王都の新しい屋敷
俺達は今、ミルハイムさんと一緒に、屋敷を見に行く為に貴族街にいる。俺が気になった屋敷は中央北通りを進み、貴族通りに入り、その貴族通りのかなり目立つ場所に建てられている。
貴族街には他にも色々な場所に道があるのだが、貴族通りと言われている道は1つしかない。他の道よりもかなり幅が広く、この道を真っ直ぐ進めば王城に到着する。
なので貴族街に住んでいる貴族には、貴族通りといわれている。俺が気になっている屋敷は一番目立つ場所、つまり貴族通りの中心(貴族通り入り口から見て右側)に建てられているらしい。
ちなみに、一番目立つといっても、この辺りには上級貴族の屋敷や別荘等は無い。上級貴族の屋敷や別荘等は王城に近い所に基本建てられるので、貴族通りの中心とはいっても、下級貴族や豪商の別荘があったりする。
あまり目立つ場所は嫌なんだが、この屋敷しか良い場所がないのだから仕方ない。もしこの屋敷が良かったら、この際目立つのは目を瞑ろう。
ミルハイムさんと貴族街に入って10分ぐらい歩いて、その屋敷に到着する。
「着きましたよ。ここがルーク様が気になっていた屋敷です」
俺が気になっていた屋敷に着く前から遠目で見えていたのだが、近付くにつれて改めてこの屋敷の大きさに驚く。本当に屋敷か?周りに建てられている屋敷とは2倍?いや3倍か?ぐらいの大きさが違う。
両隣の屋敷もかなり大きいのだが、霞んで見える。両隣の屋敷の真後ろには、別の屋敷が建っているのだが、俺が気になっている屋敷の真後ろには何も建っていない。というよりも、真後ろの部分もこの大きな屋敷の一部になっている。
単純に両隣の屋敷2つ分以上の大きさがある。下手したら3つ分はあるか?
「かなり大きいですね」
「先ほども言いましたが、王都では王城を除いて一二を争う大きさですからね。本来であればこの屋敷の真後ろには、別の屋敷が建っていたのですが、それを侯爵は押し切って、真後ろに屋敷と敷地内を、この屋敷の一部に取り込まれて建てられたのです。ちなみにこの屋敷の両隣にあった屋敷も取り込まれて、この様な大きさになったのです」
「なるほど。だからこれほど大きな屋敷になっているのですか」
「はい」
屋敷で話していると1人の女性が話しかけてくる。
「ごきげんよう、ミルハイムさん」
「おや、これはタリア様。ごきげんよう」
タリアと呼ばれた女性はすらっとした体形で美しいが、いかにも貴族という立ち振る舞いをしている。
「ミルハイムさん、こちらの女性は?」
「あぁ、これは申し訳ありません。こちらの女性はタリア様といって、この屋敷の1つ隣の屋敷に住まわれている夫人です」
「そうですか。初めまして、私はルークと言います」
「これはご丁寧に。私はこの屋敷の隣に住むタリアと申します。以後お見知りおきを。…それはそうとミルハイムさん、またこの屋敷の紹介ですか?」
「えぇ、まぁそうですね」
ん?なんか嫌味っぽく聞こえるのだが…。少し聞いてみるか。
「またとはどう意味ですか?」
「あらごめんなさいね。悪気があって言ってるのではないの。前から様々な貴族様方に、この屋敷を紹介しているのですが、いつも紹介だけして買わずに貴族様方は帰っていくのです。失礼な言い方になりますが、この屋敷に住んでいるという優越感に少しだけでもいいので味わいたいだけなのではないでしょうか?と私は思うのです」
「ははっ…。否定は出来ませんね。私も最近はそう思うようになってきたのですよ」
なるほど。この屋敷が人気な理由が分かった気がする。だが買わないのに屋敷だけ紹介だけさせるなんて冷やかしもいいとこだ…。ミルハイムさんだって大商会の代表だ。貴族は基本ミルハイムさんが相手をしているのだろうが、相手をしていなくてもかなり忙しい人だ。
