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マナリアの苦悩


side:マナリア・ルフラン


「ドラグ様、ルビー様、シーナ様、少しお待ちいただけますでしょうか?」


「畏まりました」


ルビー様とシーナ様も頷いている。それにしても凄いお客様が来たものだわ。私以上に立ち振る舞いが完璧な者が、こんなにもいるなんて思っていませんでしたからね。もちろんこのナルグランデ大陸全土を探せば何人かは見つかると思っていますが、まさかこんな近くにいるなんて…。自分で言うのもなんですが、この王都では私以上の者はいないと思っていました。


私の家系は代々、このメイドキッサの当主として受け継がれてきました。そして私の家系には、昔からしきたりがあります。それは小さい頃から王家に仕えて、1人前のメイドになり、いつかメイドキッサを引き継ぐこと。私はそのしきたり通り、王家に仕えて15年でメイド長になり、そこから40年以上王家に仕えました。


そして今は王家から離れ、このメイドキッサを継いでいるという事です。1人前になるという事は、王家が私を認めたという事です。1人前になればメイドキッサに戻り、当主を引き継ぐ事が私の一族のしきたり。決められた人生ですが、嫌というわけではありません。


小さい頃からこのメイドキッサの名は、この世界に平和をもたらした勇者様が付けてくださったと、私の母が言っていました。事実、私の家系の者に、勇者様に仕えていたという者もいました。


その勇者は何代目かは知りませんが、その勇者に仕えていた私の家系のメイド、その者の日記が今でも残されています。なので私の家系は由緒正しい家系で、嫌ではないのです。


そういった理由等もありながら、王都の中には私と並ぶメイドはいないと思っていました。慢心ではありませんが、現にメイド達の噂ではそう言われていましたからね。


それがどうでしょう?私が並ぶ者はいないと思っていましたのに、私を越える者が目の前に3人も!悔しいとかではなく、嬉しいのです!そして羨ましいのです。立ち振る舞い等も非の打ち所がないほど完璧で、この方達に私が育てたあの子達を任せられる事に嬉しく思い、反面これほど完璧でありながら、この3人は指導者側であるとは思うが、未だにご主人様に仕えられている事や、これほどの者達が心から主人様を信頼し、主人様もこの者達を心から信頼している。


でなければ、ドラグ様達にメイドを選ばすなんてしないだろう。それが分かってしまった。もちろんメイドキッサが無いと、これからメイドになりたい者が苦労するのは分かっている。メイドキッサが無かった時代は、メイドになりたいと貴族の家に平民の女性が押しかけて、自分をアピールしてたぐらいだ。雇わせてもらうのだから、給金なんて銀貨1枚でも多い方だ。


だから今のメイドキッサは、これからメイドになりたい者には救いだ。だけど、ドラグ様達を見ていると、一度でもいいからルーク様に仕えてみたいと思ってしまった。叶わぬ願いだからこその羨ましいのだ。私は私の家系に誇りを持っていますが、ほんの少しだけ私の家系を恨んだ。


それはそうと、あのドラグ様達が直々にメイド達を選ぶといっていましたね。ルーク様が給金を金貨5枚と言いましたから、百人以上いるほとんどのメイドがルーク様に仕えたいと思うはず。ですが、選ばれるのはたったの10人。選ばれなかったメイド達の事を考えると、少し心が痛みますわね。


マナリアはそんな事を考えながら部屋に入っていく。部屋の中はそれなりに広く、数十人のメイドが立ち振る舞いなどの練習をしている。練習している1人のメイドがマナリアに気付いて声を掛けてくる。


「あっマナリア様!」


「ちょうどよかったわ。今すぐメイド全員を大部屋に集めなさい」


「全員ですか?」


「えぇ、そうよ。他の場所で練習しているメイド達も全員です。今すぐにですよ?さぁ走りなさい!」


メイド達は久しぶりに焦っているマナリアを見て、何かを察し、急いで大部屋に集まる為に走るのであった。


「さて、私も大部屋にいきましょうか」


マナリアは大部屋に向かうのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


メイドキッサには百人以上入れる大部屋がある。もちろんメイドキッサ全てのメイドが集まれば、この大部屋で何かを作業するなんて到底無理なぐらいぎゅうぎゅうだが。


マナリアは大部屋に着いて中に入る。大部屋の中にはメイド達が列になって整列している。マナリア以外の、指導役のベテランメイドも来ている。


「みんな急に集まってもらって悪いわね。至急、あなた達に伝えたいことがありましたので、ここに呼び出したのです。ここに呼び出した理由は、あなた達を雇いたいという主人様が来たからです」


説明するがメイド達はまだきょとんとしている。


「あなた達が言いたい事は分かるわ。本来メイドを雇うとなれば、貴族様はどのメイドを選んだら良いか判らないので、私がいつも貴族様に選んで差し上げてます。ですが今回の主人様は、主人様側がメイドを選んでくださいます。ですので選ばれるように努力してください」


