
「え?」
「その考えがルーク様に仕えるのに相応しくない考えなのです。ドラグ様達は、全身全霊を持ってルーク様に仕える事が出来る者を選んでいます。先程の私の質問ですが、この先どんな事があろうと、主人様に相応しいメイドになりたいと言っていれば、ドラグ様達はあなたを選んでいた事でしょう。諦めなさい」
このメイドキッサで一番仕事が出来るから故のプライドが高い。ですが、ルーク様に仕えるのにそのプライドは邪魔でしかない。だからドラグ様達は選ばなかったのでしょう。
「そ、そんな…」
「それに私も言ったでしょう?メイドとは主人様に全力で尽くしてこそ本物のメイドですと。メイドで一番になりたいという事は、周りから評価されたいという事です。そう考えている内は、メイドとしては未熟者です」
一番になる事は悪い事とは言いません。ですが、あなたは一番であるが故に、プライドというメイドには必要ない物がくっついています。周りから評価されたいではなく、周りから評価されるメイドになりなさい。ですが、周りから評価されたからといって、慢心してはいけません。どれだけ評価されても、結局評価されるのは主人様だけで充分なのです。その事に自分で気付かなければ、あなたは一生メイドの中で一番にはなれないでしょう。
「では、名前を呼ばれた者達は行きますよ。あまりドラグ様達を待たせるのは失礼ですからね」
私は名前を呼んだメイド達と一緒にドラグ様がいる客間に向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私とメイド達は客間に着いてドアをノックする。メイド達は、まだ雇われると決まったわけではないので、かなり緊張しているみたいね。
「どうぞ」
「ドラグ様達が選ばれたメイド達、12名を連れてきました」
「マナリア様、ありがとうございます。メイド達はそこに、横一列に並んでください」
メイド達を並ばせる。
「あなた達をここに呼んだ理由は1つ。あなた達を雇いたいからです」
ドラグ様からその言葉が出た時、メイド達は安心したのか笑顔になる者やホッとした者が何人かいる。驚いている者もいる。
「しかし、わたくし達がご主人様に言われましたのは、メイドを10人選べと、そう言われました。12人選べとは言われていません」
ドラグ様のその言葉で安心した者達の顔が、また緊張して強張った顔になる。
「わたくし達は10人選べと言われましたが、12人選びました。それはなぜか。あなた達12人はご主人様に仕えるのに、相応しいメイド達だからです。ですが、先程も言いましたが、10人選べとしか言われておりません。2人、ここから絞らなければなりません」
絞らなければならないと言われて、更に顔が険しくなるメイド達。あぁ…やはりこの子達のこんな顔はみたくありませんね。ドラグ様はどうするのでしょうか…。
「絞らなければなりませんが、実に惜しい。ですので、私達がご主人様にお願いしてみましょう」
その言葉でメイド達はまた安心した顔になる。本来、執事とメイドというのは、主人様の命令は絶対なはずですが、ルーク様にお願いできるという事は、かなり信頼が厚いという事でしょう。それか、ルーク様からしたら、ドラグ様はお願いを出来るほどの立場にあるのかもしれません。
「ですが、まだ安心するのは早いです。ご主人様が10人しか雇わないといえば、わたくし達にはもうどうする事はできませんので」
「ドラグ様、私が言うのもなんですが、ルーク様にお願いできるのであれば、この子達をどうぞよろしくお願い致します」
「「「「「よろしくお願いいたします!」」」」」
「分かりました。ご主人様のところに行きましょうか。あなた達も雇われるか雇われないか気になりますでしょうし。では、わたくしについてきてください」
ドラグ達とメイド達、そして私でルーク様のところに向かう。
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