マリナの本当の笑顔
「いらっしゃいませ!マリナの道具屋へ!」
マリナがそう叫ぶ。開店と同時に外で待っていた冒険者達(主婦などはまだいない)が中に入ってくる。一応俺は店の端でエリナちゃんを抱っこしながら様子を窺っている。
「ここが新しい店か!」
「商品の数は少ないんだな」
「はい。まだ開店したばかりなので、商品は少ないですが、今後商品をどんどん追加していきたいと思います!それに商品は少ないですが、変わった商品などもありますので、是非商品をご覧になってください」
マリナは入ってきた冒険者達にそう説明している。かなり気合が入っているのが見て取れる。
「おい!この下級ポーション大銅貨1枚になってるぞ?高くないか?」
「そちらは全て最高品質の下級ポーションです!品質並や良のポーションと違って、このポーションはずっと腐る事はないですよ」
ポーションは時間が経つと劣化してしまう。これは毒消しの薬や麻痺消しの薬も同様である。実際は毒消しの薬ではなく毒消しの薬という。麻痺消しも同じでポーションという。つまりポーション系は全て時間が経つと劣化してしまう。
そして劣化は品質によって、劣化するスピードが変わる。品質が並なら1週間、良なら1ヶ月、最高なら劣化しなくなる。
「はったりじゃないのか?最高品質は迷宮でしか手に入らない。こんなに用意できる訳がねぇ!」
「では鑑定士を連れてきますか?ただ下級ポーションや魔力ポーションの最高品質は限定品になっています。数が限られていますので、下級ポーションと下級魔力ポーション、合わせてお1人様5本までとします」
これは1人の客に、大量に買われて他のみんなに行き渡らないのを防ぐ為である。なので1人5本までとしている。冒険者は命あっての職業だ。良のポーションより少し高いが、良よりも品質が良く、回復効果が良よりも少しでも良いなら、最高品質のポーションを買うだろう。特に駆け出しの冒険者は。それにずっと腐らないときたもんだ。買わない訳がない!
「俺は買うぜ!」
「お、おい!?偽物かもしれないぞ?」
「明らかに品質良のポーションよりキラキラと光っている。これは最高品質で間違いないだろう!それに新しく開店したばかりの店が嘘をついて、最高品質のポーションを売るメリットが分からない。下手をしたらポーションを売れなくなる」
「まぁ確かにそうなんだが…」
「俺も買うぜ!最高品質の下級ポーション5本くれ!」
「はい!ありがとうございます!大銅貨5枚になります!」
何人かが買ってくれるが、やはり最高品質が本物か偽物か分からないので、買う人はそこまでいない。だが数に限りがあると知った冒険者は何人か買っていく。うむ…。やはり怪しんで買う者は少ないか。だが購入した者が本物だと噂すれば買ってくれる者も増えるだろう。それがいつになるか分からないが…。
そんな事を考えながら様子を窺う事30分ぐらい経っただろうか?するとドアから冒険者ではない者が入ってくる。
「いらっしゃいませ!マリナの道具屋へ!」
「私はこの国の鑑定士。冒険者の依頼でここのポーションの品質を調べてくれとさっき頼まれたからここに来ました」
行動が早い冒険者だ。だがこちらとしては好都合だ!そりゃ迷宮でしか手に入らないといわれていた最高品質のポーションが、こんなに売られていたら怪しむのは当たり前か。しかしこの鑑定士がきたおかけで怪しむ事も無くなるだろう。だが…
「少し待て。俺はこの店に関わっている者だ。お前本当に鑑定してくれるのだろうな?嘘偽りなく鑑定した結果を伝えると」
「何を言う!私は鑑定士だぞ!」
「なら契約魔法を使う」
「契約魔法だと!?私が嘘をつくと思っているのか!」
いきなり契約魔法を使うといわれたらそりゃ怒るわな。鑑定士として言っているのだから嘘はつけない。偽鑑定士というレッテルを張り付けられたら、鑑定士としては食っていけない。それに鑑定士としてのプライドもあるだろう。それは分かる。だが嘘をつかないと本当に言い切れるのか分からない。
鑑定士と名乗っているのだから、その鑑定士の言葉は大きな影響力を与える事になる。もし嘘をつかれてこの最高品質のポーションを売れなくなったら損失が大きすぎる。
