17話 飛竜襲来
ミーシャさんと一緒に暮らし初めて数週間がたった。
一人っきりの生活に花が咲き、会話が生まれた。
何より目にいい。
ただ申し訳ないという気も起きる。
彼女は好きでもない俺の命のために、形だけとはいえ嫁になってくれているのだ。
それを気にしないでと言ってるが、気になるものは気になる。
彼女にだって普通に恋愛する権利があったのに、それを俺が剥奪してしまったようなものだ。
そう考えるとな。
まあそれでも、役得という気持ちが強くなってしまうのは非リア充だった男の性か。
それにしても、俺との会話を可能にする巫女の術は非常に興味が湧くな。
一体どういったものなんだろう。
ミーシャさん曰く、エルフの能力の一つである植物の声を聞く力の応用だそうだ。
普通に暮らしていたら開花しないそうで、習得するには特殊な修行が必要らしい。
ミーシャさんも習得に半月かかったらしく、巫女修行のほとんどはこれだったそうだ。
それは大変だっただろう。
なのに結果俺のことがわかってしまい、神なんていないことに気付いてしまうのは酷な話だ。
「本当だよもう……」
そう言いながら滝で体を洗うミーシャ。
どうやら沼神の巫女は巫女服のみしか着用してはならないらしく、脱ぐことも沼神との夜伽の時以外許されないらしい。
衣類というより体の一部として扱うらしく、体を洗うときも脱がずに一緒に洗うそうだ。
まあ夜伽をすることはあり得ないだろうし、ミーシャさんがこの痴女じみた巫女服を脱ぐときはもう無いだろう。
そもそも仮に、天地がひっくり返って夜伽をすることになったとして、俺の息子が入るのかという話だが。
体に見合ったドデカイものだからな。
まあ他の爬虫類と違って、一本という意味ではまだましか。
他の爬虫類は基本二本だからな。
いくらでかくても使うことがなければ意味ないし、そもそもでかすぎると使うときに困るし。
参ったものだ。
「……いやらしいこと考えてない?」
おっとミーシャさんに叱られてしまった。
実際下のことを考えていたわけだし、仕方ないか。
しかし性欲がなくなって本当に良かった。
こんな光景、前世でみたら絶対理性崩壊もんだよ。
そんな下らないことを考えつつ、俺はミーシャさんを見つめていた。
今日も今日とて食事を求めて祭壇にミーシャさんと共に向かった。
するといつものように置いてくれてる。
ミーシャさんは俺の背から降りて、食事を始める。
俺は基本ミーシャさんの食事を待つことが多い。
何せ一口で終わってしまうから。
食べ終わったらミーシャさんを沼から見守る。
傷つけるものがいないか辺りを見回しながら。
まあ、基本生態系の頂点にいる俺が守るミーシャさんに、危害を出そうとする馬鹿な奴はいないんだけど。
念を入れていつも見ている。
しかし小動物のようにハムハムと食事をするミーシャさんは実に目の保養になるな。
ずっと見ていられる可愛らしさがあって癒される。
「……ん?っ沼神様!!」
ミーシャさんが呼ぶ。
ミーシャさんは俺が沼神じゃないとわかった日から、プライベートでは俺のことを、俺が伝えた種族名クロコダイル科から取ってクロと呼ぶ。
沼神様と呼ぶときは、村人が近くにいるときか、沼神としての仕事をするとき。
ほとんどは村人が近くにいるときだったが、今回は違うみたいだ。
なんだと思って首をあげる。
すると村がある方角から煙が立っていた。
さらに沼地から村人たちが走ってきていた。
ただ事じゃない。
そう思った俺は沼から半身を出す。
「何があったの!?」
ミーシャさんが村人に早速聞いてくれる。
すると村人たちが答えてくれた。
その内容に、俺は因縁を感じずに入られなかった。
「飛竜だ! 飛竜が襲ってきた!!」