あんな大きい屋敷を紹介するなんて相当時間が掛かるはずだ。それをミルハイムさんは忙しい時間の合間を縫って、もしかしたら買ってくれるかもしれない貴族に紹介しているという事だ。タリアさんがまたといっていたので、かれこれ何人、いや何十人と紹介してきたのだろうが、結局冷やかしで終わり、今まで売れ残ってきたという事だ。
そりゃミルハイムさんもこの屋敷の紹介には億劫になるはずだ。最近では貴族がこの屋敷を紹介してほしいと来ても、信頼できる従業員に紹介させているらしい。
「ですがルークさんは買ってくれるかもしれませんので、こうやって私自ら案内をしているのです」
「それほどまでにこの方を信頼しているのですね。ちなみにルークさんは貴族の方でしょうか?」
「違いますね。そうですね…。強いて言うなら冒険者ですかね」
「まぁ!?それは本当ですか?」
タリアさんは驚いている。まぁ無理もない。こんな屋敷を冒険者が買うとは思わないだろう。もし買うとしたらSランク、いやそれ以上の冒険者ぐらいだろう。それに冒険者は6人しかパーティを組めない。こんな大きい屋敷を買ったところで持て余すだけだろう。
「はい。本当ですよ」
「冒険者の方がこんなにも値段が高いお屋敷を買うなんて、にわかに信じがたい事なのですが…」
「ルーク様は普通の冒険者ではありませんからね」
「そのようですね。普通の冒険者がこのお屋敷を買いたいなんて言うはずありませんからね」
「まぁ、少し訳ありの冒険者と思ってくれれば大丈夫ですよ」
トワイライト商会の代表とは言わないでおく。教えると、もしかすると貴族にトワイライト商会の代表は俺だと知れ渡ってしまう可能性がある。マリナの道具屋で最高品質のポーションを売りだしている事から、トワイライト商会には最高品質のポーションを作れる者がいると言ってるようなもんだ。そのトワイライト商会の代表と知れば色んな貴族から迫られる。
あぁ、勘違いしてほしくないのだが、迫られるというのは体的な目的ではないぞ?まぁそんな事はどうでもよくて、つまり俺がこの貴族の夫人にトワイライト商会の代表と教えれば、面倒臭くなる事が目に見えているという事だ。なので教えない選択を俺はする。
「ですが、もしルークさんにこのお屋敷を買っていただけるなら、それはそれでこちらとしてもありがたいです」
「どうしてありがたいのですか?」
「それはルークさんが貴族ではないからです。私の夫の爵位は子爵です。このお屋敷を買うならば伯爵以上の貴族様かと思っていましたので。伯爵以上の貴族様が隣に住まわれていると心も休まりませんからね」
タリアは苦笑いしている。なるほどな。何か少しでも迷惑をかけてしまうと大変なことになりそうだ。想像すると些細な事でも敏感になってしまい、精神的にもしんどいだろう。
「なるほど、そういう事ですか。ですがまだ買うか決まっていませんが、もしこの屋敷を買うと決まった場合は、その時はどうぞよろしくお願いしますね」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いしますね。では私はこれ以上お屋敷の紹介を邪魔してはいけませんのでこの辺で」
「分かりました。ではまた」
「タリア様、また私のお店にもいらしてくださいね」
ミルハイムさんはちゃっかり自分のお店を宣伝している。まさに商人の鑑だ。タリアも「はい。またその時に」と返して自分の屋敷に戻っていく。
「ではルーク様、これから中の案内を致します」
屋敷の入り口にある鉄格子をミルハイムさんが開く。
「鉄格子の外から少し見えていたが、庭もかなり広いな…」
もはや庭というより学校にある運動場並みの大きさだ。屋敷も学校並みの大きさだから学校と間違われてもおかしくない。
ちなみに屋敷の周りは、少し高い塀が屋敷を囲っており、一般の者達では飛び越えるのが難しくなっている。塀の高さは3メートルぐらいあり、中の様子が分からないようになっている。プライバシー対策もバッチリだ!