「それは分からない。だが嘘をつかれると商人側は商売上がったりだ。こちらは嘘をつかれる可能性があるんだ。そちらも鑑定するなら何か掛けてもらう。なに、お前が真っ当な鑑定士なら、鑑定結果を嘘偽りなく話せばいい。ここにいる冒険者は本当の鑑定結果を知りたいんだから。お前らそうだろ?」
鑑定士の1つの言葉で売れるか売れないかが決まるといっても過言ではない。鑑定士側は嘘をついても何もダメージはない。もちろん噓がばれたら鑑定士としてはやっていけないが、名前を変えるとかすればまた活動出来るかもしれない。実質ダメージはほとんどない。こちらは嘘をつかれると、売り上げも店の信頼も地に落ちる。不公平じゃないか?なら契約魔法でそれ相応の物を賭けてもらう。そもそも俺は鑑定を使えるのだが、俺が言うよりも鑑定士が鑑定して、その結果を言う方が効果はあるだろう。
「まぁ確かに俺達は本当の鑑定結果が知りたいからな。商人側の言い分も分かるな」
「契約魔法で嘘をつけなくさせるんだろ?ならそっちの方がいいだろ?」
周りの冒険者達は賛同気味だ。
「周りの冒険者はこう言ってるがどうだ?鑑定士」
「くっ…いいだろう。契約魔法を使ってくれ」
「分かった。〈契約魔法〉、契約の内容条件1、マリナの道具屋に置いてある下級ポーション、下級魔力ポーションを鑑定し、その結果を嘘偽り無く答える。もし虚言を吐いた場合、鑑定士の喉は潰れる。条件2、この場から鑑定しないで店から出ると喉が潰れる。条件3、そもそも鑑定魔法が使えなかった場合も、喉が潰れる。それでいいな?」
「ちょ、ちょっと待て!なぜ喉が潰れるのだ!」
「別にいいだろ。嘘をつかなければいいだけだ。それに嘘をつく鑑定士なんて、いても意味ないだろ。お前が本当の鑑定士ならば条件を達成させる事など簡単だろ?鑑定士として、そこまで難しくない要求をしてるんだからな。だがこの契約をやめて逃げてもいいんだぞ?まぁ、お前は鑑定士ではないというのは、この国全体にすぐ広まりそうだがな」
俺がそう答えると周りの冒険者が頷いている。ちなみに普通の契約魔法は、契約魔法と唱えてから契約内容を言う。内容を制約、誓約どちらでも大丈夫。今回は制約の方だな。自分が提示した条件を、自分そして相手が同意したら契約は出来る。
あと契約魔法はそれなりに魔力を消費するのだが、より複雑で条件が多いと必要魔力も多くなる。なので簡単で分かりやすく、条件が少ないのが基本だ。契約魔法には段階がある。
まず最初は契約状態。条件や内容などを考え、自身と相手が同意する事。そしてその条件をお互いが同意して初めて成約状態となる。この状態は契約が成り立ち、まだ続いてるという状態だ。例えば1年間、人を襲わない契約なら1年間、成約状態が続く。
そして最後に執行だ。条件が守れた場合は契約魔法が解除され、守れなかった場合は、守れなかった時の対処が執行される。守れなかった場合、死ぬという契約内容でも実際に執行され、もちろん死ぬ。契約魔法というが呪術に近いものがある。
契約魔法は契約者が契約対象に、契約内容を言って、その内容を相手が同意して初めて魔法が発動する。つまり俺の契約に同意しなければ、鑑定士は逃げたと思われてしまう事になるので、俺の契約内容を断る事が出来ないだろう。まぁ逃げても喉が潰れるから、どっちにしろ逃げれないだろうが。
ちなみにレイアが迷宮ボス部屋で使った契約魔法〈主への想い〉は、レイアが作り出した魔法なので、契約魔法と似て非なる魔法だと俺は思う。
「早くしてくれないか?魔法を維持してるだけでもそれなりにキツいんだよ」
俺の足元には白い魔法陣が輝いている。この白の魔法陣は、契約魔法を使った際に現れる。これが発動してる場合は、本当に契約魔法を使っているかすぐ分かるのだ。
「…分かった。その条件を飲もう」
「では成約だな」
契約魔法は次の段階に進む。成約させると、相手の右手の甲に成約の紋章が浮かび上がる。俺の手の甲には特に何も浮かばない。魔法を使用した者の手には成約の紋章が浮かばないのだ。ただ成約状態の場合に、もし相手が契約内容を守れず執行された場合、使用者は執行された事が感覚で分かるのだとか。便利すぎだよ魔法さん!