「マナリア様、質問よろしいでしょうか?」


1人のメイドが口を開く。


「いいですよ。何でしょうか?」


「ありがとうございます。今回の主人様はどういった方でしょうか?」


「そうですね…。今回の主人様は貴族様ではありません。Bランク冒険者と言っていましたね。それと雇う人数は10人雇うそうです」


マナリアがそう言うと、メイド達がざわざわ騒ぎ出す。まぁ無理もありません。貴族ではなくて、冒険者がメイドを雇う。しかも10人もだ。そんな者には選ばれたくないと思っているだろう。全く…。


「冒険者ですって」


「えぇー…わたし貴族様に雇われたいですわ」


「しかもBランク冒険者ですし」


「それに10人も雇うのですって」


「冒険者なのに10人なんて、なんか怪しくないですか?」


「わたしわざと手を抜こうかしら?」


「静かにしなさい?あなた達。いつも言っているでしょう?人は見た目で判断してはいけませんと」


「ですがマナリア様、冒険者の主人様ですよね?そんなにお金を持っているとは思えません。それにBランクですし…」


「Bランクの冒険者がメイドを10人雇うという事も不自然です。騙されてはいませんでしょうか?」


冒険者だからと言いたい放題言って…。私が選べる立場なら、間違いなくこの者達は選んでないしょうね。


「あなた達を雇う主人様の名はルーク様というのですが、ルーク様は特別です。ルーク様が言ってる事は本当だと私は信じています。それに、ルーク様には元々仕えている執事やメイドがいます。ルーク様は執事やメイドを、とても大事にしている事が分ります。そのような方が嘘をつくなんて考えられません」


マナリアはメイド達に言い聞かせる。ちなみに、貴族がメイドを雇う場合は給金を提示して、その給金で働いて良いという者の中から、マナリアが選んであげる。そのため貴族が、マナリアが選んだメイドを使えるかどうかを判断するのは、貴族の家で実際働いてからである。


しかし今回みたいな、雇う側が選ぶ場合は、給金を提示する前でも、気に入ったメイドを選ぶことが出来る。特に貴族は給金を提示する前に選ぶことが多い。それはなぜか、給金の額で頑張る度合いを変えるメイドではなく、給金云々より、日ごろから真面目に頑張っているメイドを雇いたいと思う貴族が多いからだ。なので給金を提示する前に選ぶ貴族が多い。多いといっても、マナリアに選ばせる貴族に比べれば少ないが。


雇う側が選ぶメリットはメイド達の練習をしている所や、何かやってほしいリクエストがあれば、それに応じてメイドがやってくれるという事だ。例えば料理とかなのだが、それを見て雇う側は判断する。


だが、逆にデメリットもある。雇われたくないと思ったら、露骨に手を抜くメイドもいるという事だ。先程ルークが冒険者だと聞かされて「わざと手を抜こうかな?」といっていたのは、こういった理由だ。だが今回ルークは給金を提示しての雇う側である。


「ちなみにですが、ルーク様に雇われますと、1ヶ月の給金は金貨5枚です」


「そ、それ本当ですか!?マナリア様!」


「えぇ、 本当です。恐らくですが、ルーク様は普通の貴族様よりもお金を持っています」


「金貨5枚ですって!」


「わたし本気を出すわ!」


「何を言っているんですか?私が雇われるって決まっているじゃないですか!」


口々に騒ぎ出すメイド達。全くこの子達は…。


「静かにしなさい!見苦しいですよ!先程までルーク様の事を怪しいだの、わざと手を抜くだの言っておいて、給金が高ければ掌を返し、頑張るだのと都合がよすぎやしませんか?メイドとは主人様に全力で尽くしてこそ本物のメイドです。金貨の多さで頑張る頑張らないなどの意見を変えるなど、メイドとしては二流以下です」


マナリアがメイド達に怒る。今騒いてたメイド達は顔を下に向けている。全員ではないですが、今騒いでた者達は残念ながら雇われないでしょうね。ドラグ様達なら簡単に本質を見抜いてきそうですし。


「今この場にルーク様がいればガッカリしていた事でしょう。いつからこのメイドキッサは、給金の多さで意見を変えるようなメイド達になったのでしょうか?私はそんな事を教えたでしょうか?あなた達は本当に、メイドになりたくてここに来たのですよね?軽い気持ちでここにいるのなら、ここから立ち去りなさい」


「マナリア様、申し訳ありません」


「私達が間違っていました」


メイド達は謝るのだが、だれもここから立ち去らない。


「まぁいいでしょう。今回だけは無かった事にしましょう。ですが、忘れないでください。メイドは主人様に全力で尽くす事が仕事です」


「「「「「はいっ!」」」」」


メイド達は息ぴったりに返事をする。本当に分かっているのならいいのですが…。


「では、ルーク様についてもう少しお話があります。今回メイドはルーク様側が選ぶと先程も言いましたが、実際はルーク様が選ぶわけではありません」


「ではだれが私達を選ぶのでしょうか?」


「それはルーク様に仕えている執事と、2人のメイド長です。この御三方が、ルーク様に仕えるメイドを選びます。はっきり申し上げますが、非の打ち所がないぐらい完璧な執事とメイドです。私が今まで見てきた執事やメイドの中で、この御三方より立ち振る舞いなどが完璧な執事やメイドを見た事がありません。そのぐらい凄い方達です」


