18話 因縁に決着を
飛竜に襲われた村人たちを沼地に集めてもらう。
まさか飛竜が村を襲うとは。
村人たちは口々にお救いくださいと俺に強請って来る。
まてまて、俺も命がかかってる以上助けるけどさ。
まずは状況を整理しようか。
村人たちの言うところによると、突然飛竜が村にやって来て、お供え物にする予定だったものを奪わんと暴れだしたらしい。
幸いお供え物は守れたし、皆エルフだからかそこそこ頑丈で、怪我はあれど死人はなかったらしい。
取り戻すお供え物を狙ったというところで俺の耳にピクリと来た。
あの野郎だ。
前に俺からお供え物を奪っていったやつだ。
無意識に怒りの唸り声が漏れて、村人たちを少し怯えさせてしまう。
それについては申し訳ないと、ミーシャの口を借りて伝える。
さて、問題はあの飛竜をどう倒すかだな。
飛んでいるから、俺の攻撃のほとんどが届かない。
俺もドラゴンみたいに炎が撃てたらな。
だが、無いものはないのだ。
どうしたものかと俺が考えていると、ミーシャがこんなことを言い出した。
「沼神様、私は一応泥魔法が使えます。戦闘に使えるかは微妙ですが……役には立つと思います」
村人の前なので敬語を使う彼女はそう言った。
泥魔法? 聞いたことがないが、おそらく土魔法のようなものだろう。
なんにしても遠距離の敵を攻撃できる手段があるなら良しだ。
早速やって来るだろう飛竜への対策を、俺たちは考えることにした。
そうして時間は少したち、飛竜が村人たちを追ってここにやって来た。
おそらく村を荒らしていてためか、ここに来るのに時間がかかったのだろう。
なんにしてもお陰で反撃の準備はできた。
村人たちには狩猟で使う弓を引いてもらう。
もちろん飛竜の分厚い外殻を、粗末な矢で撃ち抜くことはできないだろう。
だが注意を引くことはできる。
放たれた矢が唸り風を切り、しかし飛竜の体に当たっては跳ね返りむなしく地に落ちる。
それでいい。
注意を向けられた村人たちは急いで沼に逃げ込む。
俺以外に沼に人を食えるような肉食はいないから、安心して飛び込める。
飛び込んだ村人たちは所定の位置へ泳ぐ。
それを追って飛竜が宙を舞う。
所定の位置で頭だけ水面から出して待機してるミーシャが言う。
「まだダメなの?」
早く打ちたい気持ちはわかるが当たる距離じゃないと、俺の本能が告げる。
だからだめだ。
作戦はこうだ。
村人たちに囮になってもらって、俺とミーシャのいる位置まで誘導してもらう。
位置まで来たら、ミーシャが飛竜の目目掛けて泥魔法を飛ばす。
命中したのならミーシャに、泥魔法で空目掛けて濁流を起こして俺を発射する。
後は俺が飛竜の首に噛みつければ決着だ。
なかなか悪くはないと思うが、上手くいってくれるといいが。
この作戦は飛竜の知能の高さによっては崩壊するからな。
低いことを祈るしかない。
獣らしく目の前の獲物を追ってくれればいいが。
俺の心配はどうやら杞憂だったようだ。
作戦通り飛竜は村人たちを狙って、高度を低くして迫ってくる。
まだだ、ミーシャに指示する。
村人たちは必死で泳ぐ。
飛竜が追いかける。
まだだ……そうして待つ。
やがて飛竜は村人を捕獲しようとさらに高度を落として迫る。
まだだ。
「クロ、射たせて! このままじゃ!」
だめだ、まだ待つんだ。
焦る気持ちはわかるが、当たらなければこの作戦はオジャンだ。
そうして飛竜は村人まで、その爪を立てるには十分な距離まで近づいた。
ここだ! これなら当たる!
ミーシャ!
「言われなくても!!」
ミーシャの腕から放たれる泥水。
それは狂いなく飛竜の目玉に直撃した。
奴が急に視力を失ったことで、飛行のバランスを軽く崩しつつ、沼の水面まで降りていく。
それを見逃さない。
ミーシャに濁流を打ち出してもらい、俺はそれを尾と後ろ足に感じなから飛んだ。
それはまさにロケット、もしくは弾丸。
数十メートル近くある巨体が空を飛んだ。
そのまま飛竜の喉元目掛けて、食らいつく。
丸いキバが、飛竜の固い外殻を砕いて皮膚に突き刺さる。
恐ろしい顎の力があれば、外殻を潰すことも可能だ。
そして俺の重い体重によって、飛竜も俺も重力に従い沼に落ちる。
爆音と共に俺たちは沼に沈み、俺のホームグラウンドに飛竜を引きずり下ろせた。
ほぼ勝ちは決まった。
自然の世界はいつものこうだ。
カッコいい剣での切り合いも、映える魔法の打ち合いもない。
一撃必殺、殺れなかったら殺られる。
そして今回、俺が殺った。
お前から学んだことだ飛竜。
お前があの時まぐれとはいえ救ってくれなかったら、俺はこの掟を学べず死んでいた。
だからこれはある意味因縁と言えるのだろう。
この因縁に、俺のトラウマに決着をつける。
水中で体を回転させ、逃げようとする飛竜を逃げられないようにする。
強制的に回転させることで、酸素を維持してられないようにする。
飛竜が苦しそうに暴れる。
逃がさない。
もう運命は決まったのだ。
デスロールからは逃げられない。
そうして飛竜の抵抗は空しく、息絶えるその時まで俺は回り続けた。