表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/19

8話 偶然少女を救う

 食っては寝る、食っては寝る。

 ただこのサイクルを繰り返すこと数十年。

 俺は暇だった。

 やることが喰うか寝るかしかないのだから当然だろう。

 代わり映えのない森の景色に、相変わらず味が分からない食事。

 体は成長を遂に止めてしまったが、もう大きいというレベルではなかった。

 完全にモンスターか何かだよこれ。

 ワニの皮を被った怪物だよこんなもの。

 絶対にパニック映画とかに出てきそう。

 そのサイズは人間さえ一飲み出来そうだった。

 だが外見や行動はどう考えてもクロコダイル科のものなんだよなぁ。

 その事を不思議に思いつつ、今日も獲物を喰らうため、巣から入水した。












 いつもと同じ晴れの日で、いつもと同じ獲物を待って、いつもと同じように寝る予定だった。

 いつもと同じではないことが起きた。

 沼の端、そこに初めて見るものがあったのだ。

 それは緑の体色をした巨大な豚のような何か。

 そう、ファンタジーの薄い本のお友達で有名なオークが数匹いたのだ。

 うち一匹は沼に足を踏み入れた状態で、沼に背を向けていた。

 何かを囲っているようにも見えた。

 これには俺も新鮮さを感じて硬直する。

 しかしこんな考えが頭に走った。

 あれを喰らえば何日喰わずとも過ごせるだろうか。

 自分でも歪んでるなと思うが、ワニとしての生活が長すぎた。

 人としてのモラルは消えつつあった。

 勿論自分が元人間だというのは覚えているが、何歳で何をしていて、何と言う名前だったかはもう忘れてしまった。

 故に迷わなかった。

 オークを喰らうことに。

 最早慣れた動きだ。

 音もなく静かに泳ぎ、オークの背後に迫る。

 オークは何かに集中していて、俺の方を見向きもしない。

 好都合だ、逃げられたら嫌だし。

 さらに近づく。

 オークが下品な笑い声を上げている。

 そうして自分の履いていたマワシのような物を脱ごうとし始めた。

 トイレでもするのだろうか?

 何にしても、喰った時にはやめてほしいが。

 尾に力を入れる。

 いつでも飛び出せるようにスタンバイする。

 まだだ、まだ逃げられる。

 まだ近づく。

 すーと水面に小さな波が起こる。

 完全にマワシを脱ぎきった、油断している。

 その隙を40年以上ワニとして過ごした俺が逃すわけなかった。


 爆弾が炸裂したかのような爆音と共に水中から飛び出し、オークの頭に食らいつく。

 は? という間抜けな声を遺して、オークの上半身が俺の口腔に消えた。

 がっちり食らいついたことを確認した俺は、そのまま沼へと戻る。

 仮に口から逃れても、完全に逃げられないように。

 悲鳴をあげることすら許されず、オークは俺により沼の中へ。

 ワニは顎を開ける力より閉じる力の方が強い。

 その重さ約2000~2300キロ。

 しかしこれはナイルワニの物。

 俺はナイルワニよりも遥かにデカイ。

 それを考慮すると噛む力はその数十倍。

 普通の生き物の骨では耐えられない。

 グシャリと潰れる音が水中に響き渡る。

 歯の構造上引き裂くことには向いてないワニ。

 故に絶命したことを確認したのち、一旦口からオークを放して腕に食らいつく。

 そしてそのまま俺自身の体を高速で回転させて腕を喰い千切る。

 デスロール、ワニの必殺技とも呼ばれている補食法だ。

 そうやってデスロールを織り混ぜながら喰いつくし、沼を血で染め上げる。

 その血の臭いと味が、ワニの肉食動物としての本能を滾らせる。

 さらに、もっと食わせろと欲が増える。

 俺はまたオークを喰らうため水上に目だけ出す。

 残るオークは二匹。

 そしてオークに挟まれる形で、少女がいた。

 しかし今の俺にはそんな少女目に写らない。

 もっと喰いたいという欲望に、忠実に、オークだけ狙って襲いかかった。

 結果としてオークは全滅し、十分腹が張った俺は少女のことなどすっかり忘れ、そのまま巣へ戻った。

 これがまさか、神として崇められるはめになるきっかけだとは思いもよらずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