「この屋敷は32部屋あります。ですがそれはあくまで、一般の部屋だけでという事になります。大食堂や大浴場を合わせると部屋はもっと多くなるでしょう」
「少し多い気もしますが…」
「この屋敷は3階建てで、1階に10部屋、2階に10部屋、3階に12部屋あります。もちろん客間などは別ですよ?泊まれる部屋だけで32部屋あるので、客間など入れればもっと部屋の数は増えますからね」
そして屋敷の入り口にやってくる。近くで見るとさらに大きい。この屋敷の扉も3メートルぐらいある。巨人族でも住まわせるつもりだったのか?スサノオもいちいち頭を下げて入らなくても大丈夫そうだ。マリナの店を入る時はいつもかがんで入っていたから喜びそうだ。
「では中に入りましょう」
ミルハイムさんは屋敷の中に入るので俺もそれに続く。
ミルハイムさんのあとに続いて中に入ると
「おぉー!」
エントランスホールだけでもかなり広い。エントランスホールから左にも右にも行けるし、奥にも行ける。奥に扉があるのだが、その扉の手前左右には階段もある。
「大きいですので1階から回りましょうか」
「そうですね」
まずは1階を回る事にする。確かにこれは紹介するだけでも時間が掛かりそうだ。
「1階は主にお客様などが泊まったり、大浴場や大食堂がある場所です」
1つ1つ説明しながら案内してくれるミルハイムさん。大食堂は文字通り大食堂でかなり広い。大浴場も男湯と女湯に分かれていて、風呂というより温泉だ。
1階には他にも客間があり、客間だけでもかなり広い。客間は別に小さくても良いと思うんだが…。
「次に2階ですが、この階は主に、ここで働いてくれるメイド達の部屋が多いですかね?部屋の中を見れば分かります」
ミルハイムさんは2階の部屋も1つ1つ案内してくれる。2階には部屋が10部屋あるのだが、その内の5部屋は中にベットが4つある。メイド専用の部屋らしい。
あまりにも大きいから、雇うメイドも多くなるだろうという考えで、メイド達の部屋は4人で寝れるようになっている。メイドに1人1部屋なんて与えていると、メイドだけで半分の部屋は埋まってしまいそうだ。その対策がこれなんだろう。
2階の残り半分の5部屋も泊まれる様になっている部屋だ。1階と同じ作りだ。1階ではお客が入りきれない場合、2階に予備の部屋を作っているのだとか。
「次に3階ですが、ここは主に身分の高い者が泊まる部屋になっております。1階や2階とは広さも豪華さもかなり違いますね」
3階も1つ1つ案内してくれる。3階の部屋は1階や2階の部屋とは違ってそれなりに広いし豪華だ。もちろん3階の主の部屋だけは更に広くて豪華だ。この屋敷を作った者はよほど交友関係が広かったのか、自分の財力を見せびらかしたかったのかのどっちかだろう。まぁ没落している事だし俺は後者だと思うが。
まぁ、この屋敷の主の部屋は確かに広くて豪華だが、流石にトワイライト城の俺の部屋には劣る。屋敷でこれだから、その没落した侯爵はよほど商売がうまかったのか、あくどい事をしていたのか。
「あぁ、それともちろん地下もありますよ?」
ミルハイムさんが言ってきたので地下も見せてもらう事にする。地下には独房があり、城と似たような独房である。鉄格子があり、中からは逃げられないようになっている。
「とまぁ、一通り回りましたが如何でしょうか?」
ミルハイムさんが聞いてくる。そうだな…。悪くはないと思っている。俺が欲しいお風呂もあるし、文句はない。風呂は最重要だ!だが、流石金貨5000枚はする屋敷だ。
文句があるとしたら立地だ。目立つ場所にあるのだが、まぁそれは致し方ない。それにかなり広いので、ヴィーナ達の拠点にも役立つと思う。
俺は守護王達を見るが、守護王達は俺が決めたら良いという顔をしている。流石に文句というか問題があれば守護王達も言ってくるだろうし、何も言わないという事は、守護王達も悪くはないと思っているのだろう。
まぁこの屋敷ぐらいしか良い屋敷が無かったし、もし買わなかったらこの屋敷を他の誰かに買われる可能性があるかもしれない。あぁ、あんとき買っておけば良かったなと後悔するぐらいなら、今買った方がいいだろう。どうせお金なんて何もしてなくても入って来るし、迷宮を攻略した際に魔物の素材を売ればそれなりにお金になるだろうし。
「分かりました。この屋敷を買います」
「本当ですか!?」
「はい。この屋敷で大丈夫です」
「ありがとうございます!」
「早速手続きをしてくれませんか?」
「畏まりました。ルーク様、この屋敷は金貨5000枚と言いましたが、ルーク様にはいつもお世話になっておりますので、少し割引させて貰って、金貨4500枚でどうでしょう?」
「いや俺は有り難いのですが、本当にそれでもいいのですか?」
「はい!今後とも、このミルハイムに仲良くして頂ければ幸いです。商人は信頼が命ですから、金貨500枚でルーク様の信頼が得られるなら安いものですよ」
まぁミルハイムさんは俺の中ではかなり信頼しているのだが、断る理由もないので割引してもらおう。
「では、それでお願いします」
俺はこの屋敷を購入する為の書類にサインするのであった。
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