3話 初めての狩り
水の中は不思議と落ち着いた。
あの暗闇……おそらく卵の中にいたときと似たような感覚を得れた。
何故だろうか?
水は全ての母と言うが、それがもしかしたら関係しているかもしれない。
何にしても初めてのワニとしての水泳なのに、驚くほどスムーズに泳げている。
これも本能によるものだろうか?
誰に教わると言うわけでもなく、自然と出来ている。
それにしても幼体とは言え泳ぐのが早い。
人間の頃の俺より早いんじゃないか?
そんなことを思いながら進んでいく。
目は瞬膜と呼ばれる器官で保護されていて、水中でもよく見える。
人間だったら泥でなにも見えなかっただろう。
そういえるほど水の中は泥が舞い上がっていた。
それでもとくに問題がなく、前がある程度見えるのはワニのおかげだろう。
そうして尾を振り優雅とも言える水泳を続けること数分後。
空腹感も強くなってきた頃、獲物を見つけた。
それは藻などで影ができていた場所。
幾つかの魚の群れがそこに隠れていた。
今の俺の顔くらいある大きさの魚ばかり。
きっと本当はもっと小さいのだろうが、今の俺が小さいから相対的に大きく見えるのだろう。
故に、腹を満たすには上等と見た。
気づかれないようにそっと近づく。
ゆっくりゆっくりと。
気配を殺して近づく。
水音さえもたてないように、静かに静かに……。
やがて魚との距離はかなり近くなり、いつ襲いかかってもいいだろう。
だからこそ慎重に、飛び出すタイミングを計り、爆発させるように尾を振った。
瞬間矢のように体が飛び出し、魚へと食らいつく。
頭を押さえた。
逃げようと暴れる魚、逃がさないように顎に力をいれる俺。
押さえつけたまま水面へと浮上して、魚がさらに逃げれないようにする。
そうしてゆっくりと魚をずらし、喉へと送り込んだ。
魚が腹へと落ちてくる感覚が伝わる。
上手くいった。
初めての狩り。
これも本能によるものだろうか?
自然とどうすればいいのかわかった。
どういう風に泳ぐのかと同じように。
そういえば歩くときもそうだったな。
普通二足歩行から四足歩行に変わったら動きづらいはず。
なのに俺は特に何の苦もなく歩けていた。
本能って凄いな。
人間は教えられないと出来ないのに。
改めて生き物の強さを知った気がした。
そうして俺はこの一匹では満足できず、累計三匹喰らい、やがて巣へと帰った。
そうして藁に包まれて思った。
これが夢なんてオチはないだろうな。
あまりにも感覚がリアル過ぎた。
これは現実だと理解させられるには十分すぎた。
なら、もうワニとして生きていくしかないのだ。
その覚悟を決めなくてはならない。
そう思った俺は、巣で満腹感から来る睡魔に身を任せつつ、今後どうやって生きていくのかを明日考えようと決めるのであった。
これが、俺がこの世界に来てから最初の日の終わりとなった。