普段褒める事があまりないマナリアが、ここまで絶賛している事に驚きを隠せないメイド達である。


マナリアも立ち振る舞いなどは完璧なのだが、この御三方には頭が上がらないと言ってるようなもんだ。メイド達はマナリアの凄さも知っているので、マナリアが、この御三方をかなり評価している事が分かる。それほど凄い方達が選ぶと言われて、メイド達は一層真剣になる。


「それに、ルーク様のメイドに選ばれるのには仕事の出来はもちろん、性格なども見たりすると話していたので、本当に誰が選ばれるか分かりません。つまり、何が言いたいかと言いますと、どんなに仕事が完璧でも、性格が悪ければ選ばれないという事です」


少しキツイ言い方になりますが、私の助言はここまでですね。おっと、忘れる前にこれを聞いておかなければなりません。給金を提示しているのですから、いないとは思いますが、一応聞いておきましょう。


「今のルーク様の話を聞いて、雇われたくないと思う者はこの部屋から出て、違う部屋にいてください」


マナリアがそう言うが、誰1人ここから去ろうとする者はいない。まぁ当然ですね。でしたら、私はもう何もいう事はありません。あとはあなた達次第です。


「では御三方を呼んできますので、あなた達はここで待っていなさい」


本当はもっと話したいですが、あまりドラグ様達を待たせるのは失礼ですからね。マナリアは大部屋から出ていく。後に分かった事だが、マナリアが出ていった大部屋では、誰も口を開かなかったと言われている。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ドラグ様、ルビー様、シーナ様、お待たせ致しました」


「いえ、構いませんよ」


「では、こちらにどうぞ」


マナリアはドラグ達を連れて大部屋に向かう。私はこの御三方に話しているのですが、言葉を返すのはドラグ様だけです。恐らくルビー様とシーナ様よりドラグ様は立場が上なのでしょう。しかし、私まで緊張してきたわ。そんな事を考えていると、いつの間にか大部屋に着く。


「この大部屋の中に、メイドキッサ全てのメイドが整列しています。では中にどうぞ」


マナリアが部屋のドアを開けて大部屋に入る。ドラグ達もマナリアに続いて中に入る。中に入るとメイド達が一糸乱れぬ動きでお辞儀をする。


「ほう…」


ドラグ達の目は先ほど私と話してた優しい目ではなく、メイド達の動きを1つ1つ細かく見るような鋭い視線になっている。


「ドラグ様、ルビー様、シーナ様。ここにいるメイド達が、このメイドキッサで雇える全てのメイド達です」


「なるほど。少し挨拶を致します」


「分かりました」


「まずはルビーからお願いします」


「畏まりました。ドラグ様」


まずはルビー様が前に出てお辞儀をする。そのお辞儀は流れるようで美しい。メイド達はルビーのお辞儀だけで、マナリアがかなり評価していた事を身を持って理解する。そして理解したメイド達は更に緊張感と気合が増す。


「初めまして、メイドキッサのメイド達。私はルーク様に仕えるメイド長を勤めさせていただいております、ルビーと申します。以後お見知りおきください」


「同じく、私はルーク様に仕えるメイド長を勤めさせていただいております、シーナと申しますわ。ルビーと同様、以後お見知りおきください」


「そしてわたくしは、ご主人様に仕える執事を勤めさせていただいております、ドラグニルと申します。以後お見知りおきを。それと、話はマナリア様から聞いているかと思いますが、わたくし達3人がご主人様、ルーク様に仕えるメイド達を選びますのでそのつもりで」


メイド達はドラグ達の自己紹介を真剣に聞いている。まぁみんな雇われたいから真剣になるわね。


「ドラグ様、メイド達はどのように選ぶのでしょうか?」


「そうですね。10人ずつに分けて面接をしましょうか」


「めんせつ?」


「あぁ、申し訳ありません。わたくし達の地元の言葉でして。まずメイドを達を10人ずつに分けてください。それからわたくし達が話や質問などをしますので、それに答えるだけで大丈夫です」


なるほど。1人1人に話を聞くのですか。メイドが百人以上いるにも関わらず、平等に話を聞いて、選んでくれるのはメイド達からしたらありがたい事ですね。


「畏まりました。メイド達を10人ずつに分けましょう」


「それと話は別の部屋で聞きたいので、その部屋に10人ずつ、メイド達を連れてきてください」


「畏まりました。では、私についてきてください。客間に案内いたします」


さて、どういう結果になるでしょうか。複雑な気持ちですが、少し楽しみでもあります。



読んでいただきありがとうございますm(_ _)m

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