2話 状況を整理します
落ち着け、クールになれ俺。
まず状況を整理しよう。
水面に写っていたのはワニだ。
牙が見えていたり、腹が地面に触れてないところからして、多分クロコダイル系。
爬虫類好きだからこう言うことも詳しい。
自慢にもならないけど。
さて目の前には巨大な湖。
後ろには巨大な藁。
いや違うなこれ、巨大なんじゃなくて俺が小さいのか。
空を見上げる。
空の半分は青、もう半分は黒。
恐らく天井か何かがあるのだろうな。
よし、もう一度水面を見よう。
ズイッと顔を突き出す。
やっぱワニが写ってる。
どういうことだってばよ。
い、今起こってることを説明させてくれ。
俺は死んだと思っていたら、何故かワニになっていた。
な、何をいっているのか分からないと思うが、俺も何が起こっているのかさっぱりわからねぇ。
頭がどうにかなりそうだぜ。
しかもこの辺りのサイズからして恐らく子供。
親はどうした、クロコダイル系は卵や幼体を親が守る傾向があったはずだけど。
辺りを見渡しても親らしきものは全く居ない。
そういえば巣らしき俺がいた藁の中にも、他に卵のようなものは全くなかった。
まさか一人っ子か? 一人っ子なのか?
パニックになって辺りをあわあわ彷徨く。
仕方ないだろう。
死んだと思っていたらワニだぞワニ。
転生とか憧れもする。
とくに最近流行りの異世界転生。
あーいうチートを持って、無双して、女の子にもてはやされて、羨ましくない男はいないと思う。
いや、少数くらいはいるか。
とにかく転生するならするで人間がよかった。
まさかワニだとは。
ワニ、それもクロコダイル系といっても種類は沢山ある。
アメリカ、ナイル、イリエ、ヌマ、ざっと思い浮かぶだけでも4種類。
流石にどんなクロコダイル系ワニかまでは分からない。
いやそもそもここは異世界なのか?
ワニだし、現実世界に転生した可能性もあり得るぞ。
もし現実世界なら俺ヤバイかもしれない。
ワニ革とよく言うじゃない?
時代によると思うが、ワニ革の需要が高く狩猟の規制もない時期に生まれてしまったと言うなら、もう死んだのと同然みたいな気がする。
そもそも規制なあっても密漁の可能性もあるわけで。
憂鬱だ……。
何が悲しくてこんな転生しなくていけないのだ。
俺が何をしたと言うのだ。
悲観が広がっていく。
もうこのまま巣に籠っていたかった。
だがどうしようもないものがある。
生きている以上直面する大問題、それは食欲。
こうして色々考えて、絶望して、悲観して。
そうしている間にも俺の腹は減り続けていた。
小さな腹の音が辺りに響く。
静かだからよく聞こえた。
意識すると空腹が襲ってくる。
……とりあえず飯を探すか。
餓死だけは嫌だった。
それは果たしてワニの本能か、それとも俺の意思か。
何にしても、俺は少しの恐怖と少しの好奇心を胸に、湖に見えた水の中へと体を沈めていくのであった。