こういう魔法だから悪用される事もあるのだとか。まぁ消費魔力も多いし、契約魔法は無属性魔法の中では意外に難しい魔法なので、使える者はそこまでいないとの事だ。
「では鑑定させてもらう。〈鑑定〉」
ふむ。ちゃんと鑑定の魔法を使っているな。鑑定のLvは、無属性魔法のLvが上がれば、鑑定Lvも一緒に上がる。鑑定のLvが1でも鑑定は出来るし、最高品質のポーションかどうか分かるだろう。ちなみにポーションはレア度が低いので、ほとんどの情報が分かるだろう。レア度が高い物を鑑定する場合はそれなりの鑑定レベルがないと名前しか分からない。
鑑定のLvは、Lvが上がるにつれて鑑定した時の情報が増える。もちろん俺のLvは10だから全て見えるが。
鑑定士は下級ポーションと下級魔力ポーションを念を入れて鑑定する。まぁ間違った言葉をいえば喉が潰れるしまうので当然か。そして鑑定が終わったのかこちらに近付いてくる。
「鑑定が終わった。この下級ポーションと下級魔力ポーションは…」
「お、おい早く言えよ!」
「気になるだろ!」
「わ、分かっている!…この下級ポーションと下級魔力ポーションは…全て最高品質だ」
鑑定士がいうと、右手の成約の紋章がフッ…と消える。紋章が消えたという事は、成約状態から執行されたという事だ。それを見て鑑定士は安堵の呼吸を見せる。
「契約は執行された。本物の鑑定士だな」
「当たり前だ!これでも私はこの王都では名の知れた鑑定士だぞ!」
「ならその名のしれた鑑定士様のお墨付きを貰いたいな」
自分で名の知れた鑑定士というのか。まぁ別にいいのだが。俺はアイテムボックスから紙と羽ペンを出して鑑定士に渡す。
「失礼な奴だがまぁいいだろう。……ん?この紙…書きやすいし、白いな。良い紙だな」
「あっ気になりますか?これは最高級紙というのですよー!実はこの店の近くに、レナルドのなんでも屋という店がありましてね、そこで今日から売り出しているんですよ!気になったのなら是非行かれては?」
ちゃっかり最高級紙の宣伝も挟む。この鑑定士も紙をよく使いそうだし、宣伝しても損はないだろ。
「考えておく。ほら書けたぞ。だが驚いたぞ。この量の最高品質。迷宮から取ってきたのではないのだろう?最高品質は無属性魔法Lv10にならないと作れないからな」
「そうだな。誰かは教えられないが作れる者はいる」
当たり前だが、はいぼくでーす!なんていう訳がない。そんな事をしたら抱え込みたい貴族や、下手したら王家が狙ってくる。それこそ人生敗北ですわ。…つまんないな。まぁぶっちゃけそこまで敗北ではないが、誰が作っているか隠しておけば、誰を狙っていいか分からないだろうし、闇雲に襲ってくるバカな真似はしないだろう。…たぶん。
「誰が作っているか教えられないのは当然だな。でなければ厄介な貴族に目を付けられるからな。まぁだが、この量の最高品質のポーションを売っていれば、最高品質を作れる者がいると言ってるようなものだからな。気を付けろよ」
「分かっている。問題ない」
「では、俺はこれで失礼する」
鑑定士はマリナの道具屋から出ていく。俺は鑑定士が書いたお墨付きの紙を見る。
「名の知れた鑑定士オズモール…か。」
また何処かで会うことがあるだろうな。その時はゆっくり話がしたい。
「ルークさん、ありがとうございます!」
「いいんだよ」
