6話 ワニ、引っ越しをする
さらに年月が流れて俺の体が、ワニの常識のサイズを遥かに越えるサイズになった。
ここまで来ると、俺はワニのような何かという方が正しい気がしてきた。
沼ももう窮屈に感じ、巣も拡張を続けてきたが限界になってきた。
そろそろ住居を変えるべきか。
この故郷の沼地を離れるのは辛い。
しかし俺にはもう狭いのも事実。
このまま居続けても良いことはないだろう。
そう思った俺は一週間後、新たな水辺を求めて旅に出ることを計画した。
ちょうど俺のいる沼には水が流れ込んでくる小川があった。
水が流れ込んでくると言うことは、水が涌き出ている場所があるということ。
つまり上流に向けて大移動するのだ。
もしかしたら小さな水源で、暮らせないかもしれない。
そのときはまたここまで戻ってきて打開策を考えればいい。
下流に下るということもできなくはないし。
そう考え出したなら早速行動だ。
俺はいつもよりも多く食べて、大移動の際に飢えに悩まなくてすむようにしようとした。
この一週間でどれだけ太れるかが勝負の鍵だった。
結果から言えば運良く多くの鳥や動物がこの沼地を訪れ、俺は太ることに成功した。
この蓄えた脂肪を燃焼しつつ、上流へ移動するのだ。
いざ、出発!
気合いを入れて、俺の異世界での初めての冒険が始まった。
小川に沿って進むこと数時間、早くも俺はバテそうだった。
それはそうだ、ワニは本来水辺から離れない。
そもそも地上を動くのに向いていない体なのだから当たり前だ。
それでも一歩一歩確実に進む。
体が大きいから一歩が大きい。
つまり速度が早い。
少なくとも人間の歩行よりは早いはず。
そうポジティブに考えながら進んでいく。
というか前向きに考えなければやってられない。
進めど進めど森森森。
見えるものは全て木木木。
全く景色が変わらない。
それもまた苦痛だった。
そもそも迷わず進めているのかと思うほどだ。
小川がなければ遭難確実だったぞ。
無駄に大きくなった体を揺らし、邪魔する木々をぶち折りながら進む。
そうしてさらに進むこと数時間。
俺のワニとしての本能が匂いを嗅ぎとった。
水の臭い、それも小川から漂うものより濃い!
俺は喉の乾いた旅人のように駆け出した。
ドスドスと地面を踏み鳴らし、全速力で走る。
ワニはその形態上、地上では短距離走。
つまりすぐバテるのだが、このときは不思議と体力が尽きなかった。
よほど体が水を欲していたのだろう。
走る、走る、走る。
そうしてついに木々が消えて視界が広がった。
そこにあったのはまた沼だった……。
ま、またかよぉ!
あ、でも前よりは遥かに広いぞ!