俺は店の奥に戻る。もしかしたら鑑定士が来るだろうと、店の中にいただけだからな。その後、オズモールのお墨付きの紙があるだけで、ポーションは飛ぶように売れている。その冒険者たちは口々に「あのオズモールさんが鑑定したなら」と言っていた。本当に名の知れた鑑定士だったのか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
鑑定士が帰ってから10分ぐらいだろうか?暇だからエリナちゃんを抱っこして、また店の中に戻って来た。ちなみにリリナは商品棚のポーションが無くなったら補充する係だ。とはいってもまだ子供だから、そこまで早く補充できないが周りは温かい目で見守っている。
ここで主婦?みたいな格好のおばさ…いやお姉さんが木の籠を持って入ってくる。そのお姉さんが冒険者に声をかける。
「すいません。火の魔道具を使わないで簡単に火を起こせる道具があるという噂を聞いたのですが」
すると周りにいる冒険者が言葉を返す。
「そんな便利なもんある訳ないだろ。火を起こすには火の魔道士か、火の魔道具を使う。後は自力で火を起こすだけだ。簡単に火を起こす事が出来る道具があるなら俺達も欲しいぜ」
「そうだな。野営に火の魔道士がいないと辛いよな。そんな簡単に火を起こせる道具があるなら革命だぞ?」
「ですが、この噂はミルハイムさんから流されたみたいで、ミルハイムさんなら信憑性があると思って来たのです。このマリナの道具屋には簡単に火を起こせる道具があって便利だと…」
「確かにミルハイムさんなら信用できるが…」
そんな事を話していると、マリナは何か揉め事かと思って声を掛ける。
「どうしましたか?」
「店長さんですか?この店に、簡単に火を起こせる道具があると、ミルハイムさんの噂を聞いたのですが、本当にあるのですか?」
「あぁ〜!マッチの事ですね!ありますよ!」
「マッチ?ってかあるのか!?」
「はい!こちらの商品が簡単に火を起こせる道具となっています!」
「この箱?みたいな物がか?」
「では説明しながら実際にやってみましょう!」
俺は実際に使ってるところを客に見せた方が早いし、使い方もすぐ分かるだろうという事で、客に披露するマッチは何個か渡している。仕組みとかいわれても理解できないだろうし、実演販売の方がいいだろう。
マリナはその客達にマッチの使い方などを客に教えながら説明する。
「……という事ですね!」
「こりゃすごい商品だな!」
「ええ。そうね!棒の赤い場所を、箱のザラザラの場所で擦るだけで火が着くなんて!」
「冒険者は野営や松明に、主婦は料理をする時に、簡単に火を起こす事が出来ますよ!この箱1つで10本入り大銅貨1枚です!100本入りは銀貨1枚になります!」
「値段もそこまで高くねぇな!10本入りを5箱くれ!」
「私は100本入りを1箱!」
「はい!少々お待ちくださいね!」
マッチはどんどん売れていく。恐らく明日や明後日には噂になって更に売れるだろう。受け入れられて嬉しい事だ。だが俺が本当に一番嬉しいのは…
「ありがとうございました!」
「こっちこそありがとう!これで火を着ける大変な作業なんてしなくてすむ!」
「ほんと、料理も火を着けるのは苦労するんだよ。ありがとうね!」
「いえ!また来てくださいね!」
俺が一番嬉しいのは、マリナのあの笑顔だ。実に生き生きして良い顔をしている。本当に商売が好きなんだなって俺は思った。マリナなら大丈夫そうだ。リリナも笑顔一杯で手伝っているし。
俺は静かにエリナちゃんと一緒にマリナとリリナを見守るのであった。
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